「ティール組織」って本から勝手に学んだ知恵の作り方

ティール組織」って本がある。
10万部くらい売れた組織論のベストセラーだ。表紙はこんなかんじ。

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3〜4年前にこの本を初めて読んだが、そのときに「すごく面白いな」と思った。この記事では、「ティール組織」の内容には立ち入らない(というかあまり覚えていない)が、どの観点から面白いと思ったかを書いてみようと思う。

端的にいうと、著者のフレデリック・ラルーさんの、「知恵の使い方が面白いな」と感じたのだ。実際にはラルーさんもインテグラル理論など既存の理論を参考にしながら、また言及していないけど参考にした本とかもあるかもしれないし、詳しいことは知らないが、あくまで僕が最初に読んだときに感じた「知恵の使い方」の観点を2つ紹介してみたい。

ティール組織」は、「ティール組織と名付けたくなる、最近発生してきた新しい組織のパラダイムってこんなかんじですよ」と提示する本であるが、

冒頭で、すべての「組織」を5つの色に分けている。組織の発展段階に応じて、レッド組織、アンバー組織、オレンジ組織、グリーン組織、ティール組織という5つ「組織の発展段階」が示されている。例えば、レッド組織は狼の群れのような、強烈なリーダーがいてその人に逆らうと殺されてしまうような力による支配の組織で、初期の組織形態。アンバー組織は、、、、のように説明がされている(実際には、繊細な解釈が必要なので詳しくは本を参照)。

この冒頭の色分けを見たときに、「あぁずいぶんと壮大な視点だな」と思った。新しい組織パラダイムを提示する本を書こうと思ったときに、普通は「新しさ」ばかりに目がいくのに、グッと視野を広げて、「そもそも組織ってものは、その歴史的観点からどう整理されるのか」と考えたのはすごい。

「今から自分は、組織のパラダイムシフトっていう歴史的なレベルのことを扱うとしている。それなら、壮大な視野を持って考え始めようじゃないか」と思い、このような壮大な視野のもとで知恵を作ろうとしたのなら、素晴らしいことだし、非常にワクワクする態度である。

「壮大な視野を持って知恵を作ろうとする」。歴史的に重要な知恵を作ろうとするならば、これは重要だろう。これが「ティール組織」から学んだ一点目。

その後、本はティール組織の説明に入っていくが、著者は今までにない組織的特徴(リーダーシップのあり方など)を持っている組織を結構な数選んで、ヒアリングなどをすることで、そこから3つくらいのキーワードを抽出して、ティール組織の概念を形成したと説明している。

実際の作業としては、冒頭に書かれている組織の分類より先にこっちのヒアリングとかを行ったのかなとは思うが、「何やら新しい組織的特徴が出てきているぞ」という予感から始めているのは面白い。ここには直感が働いているのだろう。

どういうことか。新しい組織的特徴という意味では別に変な組織は色々あったはずだ。つまり、「これは本質的と呼びたくなる新しさを含んでそうだな」とか「私のセンサーにビビッとくるな」っていう基準が隠れていたはずである。

例えば、「新しい料理のパラダイム」を探すことになったとして、「めっちゃ熱い料理」「めっちゃでっかい料理」とかを探してもそれらは新しいかもしれないが、深堀りしても面白いことにはならないだろう。「あ、これは新しいな。そしてその新しさは本質的な意味合いを含んでそうだな」と感じる直感を働かせないと、このアプローチは成立しないように思える。

基本的には知恵の形成という場面において、その根拠づけなどに「直感」が入ってくるのはあまりよろしくないと考えられている。人によって異なりうる直感なんてものを構成要素にする知恵ってどうなのというわけだ。暗に「直感を働かせました」と言っている知恵の形成は新鮮である。

つまり、「直感」ーーー特に多くの人が「何か大事なことがここに隠れているよね、きっと。あ!そうか!これか!」と感じるような直感を、もちろんティール組織においては冒頭の理論がそうであるように他の裏付けもあった上ではあるが、知恵を作るという文脈においてその真ん中に入れ込むのはありだなと思ったわけだ。

このことから、今までの(特にアカデミアやちゃんとした理論づくりにおいては)、「あたりをつけるのに直感は使うけど、最後は理論づけをする。そして最終成果物には直感の部分は含まない」という形式でしか直感は知恵づくりに入ってこなかった気がするが、直感をもっと知的生産のど真ん中にもってくることもできそうだなと思わされた。

これが2点目の面白さ。

最後に、(著者によって)使われている知恵について総合的に見てみる。すると、壮大な視点から知恵を作ろうとする態度と、直感を手がかりにヒアリングでミクロ現象を捉えようとする態度の両方が見えてくる。このなかなかブレンドするのが難しい2つの態度がうまくつながっているところに、「ティール組織」という本の素晴らしさを感じる。

壮大な視点からの知恵がミクロ的な視点に支えられ、ミクロ的な視点における直感が壮大な視点からの知恵に支えられる、そんなかんじだ。

組織論の専門家からは、特に壮大な視点による知恵については厳しい批判が入りうるのだろうが(正直僕も、自分の専門分野にこういう学術的ではない本が出てきたらどう反応してしまうかは分からないが)、やっぱり当時はこの本に対して「かっこいい知恵の使い方だな」と感じたし、この記事を書いている今でもそのチャレンジングさには尊敬の念を抱かざるを得ない。

Fin.