ゲーム理論@浦和高校 Part2

復習すると、

「ゲーム的状況」をちゃんと分析するための理論が欲しい。数学を使ってそれを作ってみよう、というのが僕たちの現在地です。

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「でも、なんでいきなり数学が出てくるの」と思うかもしれないので、数学を使うことの魅力をいくつか紹介しておきます。

・まず、数学を使うと概念をクリアに定義でき、議論の流れについても何を言っているかごまかしづらいです。”ちゃんとした分析”をしたいという目的に数学という道具は相性がいいと思います。

・また、数学のすごい発見(定理)の力を上手く借りることで(日常言語などで)普通に考えるのでは分からなかったことが分かったりします。

・最後に、これは同意してもらえるか怪しいですが、数学をやっているとたまに「数学の世界って美しいな」と思う瞬間があったりします。そんな美しさを秘めた道具を使うってなんかいいなって気もします。

もう少し議論を深めることもできますが、一旦は、数学は厳密性にその特徴を持っているため、「ちゃんと考えよう」とするのと相性が良いくらいに思っていただけたらと思います。

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では、「ゲーム的状況」を分析するための理論を数学で作っていこう。さぁどこから始めようか。そう言われても、ちょっと検討もつかなくないですか?

先人たちはこの問題にどう立ち向かったのかを見ていきます。

ただし、今回やるのは「全部の理論を作り上げること」ではありません。というか、そんなものはゲーム理論そのものですし、今でも新しい知見が日々作られていっています。今回僕たちがやりたいのは、「ゲーム的状況」を描写する「ゲーム」という概念を作ることです。一番の基盤となる概念を作るわけです。

ここから「ゲーム」という概念(の定義)を理解するための旅が始まります。

本当は、定義をいきなり紹介しても良いのですが、ここでは、どんなかんじにその定義に辿り着くのかを見ていく紹介の手順を取ります。

今回の概念づくりにおいても、ゲーム理論以前の枠組みをヒントにしながらやっていきます。ゲーム理論以前の枠組みとして、買い物の例と企業の例が出てきましたが、あのような意思決定の状況は、簡単にいってしまえば、

<誰が意思決定をするのか、その人の取りうる選択肢は何か、各選択肢を取ったときのその人の嬉しさは何か>

で記述できそうです(先ほど出てきた「潜在的に取りうる選択肢」と「実際に取ることができる選択肢」のような区別はここでは無視)。この3つを特定すればゲーム理論以前の枠組みが扱おうとしている状況を記述することができそうです。

そこで、ゲーム理論以前の枠組みが扱っていた状況を以下のように、「単純な意思決定の状況」という概念で定式化しておきましょう。本当は「ゲーム理論が捉えようとしている状況」を記述する概念が欲しいわけですが、そのヒントとするためにまずは、ゲーム理論以前の枠組みが扱っていた状況を記述する「単純な意思決定の状況」という概念を作ってみるわけです。

定義1:
「単純な意思決定の状況」とは、< i,A_i,u_i >のことである。ここでiは意思主体を表したもの、A_iはそのiさんが取りうる選択肢の集合、u_iiさんの嬉しさの構造を表すもの。ただし、u_iA_iの各要素にある実数を対応させるもの(数学的にはu_iA_iから実数全体の集合への関数)。


何をいっているか分からないと思うので、具体例として、「E君がスーパで買い物をする状況」を考えてみましょう。

純化のためにE君がスーパーで取りうる選択肢は

a_1=バナナ1本を100円で買う
a_2=バナナ2本を200円で買う
a_3=何も買わない

の3つだとすると(とんだスーパーですね。笑)、この状況は

< E、\{a_1,a_2,a_3\}、u_{E} >

で表されることになります。なお、u_{E}はE君の「嬉しさの構造(Utilityの構造)」を表すもので、例えばu_{E}(a_1)=10u_{E}(a_2)=5u_{E}(a_1)=0のようになります。u_{E}(a_1)=10はE君にとってa_1という選択肢を選んだときの嬉しさは10という意味です。つまり、E君はこのケースだとa_1が一番嬉しい選択肢ということになるので、a_1を選択することになります。

この< E、\{a_1,a_2,a_3\}、u_{E} >がゲーム理論以前の枠組みが分析する「単純な意思決定の状況」の例です。

他にも例えば、僕が朝にベットから出るか出ないかを意思決定するような状況を記述する「単純な意思決定の状況」として、< 俺、\{ベットから出る、まだ寝る\}u_{俺} >、ただしu_{俺}(ベットから出る)=-100u_{俺}(まだ寝る)=100などを考えることができます。

これで「単純な意思決定の状況」のイメージを掴めたと思います。

先ほどの定義は慣れない形式で少しびっくりしたかもしれませんが、主張しているのは、「単純な意思決定の状況」とは<誰が意思決定をするのか、その人の取りうる選択肢は何か、各選択肢を取ったときのその人の嬉しさは何か>の3つの情報で特定されるもののことですよというのに過ぎません。最後の文はここでは無視して良いので、もう一度定義を見てみましょう。

定義1:
「単純な意思決定の状況」とは、< i,A_i,u_i >のことである。ここでiは意思主体を表したもの、A_iはそのiさんが取りうる選択肢の集合、u_iiさんの嬉しさの構造を表すもの。ただし、u_iA_iの各要素にある実数を対応させるもの(数学的にはu_iA_iから実数全体の集合への関数)。

いま我々は、ゲーム理論以前の枠組みが扱っていた状況を定式化しました。これを参考にしながら、どうにかして、ゲーム理論が扱う状況を「ゲーム」という概念として定式化したいです。

ポイントとなりそうなことを見てみましょう。

「自分の嬉しさが自分の選択だけではなくて相手の選択にも依存していて、相手の嬉しさもまた相手の選択だけでなく自分の選択にも依存している」という状況を描写したいわけですので、

登場人物は少なくとも「自分」と「相手」がいないとなので(特殊ケースとして自分しかいないケースを含んでもいいかもしれませんが)、意思決定の主体はiさんと表される1人ではなくて、複数人いるとした方がいいでしょう。すると、iの部分については\{1,・・・,n\}のように1からnさんまでがいるみたいに修正することになりそうです。

A_iiさんが取りうる選択肢の集合でしたが、今回は1さんからnさんまでいるので、A_1からA_nまで、つまり1さんの選択肢の集合からnさんの選択肢の集合まで必要だろう。u_iについても同様に、1さんからnさんまでいるので、u_1からu_nまでそれぞれの人の嬉しさの構造を特定した方がいいだろう。

とこんなかんじの思考が背後にあるわけですが、細かい話は一旦飛ばして、「ゲーム」の定義を見てみましょう。

定義2:
「ゲーム」とは、< N,(A_1,...,A_n),(u_1,....,u_n) >のことである。ここでN=\{1,2,...,n\}は意思決定主体(プレイヤー)の集合、A_1,..,A_nはそれぞれ1さんからnさんが取りうる選択肢の集合、u_1,...,u_nはそれぞれ1さんからnさんの嬉しさの構造。ただし、u_1,..,u_nはそれぞれ A_1\times....\times  A_nから実数全体の集合への関数。

ちょっと難しい言葉もでてきますが、最後のところ以外はあまり難しくないです。

「ゲームとは< N,(A_1,...,A_n),(u_1,....,u_n) >のことである。ここでN=\{1,2,...,n\}は意思決定主体(プレイヤー)の集合、A_1,..,A_nはそれぞれ1さんからnさんが取りうる選択肢の集合、u_1,...,u_nはそれぞれ1さんからnさんの嬉しさの構造。」の部分は、

「ゲーム」っていう概念は、誰が意思決定をするか(意思決定者=プレーヤーの集合)と、それぞれのプレーヤーはどんな選択肢の集合に直面しているか、それぞれのプレーヤーの嬉しさの構造はどうなっているかを特定したものである、と言っているにすぎません。

ここまでは良いのですが、

u_1,..,u_nはそれぞれ A=A_1\times....\times  A_nから実数全体の集合への関数」の部分だけが難しいわけだ。この部分については、それぞれの用語についてPart3で説明するが、実はこの部分に前回見た2人の天才の「ひらめき」が美しく表現されいる。

この部分については一旦おいておきて、具体例を見てイメージを獲得しましょう。

プレーヤーの集合であるN=\{1,...,n\}は、2つの企業の値下げ競争の例でいえば、N=\{企業1、企業2\}となります。A_1A_2はそれぞれ企業1と企業2が取りうる行動の集合であすから、A_1={値下げする、値下げしない}、A_2={値下げする、値下げしない}となります。

表記を簡単にするために、値下げするという選択肢をd(=down)で表し、値下げしないをk(=keep)で表すことにすれば、A_1=\{d,k\}A_2=\{d,k\}となり、(A_1,A_2)については(\{d,k\},\{d,k\})となります。

なお、( )と{ }の違いについてはあまり考える必要はありませんが、{ }で2つのモノを囲った場合はそれはその2つからなる集合を表しており、( )で囲った場合はそれは単純に2つを組にしたもの(正確には、順序を気にして並べたものの)を表していると思ってください。(a,b)はただ単にaとbを並べたものですが、{a,b}はaとbからなる集合を表します。なお、<a,b>と書いたときも(a,b)と同じです。

残るは(u_1、u_2)でこれらは企業1と企業2の嬉しさの構造の組です。これの特定化はいまはいませんが、u_1u_2がそれぞれ企業1と企業2の嬉しさの構造を表すものであることを抑えてください。

よって2つの企業が値下げ競争をしているような状況は、
< \{企業1、企業2\}、(\{d,k\},\{d,k\})、(u_1,u_2) >という「ゲーム」で描写されます。

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u_1u_2について説明されておらずモヤモヤしていると思いますが、一旦ここでもう一度定義をじっくりと眺めてから、Part3に移りましょう。今一度定義を見てみると、最初に見た時よりも定義の気持ちが理解できるようになっているはずです。1語ずつ定義の内容を見るようにしてください(完璧な理解はPart3の最後にしますが、それは結構ハードルが高いので、ここで一度丁寧に定義を眺めておいてください)。

定義1:
「単純な意思決定の状況」とは、< i,A_i,u_i >のことである。ここでiは意思主体を表したもの、A_iはそのiさんが取りうる選択肢の集合、u_iiさんの嬉しさの構造を表すもの。ただし、u_iA_iの各要素にある実数を対応させるもの(数学的にはu_iA_iから実数全体の集合への関数)。

定義2:
「ゲーム」とは、< N,(A_1,...,A_n),(u_1,....,u_n) >のことである。ここでN=\{1,2,...,n\}は意思決定主体(プレイヤー)の集合、A_1,..,A_nはそれぞれ1さんからnさんが取りうる選択肢の集合、u_1,...,u_nはそれぞれ1さんからnさんの嬉しさの構造。ただし、u_1,..,u_nはそれぞれ A_1\times....\times  A_nから実数全体の集合への関数。

さて、次はいよいよこの定義を本格的に理解するPartです。いまは中途半端な地点ではありますが、このPart2で僕たちは2つも概念を定義してしまいました。理論っぽいものが少しずつできてきたわけです。Part1の「ひらめいた!」って段階からかなり前進したと思いませんか?

Part3はこちら