帰る街が海外にある、ということ。

 

「高校留学の魅力」について考える機会は多かった。なんのことはない自分自身が高校留学をしていたからだ。

僕は高校時代1年間メキシコに留学して、現地の高校に通いながら現地のホストファミリーと暮らした。珍しいようにも思えるが僕が利用したAFSという高校留学の団体からは、毎年数百人の高校生が日本から各国に旅立っていた。

新しい文化•暮らしに入っていき、知らなかった人たちと家族になり、知らなかった人たちと友達になり、現地の教育システムを身をもって体験する。

留学前は「なんか留学するといいことありそう」くらいの気持ちだったし、一定以上周りからの影響もあっての留学だったが(例えば小学生のときに留学生を受け入れた経験がある)、上記のような経験をして帰国すると、「とてもいい経験ができたな」と満足した。留学直後の自分に高校留学を他人に勧めるか聞いたらポジティブに答えたと思う。

ただ、どうやら僕より何十年も前に「高校留学」を経験した人たちの話を聞くと、高校留学の魅力(感受性豊かな時期に現地の家庭などに深く溶け込むことの魅力)は、年を重ねるごとに深まるらしかった。

「君はいま留学から帰ってきたわけだよね。大学時代や大人になってから世界中を旅するのもいいけど、数年ごとに留学した街に帰るのを繰り返すのもいいものだよ」

という言葉を貰ったりもした。

「へー、そうなんだ。自分としては積極的にメキシコ以外の国にも行って比較とかしたいけどな」というのが当時の正直な受け取りだったが、「どうやら高校留学にはまだまだ自分が知らない魅力が隠れているらしい」と思うようになった。



 

高校留学→1回目の再訪→2回目の再訪(いま)

大学生になった僕は夏休みにメキシコを初めて再訪した。そして大学院生のいま2回目の再訪をした。この記事は帰りの空港で書いている。

この記事の主役は、それぞれの再訪において起きた思わぬ心境の変化だ。留学先への再訪を通して何事にも代えられないと思うほどの、大切な心境の変化に出会えた。

おそらく高校留学に対して自分が感じる魅力は今後さらに深まっていくだろう。そういう意味ではまだ「高校留学の魅力」を語るには早いかもしれない。

とはいえ、2回の再訪を通して自分が感じたことは高校時代の自分には想像がつかないものではあったはずなので、高校時代の自分に向けて、2つの心境の変化について書いてみるのは何かしら意味はあるかもしれない。「僕は留学が終わったあとにこういう高校留学の魅力に出会えたよ」ということを書けたらと思う。

* 以下はすごく個人的な文章で備忘録ですが、例えば高校留学直後の人で、「基本的には留学に満足したけど他の選択肢と比べたときにも良い選択だったかは自信ない」みたいな人に対して「僕はこんな魅力にさらに出会えたよ」と伝えられるものにはなっているかもしれません。

留学中に飼っていた「ルーカス」

どんな所に留学してたの?

僕が住んでいたのはサンルイスポトシというメキシコの地方都市で人口は130万人くらい。広大な荒野の中にポツンとある都市です。

サンルイスポトシには、最新の商業施設から歴史的建造物まで一通り想像できるものはなんでもありますが、派手さを感じるエリアなどは見当たらず、落ち着いています。

それを反映してか、住んでいる人たちもなんだか穏やかで、「陽気なメキシコ人!」というイメージはあまり当てはまりません。気候もこれまた穏やかで気持ちのよい快晴が年中続くので、「メキシコの諸々穏やかな地方都市に留学していました」と言ってよさそうです。

今回の再訪時にできていた商業施設。

 


歴史的なエリア。

僕が暮らしていた家はサンルイスポトシの裕福な家庭が集まる地区にあり、ホストファザー、ホストマザー、ホストブラザーの3人と暮らしていました。学校も進学校で結構ちゃんとしていました。

概要としてはそんなかんじで留学時代の自分の様子でいうと、僕は日本では柔道部に入っていたので、メキシコ来てからも柔道やりたいと思ったんですね。それで友達を誘って休み時間に砂場で柔道をしてみたり、学校に「柔道クラブ作ってもいい?」と交渉してみたりなんてこともしてました(強引なやり方だったので普通に断られましたが)。

他にも参加を理不尽に強いられていると感じたイベントの参加をゴネたり、すごくローカルな地区に行きたくなってちょっと無理して訪れてみたり….みたいなかんじで、なんだか少し面倒くさいやつというか肩に力が入っていたように思います。

たぶん、「自分の考え」ができてきた時期で色々やってみたかったのだと思います。

メキシコにはメキシコのカルチャーがあることは分かる。それは尊重する。だけど僕には僕の考えがあるし、それを無視されるのは違うと思う。大事なのはコミュニケーションを取ることだよね。

みたいな考え方で(いやまぁそれ自体は立派な気もしますが中々そんなかんじではコミュニケーションなんて取れないよねぇとは思います)、「そこはもう少し上手くやったらいいのになぁ」と思うことでも上手くやることはできず、基本的には不器用なかんじに留学生活を送りました。

ただ色々問題はあったと思うのですが、家族や友達に恵まれたこともあり、大きなトラブルもなく最初から最後まで楽しく留学生活を送ることができました。

例えば柔道についても、学校では実現しませんでしたが近くの柔術教室のスペースを借りたりできました。また、街に柔道教室があることを偶然発見してそこで学校外の友達ができ、その柔道友達の家に泊まりに行ったりなんてこともありました。どれも良い思い出です。

当時の自分は誰にたいしても純粋に仲良くなりたいと思っていたし、色々と一生懸命だったので、(自分側の要因としては)その辺が楽しい留学に繋がったんじゃないかなと思います。日本に早く帰りたいと思ったことはなかったし、ホストファミリーから帰国が近くなったタイミングで、「よかったらもう1年メキシコにいない?」と誘われた時にはとても嬉しかったです。

 

ホストファミリーとの留学最終日の写真。

 

1回目の再訪

さて、最初の再訪ですがこの時は弟を連れていきました。歳が離れていて当時小6とかだったので弟にとっては大冒険です。

サンルイスポトシの空港は荒野の中にあるのですが(都市から少し離れているため着陸の直前には周りに建物などは小屋くらいしか見えない)、着陸するときに外を見た弟はやばいところに来た(街がない.....サボテンしかない.....)と勘違してびびるなんてこともありました。笑

空港には、ホストファミリーが迎えにきてくれました。久しぶりの再会です。

そしてそのまま車で家に向かったのですが、着いてみてびっくり。ドアの様子が僕の記憶と違うなと思ったら歓迎の装飾がしてありました。

 

これは嬉しい。

初めての里帰りだったこともあって忙しく色々な人と再会することになりました。また、週末にはホストファミリー主催の歓迎パーティーを開いてるもらったりもしました。パーティーを開いてもらえるありがたさもこの時には(留学中よりもしっかりと)感じました。

親戚や友達が集まってくれた。

10日ほどの滞在でしたが濃い時間になりました。そして最後に街を離れるとき。ふいに「あぁ自分はいままで自分が認識していたよりも何倍もの愛情をホストファミリーや友達たちから注いできて貰っていたのだな」と気づきました。

たぶん大学生になって少し大人になったことで、留学当時には気づかなかったちょっとした気遣いが分かるようになったり、弟を連れて行ったことで「何も分からない海外で面倒をみてもらう」という自分が留学時にしてもらったことを弟を通して再確認したり、そんなことが積み重なった結果だと思いますが、

「自分は留学中に色々な気遣いや愛を本当に多くの場所で受けてきたのだな。そしてそれは日本でもきっと同じで所々で多くの気遣いや愛を気づかないうちに受けているんだろうな」と思いました。そう例えば僕が友達と騒いでいたけど楽しそうにしているから周りの人が注意しないでそのままにしてくれていたなんてことも多くあったのだろうと思います。

そんなことを感じていたら、「なんだか社会ってのは極端な言い方をすれば愛で成り立っているんじゃないか」みたいな気持ちにまでなりました(「愛」とか「気遣い」とかそういうもののおかげで社会が機能している側面は思ったよりも大きいのかもしれないと思いました)。

まさかこんな気持ちになるとは。

大きな心境の変化でした。

 

2回目の再訪

そして今回の再訪ですが1人で行ってきました。2週間ほどの滞在です。前回が忙しすぎたことを受けて今回は会う人を絞るなど、里帰りがちょっと上手くなっていました。笑

今回の心境の変化はまずは行く直前にありました。

飛行機のチケットを取ったタイミングとかでは「またメキシコ行くぜ〜、家族や友達と会えるの楽しみだな〜」くらいのかんじで特に何も考えていませんでしたが、出発の2日くらい前になってくると気持ちも高まってきて色々考えたりするものです。

そうするといくつかの想いが出てきたりするのですが(あの料理食べたいなとかくだらないものも含めて。笑)、

その中の1つに、「あぁなんだか今回はホストファミリーに自分が愛を与える側になりたいな。できるかは分からないし慣れていないから難しそうだけど、そういう試みをしてみたいかもしれない」という想いが出てきました。

留学中には自分のことで精一杯だったけど、最初の再訪で「あぁ自分は色々な愛を受けてきたのだな」と気づけた。ただその時点では「本当にありがたいな」という感情になっただけで(それはそれですごく大事だけど)、そこから先については特に何もなかった。でも今回はまた違う気持ちになったわけです。

これも印象的な心境の変化でした。

そして実際に2回目の再訪をしてみて、(気遣いとかそういうレベルではあるけど)少しだけ自分から愛情を与えるような試みをすることができました(詳細は恥ずかしいから書かないけど。笑)

本当はホストファーザーと2人だけでご飯を食べにいってお喋りをする機会も作りたかったのだけど(ホストファーザーはいつも見守ってくれているかんじで1対1でゆっくり話す機会はなかなかないのだけど、きっと話したいと思っているのだろうなと感じる)、色々とあって今回は再訪ではその機会を作れませんでした。これは心残り。次回に持ち越しです。

そんなかんじで上手くいかなかったものもあるのですが、自分のことで精一杯だった留学時代とは全然違う気持ちを起点にいくつか行動することはできました。

そして、もうほんと頭が上がらないのだけど、自分が愛を与えようとするほどに、ホストファミリーからの愛をひしひしと感じました。これは心境の変化というかんじではないかもしれないけど、今までとは少し違うレベルで愛情を感じました。

 

再訪最終日に家族で伝統的なメキシコ料理。

 

改めて魅力を考える

以上が僕が2回の再訪で感じた心境の変化です。こういう心境の変化が留学先の街で時間を経ながら積み重なっていくことを味わえるのはなんともいえないものです。大きな心境の変化以外にも、サンルイスポトシという街に色々な感情や情景が積み重なっていきます。

これやっぱり大学の一般的な留学プログラム(特に寮などで生活するタイプ)とかだとなかなか難しい気がします。高校生というまだ自分では何もできない時期に家庭や地域に入り込むと深く人と関わらざるを得なくて、だからこそその後に大切な心情の積み重ねなどが可能になっていく側面はあると思います。

そして、海外ということもあって頻繁には帰りづらかったり文脈が日常と異なっているなどの断絶があることで、大きな心境の変化が起きやすかったり、それまでの心境との比較がくっきりしやすい側面もありそうです。

もちろん高校留学っていいことばかりではなくて多くのトラブルを聞くし、高校生には酷なのか鬱病になった友達などもそれなりの数います。

そういう側面は無視すべきではありませんが、留学先の街で日本での日常とはまた違うすごく大切なものが時間をかけながら積み重なっていく。日本と離れているからこそ、その積み重ねを純粋なものとしてくっきりと味わうことができる。

この「積み重なっていく感覚」こそが留学後に感じる「高校留学の魅力」だと思います。もちろん再訪したりすると留学中の失敗とか悲しい記憶とかを思い出すこともあるけど、そういうものに対する受け止めも年を経るごとに変わっていくわけで、その積み重ねもまた味わい深いように感じます。

 

「高校留学の魅力」としてこの点はすごく大事だなと思っています!


Fin.