中編:経済学部の授業を受ける前にやりたかったトレーニング

前編はこちら


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次に論理についてやっていきます。

論理について「ちゃんと理解できた!」となるのはこの記事では無理ですし、授業を理解するにあたってはその必要もあまりないです。 \forall\existsなどの記号が出てくる文を読めるようになることを目標にします。

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命題とは、「真であるか偽であるかのどちらかである文」のことです。

例えば、「32より大きい」は命題ですし、「1は100より小さい」も命題です。前者は真である命題であり、後者は偽である命題です。「猫はかわいい」などは真偽が客観的に定まるものではないので命題ではありません。ただし、「円周率\piを3.14...を表したときの88京333兆1000億桁目は7である」という文は「真か偽のどちらかである文」という意味では命題です(実際に答えを出すのがほぼ不可能であっても)。*1

なお、「xは3より大きい」はxに何であるかによって真偽が変わってしまい、これ自体は命題ではありません。しかし、「すべての(for all)」という意味である「 \forall」を用いて、「\forall x \in N\ \  x≥0」という文を考えたら、これは、すべての自然数xに対してx0より大きいという意味であり、真偽が定まるのでこれは命題です(この命題は真です)。

また、「あるーーが存在する(there exists)」という意味である \existsという記号を用いると、「 \exists x \in R\ \ x≥-100」のような命題を作ることができます。これは、「(少なくとも1つ)ある実数xが存在してx≥-100を満たす」と主張しています。この命題も真です。

いくつか例を出してみます。

\forall x \in R \ \ x\gt 0
すべての実数xに対してx\gt0が成り立つと主張しており、-1などの実数はx\gt0を満たさないため、これの命題は偽です。

\forall x \in N \ \ x+10\gt 0
すべての自然数xに対してx+10\gt0が成り立つと主張しており、この命題は真です。

\forall x \in \{1,2\} \ \ x\gt 0
\{1,2\}という集合に属するすべてのxに対して、x\gt0が成り立つと主張しており、x1の場合にもx2の場合にもx\gt0は成り立っているので、この命題は真です。

\exists x \in N \ \ x=0.5
少なくとも1つの自然数xに対して「 x=0.5」が成り立つと主張しており、そのような自然数は存在しないので、この命題は偽です。

以下の命題の真偽を答えよ。

(1)\forall x \in R \ \ x\gt0

(2)\forall x \in R_{++} \ \ x\gt0

(3)\forall x \in R_{+} \ \ x\gt0

答え:(1)については「実数全体からなる集合R」に属するすべてのxについてx\gt0が成り立つと主張していますが、例えばxとして-10を考えるとx\gt0は成り立たないので、\forall x \in R \ \ x\gt0という命題は偽です。

(2)は真、(3)は偽です。(3)についてはxとして0を考えるとx\gt0が成り立ちません。 \forallのときは1つでも成り立たないとダメなので偽になります。

以下の命題の真偽を答えよ。

(1)\forall x \in \{1,2\} \ \ x≥0

(2)\forall x \in \{1,2\} \ \ x≤10

(3)\forall x \in \{1,5,7\} \ \ x≤10

(4)\forall x \in \{1,5,9,12\} \ \ x≤10

答え:(1):真、(2):真、(3):真、(4):偽

(5)\exists x \in N \ \ x≥0.5

(6)\exists x \in N \ \ x≥700

(7)\exists x \in N \ \ x=0.6

(8)\exists x \in R \ \ x=0.6

答え:(5):真、(6):真、(7):偽、(8):真

(9)\exists x \in R_{+} \ \ x=0

(10)\exists x \in R_{++} \ \ x=0

(11)\exists x \in R_{++} \ \ x≤0

(12)\exists x \in R\setminus\{1\} \ \ x=1

答え:(5):偽、(6):真、(7):真、(8):偽

(11)についてはxとして0を考えるとx≤0が成り立つのでこの命題は真です。(12)についてはR\setminus\{1\}という集合に、1は属さないことに注意してください。つまり、R\setminus\{1\}には1以外の実数はすべて属していますが1は属しておらず、この集合のどの要素xについてもx=1は成り立たないので、この命題は偽です。

なお、ここでは\forall\existsという記号を使っていますが、\forallの代わりに言葉で「for all」と書いたり「for any」と書いたり「for every」と書いたりすることもあります(allとanyとeveryのどれを使うかはニュアンスの違いです)。また、\exists:の代わりに「there exists」と書くこともあります(むしろ宿題の回答などでは、for all やthere existsのように言葉で書く方がformalで望ましいです)。

以下の命題の真偽を答えよ。

(1)For any x \in N\ \ x\gt0

(2)For all x \in R\ \ x\gt0 

(3)There exists x \in R\ \ \gt0 

(4)There exists y \in \{1,2\}\ \ y\gt1 

答え:(1):真、(2):偽、(3):真、(4):真

(4)ではxではなくyを用いていますが、これは\{x\in R| x≥10\}と書くときにxyのどちらを使っても同じことだったように、xで書いたときと同じです。

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次に、\forall\existsを組み合わせた命題を見てみましょう。

\forall x\in \{1,2\} \ \exists y\in R\ \ y≥x

これは「\{1,2\}という集合に属するすべてのxに対して、Rに属するあるyが存在して、y≥xが成り立つ」という意味です。

この命題は真ですが、どう確かめるかというと、まずx1のとき、後ろの部分は\exists y\in R \ \ y≥1となりますが、これは成り立っています。次にx2のとき、後ろの部分は\exists y\in R \ \ y≥2となりますが、これも成り立っています。したがって、\{1,2\}に属するすべてのxに対して、\exists y\in R\ \ y≥xが成り立っていると確認できたので、この命題は真だと分かります。

\forall x\in \{1,2\} \ \exists y\in R\ \ y≥xという命題の順番を入れ替えて、
\exists y\in R \ \forall x\in \{1,2\}\ \ y≥xとしてみたらどういう意味でしょうか?

まず確認ですが、「\exists y\in R \ \forall x\in \{1,2\}\ \ y≥x」で1つの命題です。そして構造としては、Rに属する少なくとも1つのyに対して、「\forall x\in \{1,2\}\ \ y≥x」が成り立つとなっています。「『\forall x\in \{1,2\}\ \ y≥x』が真となるような実数yが1つはあるぜ!」ということです。

そして、その1つとして例えば、10が考えられます。y=10に対しては\forall x\in \{1,2\}\ \ y≥xは成り立っているため(xとして1を取ってきた場合はy≥xが成り立ちますし、xとして2を取ってきた場合もy≥xが成り立つからです)、「\exists y\in R \ \forall x\in \{1,2\}\ \ y≥x」は成り立っている(真である)と分かります。もちろんy=30y=1000を挙げてもよかったですが、「少なくとのy \in Rが存在して」ですから、10を挙げれば示したことになります。

\exists x\in R_{++} \ \exists y\in \{-1,-2\}\ \ y\gt xのパターンも確認しましょう。「少なくとも1つのx\in R_{++}が存在して、そのxに対して\exists y\in \{-1,-2\}\ \ y\gt xが成り立つ」と主張しています。意味を考えればこの命題は偽だと分かります。

そんなテキトーな話では納得できないという方は、色々な示し方がありますが、背理法でやってもいいと思います。仮にこの命題が真だとしましょう(そのように仮定してみましょう)。すると、ある\tilde{x}\in R_{++}とある\tilde{y}\in \{-1,-2\}が存在して、それらに対して\tilde{y}\gt \tilde{x}が成り立っていることになります(そのようなx,yは特別に注目しているものであるため"チルダ"と呼ばれるマーク上に付けてみましたが、別に付けなくもいいです)。

\tilde{x}R_{++}に属しているため\tilde{x}\gt0です。また\tilde{y} \{-1,-2\}に属しているため(-1-2のどちらであるかに関係なく、 \{-1,-2\}に属しているという情報から)\tilde{y}\lt0だと分かります。\tilde{x}\gt0\tilde{y}\lt0から、\tilde{x}\gt \tilde{y}だと分かりますが、これは先に想定していた\tilde{y}\gt \tilde{x}に矛盾します。*2よって「仮にこの命題が真だとしましょう」とした部分での想定はまずかったと分かり、ということはこの命題は偽であると分かります。

以下の命題の真偽を答えよ。

(1)\forall x\in \{1,2,3\} \ \exists y\in N\ \ y≥x

(2)\exists x\in \{1,2\} \ \forall y\in R\ \ y≥x

(3)\forall x\in N \ \exists y\in \{1,2\} \ \ y≥x

(4)\forall x\in \{1,2\} \ \forall y\in R\ \ y≥x

答え:(1):真、(2):偽、(3):偽、(4):偽

例えば(4)は「任意のx \in \{1,2\}に対して『任意のy\in Rに対してy≥x』が成り立つ」のように入れ子のような構造として捉えても良いですが(そちらの方が正確ですが)、「任意に取ってきたx\in \{1,2\}とそれと同時に任意に取ってきたy\in Rに対して、y≥xが成り立つ」のように、xyを並列なものとして見てしまって大丈夫です。

実際、「\forall」の代わりに「for all」を用いる場合には「For all x\in \{1,2\} ,for all y\in R\ \  y≥x」と書かずに、「For all x\in \{1,2\} ,all y\in R\ \ y≥x」のように「対して」の意味を持つ「For」は1回だけ書くことがほとんどです。また、「For any x\in \{1,2\} ,any y\in R\ \ y≥x」と書くこともありますし、「For all x\in \{1,2\} , y\in R\ \ y≥x」のように2つの目の「all」を省略することもあります。

\forall\existsの記号を使うと複雑な構造の命題を作ることができました。これから紹介する、\lnot\land\lor\Rightarrowなどを使うともっと多くの表現ができるようになります。

日常言語における「ではない」という単語は、ある文にくっつけるとその文を否定するような新しい文を作ってくれます。\lnotは日常言語の「ではない」のような働きをする論理記号です。そして発音も「ではない(でない)」です。\lnotは、命題Aに対して新しい命題「\lnot A」を作ってくれます。Aが真な命題であるとき、「\lnot A」は偽な命題になり、Aが偽な命題であるとき、「\lnot A」は真な命題になります。例えば、3≤1という命題は偽ですが、「\lnot 3≤1」という命題は真です。「\lnot 3≤1」は「3≤1ではない」と読みます。

\landは日常言語の「かつ」のような働きをする論理記号です。命題Aと命題Bに対して新しい命題「A\land B」を作ってくれます。ABがともに真な命題であるとき、「A\land B」は真な命題になり、それ以外のとき「A\land B」は偽な命題になります(これは日常言語の「かつ」の働きと一致していると思います)。3≥1\land 2≥0という命題は、2つの命題3≥12≥0\landでくっつけて作った1つの命題であり、「3≥1かつ2≥0」を読みます。3≥1が真であり、2≥0も真であるため、3≥1\land 2≥0も真だと分かります。

以下の命題の真偽を答えよ。

(1)\lnot 1≥3

(2)\lnot 3≥0

(3)3≥0 \land 3≥1

(4)3≥0 \land 3≥5

(5)\lnot \forall x\in R \ \ x≥0

答え:(1):真、(2):偽、(3):真、(4):偽、(5):真

最後の命題は、\forall x\in R \ \ x≥0という命題に\lnotをつけて作った命題です。\forall x\in R \ \ x≥0Aとおくと、\lnot Aという構造になっています。ここでAは偽ですから、\lnot Aは真となります。

\lorは日常言語の「または」のような働きをする論理記号です。命題Aと命題Bに対して新しい命題「A\lor B」を作ってくれます。ABの少なくとも片方が真なとき、「A\lor B」は真な命題となり、それ以外のとき(つまり、両方とも偽のとき)「A\land B」は偽な命題になります。日常言語の「または」の感覚とは少し異なっているかもしれませんが、論理記号の\lorについてはABが両方真なときもA\lor Bは真になります。「tex:3≥1 \lor 1≥0]は「3≥1または1≥0」と読みますが、これは真な命題です。\lorは日常言語の「または」と同じような働きをしますし、発音が同じなので言葉で言われたときはどちらを指しているか分かりませんが、あくまで論理記号で、その働きは上で説明した通りです。

以下の命題の真偽を答えよ。

(1)3≥1\lor \ 1≥10

(2)3≥10\lor \ 1≥10

(3)30≥1\lor \ 10≥5

(4)1≥10\lor \ 5≥0

答え:(1):真、(2):偽、(3):真、(4):偽

\Rightarrowは日常言語の「ならば」のような働きをする論理記号です。命題Aと命題Bに対して新しい命題「A\Rightarrow B」を作ってくれます。「A\Rightarrow B」という形式の命題がどのようなときに真になるかには少し注意が必要です(日常言語の「ならば」と感覚が違うはずなので)。ABの少なくとも両方が真なとき、「A\Rightarrow B」は真な命題となります。また、Aが偽であるときは、Bの真偽に関わらず「A\Rightarrow B」は真な命題となります。Aが真でBが偽なときのみ「A\Rightarrow B」は偽な命題になります。

1≥10 \Rightarrow 3≥1」という命題は、「110以上、ならば、31以上である」と読みますが、この「ならば」は日常言語の「ならば」ではなく論理記号の\Rightarrowであり、この命題は1≥10の部分が偽であるため真になります。

以下の命題の真偽を答えよ。

(1)0≥100\Rightarrow  \ 1≥10

(2)0≥100\Rightarrow  \ 5≥0

(3)30≥1\Rightarrow  \ 10≥5

(4)3≥1\Rightarrow \ 1≥10

答え:(1):真、(2):真、(3):真、(4):偽

(1)と(2)はノータイムで答えましょう。Aが偽のときBの真偽に関わらずA\Rightarrow Bは真になるので、後ろの1≥105≥0の部分を見るまでもなく真だと判断できます。(3)や(4)のは、Aの部分が真であるため、Bの部分を見る必要があり、Bの部分が真のときは真、Bの部分が偽のときは偽であると判断できます。

一通り説明が終わったので、もう少し問題をやりましょう。基本的には日常言語と同じように捉えれば良いですが\Rightarrowが出てきたときと、両方真である命題に対して\lorが使われているときには、日常言語とは感覚が異なり得るので注意してください。

以下の命題の真偽を答えよ。

(1)\lnot \ 3≥1

(2)10≥1\land \ 10≥2

(3)30≥1\lor \ 1≥5

(4)30≥1\lor \ 10≥5

答え:(1):偽、(2):真、(3):真、(4):真

(5)\lnot 0≥1

(6)3≥10\Rightarrow \ 1≥10

(7)3≥1\Rightarrow \ 1≥10

(8)3≥1\land \ 1≥10

答え:(5):真、(6):真、(7):偽、(8):偽

実はここまでの内容でかなり多くのことが表現できるようになりました。例えば次の命題はどういう意味でしょうか?また、その真偽はどうなるでしょうか?

5≥0 \lor \ 4≥1\land1≥10\Rightarrow 4≥1

という命題を考えましょう。これ全部で1つの命題です。どうやって真偽を判断したら良いでしょうか。こういうときは全体の大きな構造を抑えるのがオススメです。[5≥0 \lor \ 4≥1 ]の部分も1つの命題ですからこれをAとおき、[1≥10\Rightarrow 4≥1]の部分をBとおくと、大きな構造としては、A\land Bになっていることが分かります。そしたら後はABの真偽をそれぞれ見れば良いです。ABも真であることが分かりますから、この全体の命題は真な命題と真な命題を\landでくっつけたものだと分かるので、全体の命題は真になります。

もう1つ見てみます。

0≥5 \lor \ 0≥1\lor10≥0\Rightarrow 4≥1

これも同じように考えれば、[0≥5 \lor \ 0≥1 ]の部分が偽、[10≥0\Rightarrow 4≥1]の部分が真だと分かるので、「[0≥5 \lor \ 0≥1\lor10≥0\Rightarrow 4≥1]」という命題は真だと分かります。

次にもう少し複雑にします。

For any x \in R_{++} [x≥0 \land x≥-1]

任意の正の実数xに対して [x≥0 \land x≥-1]が成り立つという命題ですが、これは真になります。xとして1を考えても[x≥0 \land x≥-1]は成り立ちますし、他にxとしてどんな正の実数を考えても [x≥0 \land x≥-1]が成り立つ(真になる)からです。

For any x \in R [x≥0 \land x≥-1]

だとどうでしょうか?これはR_{++}のときと違って偽になります。例えばxとして-10を考えると [x≥0 \land x≥-1]は成り立たないからです。

もちろん、

There exists x \in R [x≥0 \land x≥-1]

だと真になります。例えばxとして5を考えれば[x≥0 \land x≥-1]が成り立つからです。

For any x \in R [x≥-1 \land -1≥x]

はどうでしょうか?これは偽です。

対して

There exists x \in R [x≥-1 \land -1≥x]

は真です。xとして-1を考えればいいからです。

For any x \in R [x≥-1 \lor -1≥x]

は真になります。確認してみてください。

同じようなかんじですが、
For any x \in R [x≥-1 \Rightarrow x≥0]

のような命題には注意が必要です。

主張としては、すべての実数xについて[x≥-1 \Rightarrow x≥0]という命題が成り立っていると主張しています。結論としてはこの命題は真になりますが、丁寧にその理由を見てみます。まず-1未満の実数xについては[x≥-1 \Rightarrow x≥0]という命題は真になります(x≥-1の部分が偽であるため)。次に-1以上の実数xについても[x≥-1 \Rightarrow x≥0]という命題は真になります(x≥-1x≥0も真であるから)。以上より全体の命題は真になります。

また、

For any x \in R_{++} [-1≥x \Rightarrow -10≥x]

は真になります。これはどんな正の実数xについて考えても-1≥xの部分が真になるため[-1≥x \Rightarrow -10≥x]が真になるからです。全ての正の実数xに対して [-1≥x \Rightarrow -10≥x]はたしかに成り立っています。

以下の命題の真偽を答えよ。

(1)For any x \in R_{++} [x≥10 \land x≥-1]

(2)For any x \in R [x≥0 \lor 10≥x]

(3)For any x \in R_{+} [x≥-10 \land x≥-1]

(4)For any x \in R [x≥0 \Rightarrow -10≥x]

答え:(1):偽、(2):真、(3):真、(4):偽

最後のは少し難しいかもしれませんが、xとして10を考えると [x≥0 \Rightarrow -10≥x]は成り立っていないことが分かります。なお、(4)の"For any"が"There exists"であればこの命題は真になります(例えばxとして-1を考えれば良いから)。

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ここで教科書を読むときに注意が必要な表記について紹介します。

For all x \in R (with x≥1)    x≥0

のように"with"を使った文が出てくることがあります。

これは、

全ての実数x(ただし1以上)に対してx≥0成り立つ。

という意味であり、この命題は真です。

"with"を使わずに同じことを書こうと思ったら

For all x \in \{x \in R \ |\ x≥1\}  x≥0

とすれば良いです。

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以上で論理の基本については終わりです。

論理記号を使って複雑な構造も表現できるようになったので、\{x \in R \ |\ x≥1\}のような単純な集合の指定以外にも色々な集合の指定ができるようになりました。

例えば、\{x \in N \ |\ x≥5\}自然数の中で | の後ろの条件を満たすもの全体からなる集合でしたが、\{x \in N \ |\ x≥5 \ \land\  10≥x \}と書いたらこれは自然数の中でx≥5 \ \land\  10≥xという条件を満たすもの全体からなる集合を表します。

もっと複雑に、\{x \in N \ |\ \exists y \in \{4,5\} \  y≥x  \}などの表現もできます。この集合は自然数の中で \exists y \in \{4,5\} \  y≥xを満たすもの全体からなる集合ですが、\{1,2,3,4,5\}になります。\{x \in N \ |\ \forall y \in \{4,5\}  \ y≥x  \}だとこれは\{1,2,3,4\}になります。確認してみてください。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1)\{x \in N \ |\ x≥5 \ \land \  8≥x \} = \{5,6,7,8\}

(2)\{x \in N \ |\ 4≥x \ \lor \  2≥x \} = \{1,2,3,4\}

(3)\{x \in N \ |\ \forall y \in \{3\} \  y≥x  \}=\{1,2,3\}

(4) \{x \in N \ |\ \exists y \in \{0,1\} \  2y≥x  \}=\{1,2\}

最後のは少し難しいですが、例えばxとして3を考えてみると、これは\exists y \in \{0,1\}\   2y≥x という条件は満たしません、すなわち\exists y \in \{0,1\}  \ 2y≥3 は真ではないです。xとして45を考えても同じです。12の場合は\exists y \in \{0,1\}  \ 2y≥x は成り立ちます。このように考えると分かると思います。

なお、\{x \ |\ x≥N \ \land \  3≥x \} のような表記をすることもあります。| の前に書いてあるのが単純なxになっていることに注目してください。このxは| の前の部分においては特にどの集合に属するかが指定されておらず、範囲はなんでもいいというかんじです。ここは感覚で慣れるしかありませんが、範囲が指定されていない何でもいい対象物xの中で、x≥N \ \land \  3≥x という条件を満たすもの全体からなる集合というかんじになります。したがって、\{x \ |\ x≥N \ \land \  3≥x \}=\{1,2,3\} です。

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最後に「部分集合」と「べき集合」という概念を紹介します。

まずは部分集合についてです。例を出すと、集合\{1,2,3\}は集合\{1,2,3,4\}の部分集合です。集合\{1,2\}も集合\{1,2,3,4\}の部分集合です。

集合Aが集合Bの部分であるとは、「全てのxに対して『x\in A \Rightarrow x\in B』」と定義されます。少し気持ち悪いかもしれませんがこのxも特に範囲は指定されておらず、すべての対象物xに対して『x\in A \Rightarrow x\in B』が成り立つとき、集合Aを集合Bの部分集合と呼びます。

「集合\{1,2,3\}は集合\{1,2,3,4\}の部分集合である」を定義にしたがって確認してみましょう。たしかにどんなものxを考えても、それが\{1,2,3\}に属している場合は\{1,2,3,4\}にも属しているので、x\in A \Rightarrow x\in Bを満たしますし、それが\{1,2,3\}に属していない場合でもx\in A \Rightarrow x\in Bを満たします。よって\{1,2,3\}\{1,2,3,4\}の部分集合です。

また、この定義にしたがえば、\{1,2,3,4\}自身も\{1,2,3,4\}の部分集合になります。なお、注意すべき点として空集合\phi\{1,2,3,4\}の部分集合になります。なぜかというと、すべてのものxについて、x\in \phi \Rightarrow x\in \{1,2,3,4\}が成り立つからです(「\Rightarrowの前の部分が必ず偽であるから)。空集合はすべての集合の部分集合です。

定義は少しややこしいかんじでしたが、「集合Aに属しているやつらがどれも集合Bに属していれば集合Aは集合Bの部分集合になる」と簡単にイメージで捉えてしまえば大丈夫です。

\{1,2\}の部分集合は4つで、

\{1\}\{2\}\{1,2\}\phiです。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1)\{1,2\}\{1,2,3\}の部分集合である。

(2)\{1,2\}\{1,2\}の部分集合である。

(3)空集合\{1,2,3\}の部分集合である。

(4)\{1,2,3\}\{1,2\}の部分集合ではない。

いま見た「部分集合」という概念を使って「べき集合」は定義されます。

集合Aのべき集合とは、集合Aの部分集合全体からなる集合です。

つまり、\{1,2\}のべき集合は、

\{ \{1\},\ \{2\},\  \{1,2\},\  \phi\}という集合です。

なお表記として、集合Aのべき集合は2^Aと書きます。

先ほどの例でいえば、

2^{\{1,2\}}=\{ \{1\},\ \{2\},\  \{1,2\},\  \phi\}です。

この概念は定義自体は簡単ですが間違いやすいです。

例えば、1\{1,2\}のべき集合には含まれません。

べき集合はあくまで部分集合全体からなる集合であり、その要素は集合です。

1\notin 2^{\{1,2\}}ではありますが、\{1\}\in 2^{\{1,2\}}です。

つまり\{1\}\{1,2\}のべき集合に含まれます。

また、\phi\{1,2\}のべき集合に含まれます。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1)\{1,2\} \in 2^A ここでA=\{1,2,3\}

(2)\{1,2,3\} \in 2^A ここでA=\{1,2,3\}

(3)\{1\} \in 2^A ここでA=\{1,2,3\}

(4)\phi \in 2^A ここでA=\{1,2,3\}

また、集合Aが集合Bの部分集合であるとき、A\subset Bと書きます。例えば\{1\} \subset \ \{1,2,3\}です。また、\{1,2,3\} \subset \ \{1,2,3\}です。

ここで少し難しいですが、N \subset \ R\{1\}\subset Nも確認してみてください。また、閉集合[0,1]もRの部分集合です(昔僕はこれが分からないで先生に質問したら"当たり前のこと聞くな”と怒られてしまいましたが、結構難しい気がしています)。まず、N \subset \ Rについてですが、NRも集合であることを思い出してください。N=\{1,2,3,\cdots\}のように具体的にイメージしてみるとN \subset \ Rが分かると思います。

\{1\}\subset Nについては「\{1\}に属するやつら(1のみ)は全部Nに属するから\{1\}\subset Nだな」と分かります。[0,1]\subset Rについても同じように閉区間[0,1]がどんなイメージの集合であったかを思い出すと分かると思います。

以上で中編は終了です。お疲れ様でした!

この前と同様にコラムは後編を読むのに必須なのでぜひ読んでみてください。

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コラム:ちょっと復習

復習のために、前編で見た概念の応用例を紹介します。例えば(1,1)11日と解釈することにしましょう。(12,24)1224日と解釈することにします。

このように解釈すると、「1年間の全部の日にちからなる集合」はどうなるでしょうか(ただし229日は入れてあげることにしましょう)?

もちろん\{(1,1), (1,2) \cdots, (12,31)\}のように書き出していってもいいのですが、もう少し上手い方法はないでしょうか?まずは次の集合を考えてみます。

\{1,2,3,...,12\}\times \{1,2,3,...,31\}

この集合にはちゃんと(1,1)(12,24)が属しており、いいかんじです。

しかし、(2,31)などいくつかあり得ないものも属してしまっています。

このあたりの修正しましょう。

表記を簡単にするためにいま作った集合をAで表しましょう。

そして、Aに属するものの中であり得ない日にちの集合をBで表しましょう。

つまり、B= \{(2,30),(2,31),(4,31),(6,31),(9,31),(11,31)\}です。

すると、欲しかった集合は、A\setminus Bと表されます。

直積集合と集合の引き算を使って表すことができました。

 

コラム:2^42^{\{4\}}は違う。

集合Aのべき集合を2^Aと表すのは、正直いってややこしい表記です。

これは慣れるしかないですが、2^42^{\{4\}}は違うので注意してください。前者は肩に乗っているのが単なる数字です。これは中学数学でやった通りただの24乗ですから16となります。

対して後者は2の肩に乗っているのが集合ですから、べき集合を表していると分かります。\{4\}のべき集合は\{4\}の部分集合全体からなる集合ですから、2^{\{4\}}=\{\phi, \ \{4\}\}です。

 

コラム:2^AA\times Aも混同しやすいので注意。

この2つも混乱しがちなので、確認しておきます。

\phiは、2^{\{2\}}に属していますが\{2\} \times \{2\}には属していません。22^{\{2\}}にも\{2\} \times \{2\}にも属していません。

\{2\} \times \{2\}=\{(2,2)\}を思い出してください。またこれを\{2\}^2と表記することもあることも思い出してください。



コラム:べき集合って役立つの?

べき集合が役立つのはどんな時でしょうか。応用例を考えてみます。

例1(パーティー

あなたはクラス全員を「明日ホームパーティーに来てね」と誘いました。自分を除いたクラスメートの集合は I=\{a,....,z\}aさんからzさんまでいます。

もちろん都合がつかない人もいるでしょうから、全員が来てくれるとは限りません。しかし誰がくるかによって明日どのゲームをやるかなどが変わってきます。そこであなたは「誰と誰がきたらこのゲームをやろう」のような計画を立てたいとします。

ここで\{a,b,c\}を「aさん、bさん、cさんの3人だけがパーティーにくる状況」と解釈することにしましょう。すると、べき集合2^Iは何を表すでしょうか?

実はこの集合は、ぴったりと「明日のパーティーに誰がくるかのあり得るパターンすべてからなる集合」になっています。\{a,b,c,d,e,f,g\}もちゃんと入っていますし、aさんだけが来るような\{a\}もちゃんと入っています。また、\phi2^Iの要素ですがこれは「誰もこない状況」と解釈されます。反対に「全員が来る状況」と解釈されるIもこの集合に入っています。

例2(赤点)

あなたは来週5教科のテストを受けることになっています。それが終わったら長期休暇です。しかし、赤点を取ってしまった場合には補習があり予定を変更する必要があります。「国語と理科が赤点だったらこうしよう」のように状況ごとの計画を立てておく必要があります。

S=\{\text{ma, en, ja, sc, so}\}として教科の集合を作ります(maはmathを表しています)。このようにしたとき、べき集合2^Sは何を表すでしょうか?

\{\text{ma,en}\}を「数学と英語だけが赤点になった状況」と解釈すれば、実は2^Sという集合は「ありうる全ての赤点教科のパターンからなる集合」になっています。\{\text{ja}\}は「国語だけが赤点になった状況」と解釈されこれもちゃんと入っています。自分はこの集合の要素それぞれに対して計画を立てればいいことになり今回の文脈において役立つ集合になりました。

例3(ワクチン)

この例は重要です。あなたは現在流行している感染症のワクチン担当大臣で、国民にワクチンを打ってもらうための様々な施作をする必要があります。

現在のワクチンの接種状況を確認してそれによって今後の計画を決めます。ここで国民の集合をI=\{1,....,128000000\}とします。例えば\{1,2,3\}を「1さんから3さんまでの国民だけがワクチンを接種した状況」と解釈すると、先ほどと同じように2^Iは「全てのありうるワクチン接種状況からなる集合」になります。I自身もこの集合に属しており、「全員がワクチンを接種済みの状況」と解釈されます。I\setminus \{1\}2^Iに属していて、「1さん以外の全員がワクチンを接種した状況」と解釈されます。

場合によっては2^Iを用いてありうる状況をすべて考慮するのが妥当なケースもあるかもしれませんが、今回は「ワクチンを打った人数は少なくとも1000人はいるし、多くても600万人だな」と分かっているとしましょう。2^Iのままでは、誰もワクチンを打っていない状況と解釈される\phiなども入ってしまっています。そこで、2^Iに属するものの中から、「全員が打っている」、「誰も打っていない」、「1さんと2さんだけが打っている」のような今回持っている情報のもとでありえないものを排除した集合を指定できないでしょうか?

つまり、2^Iの要素の中で、その集合に属している個人の数が1000以上600万以上であるもの全体からなる集合を作れないでしょうか?

実はそのような集合は\{B\in 2^I | \  1000≤ |B|≤6000000\ \}と表現できます(なお、ここに重要な表記が出てきています。集合Bに対して|B|Bの要素数を表します。つまりB=\{1,2,3,4\}のとき|B|=4です。)。

\{B\in 2^I | \  1000≤ |B|≤6000000\ \}についてよく見てみましょう。この集合は、2^Iに属するB(これは抽象的にBを使っているだけでCでもなんでもいいです)の中で|の右側の条件:1000≤ |B|≤6000000を満たすもの全体からなる集合です。つまり、集合2^Iに属するものの中で、(それをBで表したときに)|B|が1000以上600万以上という条件を満たすもの全体からなる集合を表しています。

したがって、\{1,2,3,...,1200\}は上の集合に属します。しかし「誰もワクチンを打っていない状況」を表す\phiは上の集合には属しませんし、\{1,2,3,...,999\}という「1さんから999さんだけが打った状況」も属しません。

今回の情報のもとで欲しかった集合:
\{B\in 2^I | \  1000≤ |B|≤6000000\ \}

以上の例のように、「べき集合」を用いると色々な表現をできます。


後編はこちら:今度更新。

*1:この例は、神谷先生・浦井先生の「経済学のための数学入門」p15を参考にしました。

*2:正確には矛盾とは「A」という命題と「Aではない」という命題が同時に成り立ってしまうことを指します。