そういえば放置していた難問。

社会問題に関心がある大学生の方と話す機会があった。その時に、僕は次のような(哲学的な)問題に自分が興味を持っていたことを思い出した。

例えば犬の殺処分の問題。殺処分されそうな犬を保護して新しい飼い主を探すような活動があるとする。そのような活動はとても素晴らしいと思う。だけど、そのような活動が広く知られるようになると、もしかしたらこれから犬を飼おうとする人や、犬を捨てるか悩んでいる人たちが「あ、こういう活動が広がってきているんだ。それなら自分が犬を捨ててしまっても大丈夫かもな」と考えるようになるかもしれない。助けられた犬にとっては、その活動は確実に「良いこと」だと思うけれど、未来への効果も含めてトータルとしてその活動を「良いこと」と判断して良いかは簡単には分からない。

これは社会問題に限らず、例えば「OO年に起きたある交通事故」に注目したときに、その事故自体は避けるべきものではあるけれど、もしかしたらその事故があったことで交通事故に対する意識が高まってその後10年の事故の量が大きく減ったということがあるかもしれない。そうすると、やはりトータルでどう考えたら良いかは分からない。加えて、仮にその事故によってその後の10年の事故が減ったとしても、それによって慢心してしまい、その次の10年については事故が増えることもあるかもしれない。もっといえば、事故によって交通事故に対する警察の意識が高まり、交通事故を減らすことに寄与したが、その代わりに、そこに注力するあまり、他のタイプの事故・犯罪が増えてしまった可能性もあるかもしれない。

こうやって考えていくと、ある活動や出来事について「良い/悪い」を判断したりするのは難しい気がしてくる。とはいえ、ある活動・出来事について「良い/悪い」を判断することはできない、という立場を単純に取るのでは、「じゃあ殺処分されそうな犬を助ける活動がある世界とない世界の2つがあるとき、その2つの世界の望ましさはあなたにとって変わらないということ?」と聞かれると答えに困る。

どういう枠組みを考えたらいいんだろう。ちょっと検討がつかないけど、せっかく自分は経済学の中でも哲学的な領域にいるので、いつか考えてみようと思う。放置しておくには大事すぎる問題だし、何より挑みがいがある問題だ。

Fin.