この記事では1つ前の記事(松井先生コアミクロの補足:アローの不可能性定理。)に出てきたAsymmetric Partなどについての補足説明をしておきます。
去年(2021年)のコアミクロの宿題2などに解説があると思いますが、それだけ読んでも理解するのは難しいと思うので一応簡単に説明しておこうと思った次第です。基本的には読者として松井先生のコアミクロを現在受けている人を想定していますが、「選好」について勉強中の人にも役立つとは思います。なお、この記事で採用している用語は教科書や分野によって異なるので注意は必要です。
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選好の定式化について理解するために、必要となる数学の話をまずは見ていきます。
数学的準備
集合 上の二項関係とは直積集合 の部分集合のことである。例えば のときややなどはどれも上の二項関係である。なお注意が必要な点として、自身や空集合も上の二項関係である。
「集合上の二項関係とは直積集合の部分集合のことである」という定義はとても重要なので暗記しておくと良いと思う。他にも例を出すと のとき、上の二項関係の例として、、、、、、などが挙げられる。
そして、上の二項関係について、そのAsymmetric Partはと定義され、そのSymmetric Partはと定義される。同じことではあるが、Asymmetric Partを、Symmetric Partをと定義することもできる。例えばとして二項関係を考えたときに、そのAsymmetric Partは、Symmetric Partはとなる。の場合には、そのAsymmetric PartはとなりSymmetric Partはとなる。
ここまでの数学の話(二項関係、Asymmetric Part、Symmetric Partの定義)をもとに選好の定式化について見ていく。
選好の定式化
上の選好とは 上の二項関係のことである(選好という概念を二項関係で記述する)。そして「」を「」と略記し(これはこの文脈に限らず用いられる記法)、「」を「はと同等以上に望ましい」と解釈する。
上の選好が与えられたとき、とでそれぞれのAsymmetric PartとSymmetric Partを表す。*1そして「」を「」と略記して「はより厳密に望ましい」と解釈し、を「」と略記して「はと無差別である」と解釈する。*2
つまり結局は上の選好を考えたときに、「 かつ 」を「 はより厳密に望ましい」と解釈して、「 かつ 」を「 はと無差別である」と解釈することになる。
授業を受ける上でのポイント
・授業において「上の選好としてを考える*3」という文が出てきた場合、これはとは無差別で、とは無差別で、とは無差別で、はより厳密に望ましくて、とは無差別で、はより厳密に望ましい、となるような選好を意味している。よって、このとき考えている選好はである。
・恐らくあまりないが、やの表記について、これらはから作られたものであり(それぞれのAsymmetric PartとSymmetric Part)、本来的には「」や「」のようにに依存していることを明示すべき概念であることを思い出すと混乱が少なくなる場面があるかもしれない。例えば、「さんの選好がを満たす」のように書いてあるときに、「条件の中にが出てきていないけど、それでいいのかな?」のように悩んでしまうことを回避できる。つまり、「」を「」と心の中で書き直すことで(がから作られる概念であることを思い出すことで)、はちゃんとについての条件になっていることが分かる。
Fin.
*1:選好をで表記する場合にはそれぞれ、を用いることが多いです。
*2:あまり厳密な話は僕も分かっていないが(というか気にしてもしょうがないので教科書などにも書いていないが)、より丁寧なかんじに用語を作るのであれば、「定義1:選択肢の集合X上の選好とはX上の二項関係のことである」、「定義2:X上の選好が与えられたとき、『から導かれる強選好』とはのAsymmetric Partのことである」、「定義3:X上の選好が与えられたとき、『から導かれる無差別選好』とはのSymmetric Partのことである」のようにより定義っぽい形で整理することはできると思う。ただし『から導かれる強選好』のような表現はどこかで見た表現ではなく今思いついたものである。
*3:「ーーで表される合理的な選好を持っている」と言った方が親切だとは思うのだが、"合理的な"の部分は基本的に省かれる。