VCGメカニズムでなぜ正直申告が引き出されるかの説明(その3)

その2はこちら

今回はVCGメカニズムにおける「お金の仕組み」に、前回出てきた「お金の仕組み」から発想を広げることでたどり着きます。

前回における2つ目の「お金の仕組み」について考えます。すなわち、「社会的な選択肢としてaが選ばれた場合には、2さんが申告したaの評価額を全員にあげて、、、、、他についても同様」という仕組みについて見ます。

このときに、1さん(評価ベクトルは(100,\ 200,\ 300))に注目します。クラスの人数は3人として、2さんと3さんがそれぞれ(b_2',\  b_2'',\ b_2''')(b_3',\ b_3'',\ b_3'')を申告することを考えます(もちろん何を申告してくるかは1さんには分からないが仮にそう申告してきたとします)。

すると1さんにとって「各選択肢が単純な決定ルールによって選ばれたときの自身の嬉しさを並べた」ベクトルは(100+b_2',\ 200+b_2'',\ 300+b_2''')となります。これは前回見た通りです。では「1さんが正直申告したときに単純な決定ルールが最大化するベクトル」は何かというと、(100+b_2'+b_3',\ 200+b_2''+b_3'',\ 300+b_2'''+b_3''')となります。

一致はしていませんが、あとはb_3'など3さんについてだけ上手く調整すれば一致しそうです。

そこで(いまは1さんについてだけ注目していることに注意しながら)、「お金の仕組み」を修正して、「単純な決定ルールがaを選ぶ場合には(そのような申告の場合には)2さんが申告したaの評価額と3さんが申告したaの評価額の合計を全員にあげて、、、、、他についても同様」のように修正します。

このように修正した上で、1さんに注目して、2さんと3さんがそれぞれ(b_2',\  b_2'',\ b_2''')(b_3',\ b_3'',\ b_3'')を申告することを考えます。

すると、1さんにとって「各選択肢が単純な決定ルールによって選ばれたときの自身の嬉しさを並べた」ベクトルは(100+b_2'+b_3',\ 200+b_2''+b_3'',\ 300+b_2'''+b_3''')となります。そしてこれは「1さんが正直申告したときに単純な決定ルールが最大化するベクトル」である(100+b_2'+b_3',\ 200+b_2''+b_3'',\ 300+b_2'''+b_3''')と一致します。

すなわち、このように「お金の仕組み」をデザインしておくと、

1さんについては、他の人の申告が何であれ、「各選択肢が単純な決定ルールによって選ばれたときの自身の嬉しさを並べた」ベクトルと「正直申告したときに単純な決定ルールが最大化するベクトル」が一致することになり、正直申告すれば自分が最大化して欲しいものが最大化されるので正直申告をすることになります。

なお、このままの「お金の仕組み」のもとでは2さんと3さんについては同じ議論は成り立ちません。そもそも例えば2さんについては(3さんについても同じであるが)、1さんと3さんの申告を固定しても「各選択肢が単純な決定ルールによって選ばれたときの自身の嬉しさを並べた」ベクトルは定まりません(前回の最後に見たように2さんについてはaが選ばれたときの嬉しさは自身の申告によるからです。対して1さんは他の人の申告が決まれば自分の申告によってどの選択肢が選ばれるかは変わる可能性があるが各選択肢が選ばれたときの自身の嬉しさは決定していたことに注意)。

そこでVCGメカニズムにおける「お金の仕組み」では、「単純な決定ルールがaを選ぶような申告については1さんには2さんと3さんのaに関する申告の和をあげて、2さんには3さんと1さんのaに関する申告の和をあげて、3さんには1さんと2さんのaに関する申告の和をあげる。bcが選ばれる場合にも同様」としておきます。

このようにしておくと先ほど1さんについて成り立った議論が2さんと3さんにも成り立ち、それぞれの人について、他人がどのような申告をしてきても、そのもとで「各選択肢が単純な決定ルールによって選ばれたときの自身の嬉しさを並べた」ベクトルと、そのもとで「正直申告したときに最大化される」ベクトルが一致するため、正直申告を引き出すことができます。

以上のように「お金の仕組み」をデザインしておくと、「単純な決定ルール」を採用しながら正直申告を引き出すことができます。これでVCGメカニズムの「お金の仕組み」にたどり着くことができたわけです。

先ほどは3人のケースでやりましたが、より一般的にn人のケースを扱うのであればそのときの「お金の仕組み」としては1さんについては「単純な決定ルールがaを選ぶような申告があったときには、1さん以外の人が申告したaに関する評価の和をあげて、、、、、、単純な決定ルールがcを選ぶような申告があったときには、1さん以外の人が申告したcに関する評価の和をあげる」のようにすればよく、他の人も同様です。

ポイントとしては、「単純な決定ルール」をそのまま用いると、自分としては自分の利益を最大にしたいが、単純な決定ルールは自分と他の人たちの(申告された)利益を最大するためそこにギャップが生じており、正直申告を引き出せない。そこで、各個人に対して上手く自分以外の人の(申告された)利益をお金によってその人の利益に埋め込むことでそのギャップを埋めて正直申告を引き出しています。

そのため1さんについては1さん以外の人たちの申告された利益に基づくお金の調整が必要ですし、2さんについては2さん以外の人たちの申告された利益に基づくお金の調整が必要になります。

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最後になぜVCGメカニズムにおける「お金の仕組み」を用いると「単純な決定ルール」を採用しても正直申告を引き出せるかを簡単にまとめておきます。

まずポイントだと思うのはVCGメカニズムにおける「お金の仕組み」のもとでは他の人の申告が決まれば自分が「自身が単純な決定ルールが最大化してくれた嬉しいと思うベクトル」が何であるかが決まることだと思います。これを押さえた上で、正直申告する理由は以下のように述べられます。

各人にとって、他の人がどのような申告をしてくるとしてもそのような他の人の申告に応じてお金の仕組みが上手く働くことで、そのような他の人たちの申告のもとで、「自身が単純な決定ルールが最大化してくれた嬉しいと思うベクトル」と「正直申告をしたときに単純な決定ルールが最大化するベクトル」が一致するため(先ほどの流れから分かるように一致するように作ったから一致する)、そのような他の人の申告のもとで正直申告がベストになります。

つまり例えば1さんからしてみれば、他の人がどういう申告をしてくるかに関わらず、正直申告をしておけば他の申告をした場合と比べて損をすることはないので、正直申告を選んでおけば良いことになります。よって、VCGメカニズムの「お金の仕組み」にしておけば「単純な決定ルール」を採用しても正直申告が引き出されることが分かりました。

以上でこのシリーズは終わりです。もし教科書や授業でVCGメカニズムを理解する必要があるときには、このシリーズと(税金を「調和」という観点から見てみる。)を読んだ上で、あとはh_i(\omega_{-i})のように書かれることが多い項について今回は0として処理しましたが、この項が実はなんでも良いことを理解して(なぜかというと、今回のように必ずしも"一致”を作り出す必要はなく税金の記事で書いたように調和していれば良いから)、その後は(結構抽象的に書いてあるはずである)証明を理解するのが個人的にはおすすめです。*1

Fin.

*1:なお僕がこのテーマを将来学び直すとしてたら、このシリーズ得た直感というのは、具体的にはどのような命題の直感なのか、その命題をそのとき勉強している教科書のセッティングに合わせて書き下してみると思います。あまりちゃんと考えていませんがたぶん「単純な決定メカニズム(ただしタイについても無視しない)と今回作ったお金の仕組みのペアからなる直接メカニズムについて、任意のi\in Nさん、iさんの任意のタイプ\omega_i\in \Omega_i、任意の他の人が申告しうるタイプ\omega_{-i}\in \Omega_{-i}iさんが申告しうる任意のタイプ\omega'_i\in \Omega_iについて、ーーー≥ーーーーが成り立つ」みたいな形式になると思います(もちろんそのとき使っている教科書によって書き下し方は変わるでしょうが)。

ただ将来このテーマを学び直しをすることになったときの自分にアドバイスをしておくと、いま言った書き下すエクササイズは大事ではあるけれど、まずはこのシリーズで考えた問題にフォーカスして色々と考えて納得する時間をとった方がいいとは思う。

またその際に、今回のシリーズにおいて「他の人の申告が何であっても正直申告がベスト(な申告なうちの1つ)であることから、正直申告をすると考えていいだろう」というロジックを使ったがこのロジックがすごく納得的というわけではないと感じる場合には、正直申告が「ベストな申告の1つになっている」というのがどういうことなのか考えるといいと思う。つまり任意の自分がしうる申告\omega'_iについてそれと同等以上には良いという意味である。これが成り立っているということは、任意の\omega'_iと正直申告を比べた際に、他の人がどう申告してくることを考えても、正直申告したときの方が\omega'_iのときより同等以上に良いことになり、それなら正直申告をしておいて良いという話の流れは納得的だろう。