ゲーム理論@浦和高校 Part4

せっかく「ゲーム」の定義を行なったので、いくつか具体例を見てみましょう。

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こんなしょうもない例があるかもしれません。
道場の掃除について(もしかしたら)ありがちな状況を定式化します。

例:道場の掃除

N=\{部員1、部員2\}

A_1=A_2=\{道場の掃除をする、掃除をしない\}

u_1は例えば、(掃除しない、掃除しない)には-100000、(掃除する、掃除する)には0、(掃除する、掃除しない)には-1000、(掃除しない、掃除する)には1000、みたいになるかもしれません。

u_2については、相手が手伝ったくれれば嬉しいけど僕は掃除するのが好きだからみたいな部員だとすると、(掃除しない、掃除しない)には-10、(掃除する、掃除する)には1000、(掃除する、掃除しない)には0、(掃除しない、掃除する)には900となるかもしれません。

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補足:嬉しさの構造において、具体的にどのような数字を割り当てるかについてですが、(掃除しない、掃除する)なら1さんはめっちゃ嬉しいだろうから、1000を割り当てちゃおうくらいのかんじで大丈夫です。ただし、(掃除する、掃除する)のときは0にしていますが、数字の大小関係は意識すると良いかなと思います。

この辺はどのくらい高度な分析をしたいかによって変わってきます。例えば、1さんが\frac{1}{2}の確率でaという選択肢を取り、\frac{1}{2}の確率でbという選択を取るみたいな確率的な分析の視点も入れようとするとu_1を少しデリケートなものとして扱わなくてはいけなくなったりします。とりあえずは、割とラフにいきましょう。

さて、掃除だけの例では味気ないので(掃除くらいしか分析できないのかよというかんじもしますし。笑)いくつか他の例を出しておきます。

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例:仲直り

N=\{1さん、2さん\}
A_1=A_2=\{謝る、謝らない\}
u_1u_2の特定化は省略。

こんな風なゲーム< N,(A_1,A_2),(u_1,u_2) >も考えられるかもしれません。

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例:戦争

N=\{アメリカ、中国\}
A_{アメリカ}=A_{中国}=\{攻撃する、攻撃しない\}
u_{アメリカ}は(攻撃しない、攻撃する)には-10000を、(攻撃しない、攻撃しない)には10000を、(攻撃する、攻撃する)には-500を、(攻撃する、攻撃しない)には20を割り当てる。u_{中国}の特定化は省略。

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例:いじめ

N=\{イジメっこ1、イジメっこ2、いじめられっこ、クラスメイト1、クラスメイト2、....、クラスメイト38\}

Auの特定化は省略。

みたいにすることで、イジメの問題も分析することができるでしょう。状況に応じては先生をプレーヤー集合に入れても良いかもしれません。

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例は以上です。日常的な「掃除」「仲直り」みたいな状況から、「戦争」「いじめ」みたいな重大な状況まで、「ゲーム」としてそれぞれ表現してみました。ここまでくると皆さんも自由に色々な状況を「ゲーム」として定式化できると思います。

「ゲーム的状況」と呼びたくなるものって社会に溢れているよね、という「ひらめき」を得ただけの段階と比べて、「ゲーム」という概念を丁寧に作った現段階では、我々は丁寧に作られた共通概念を持っているので、色々な状況の描写やそれに関するクリアな議論ができるようになったのではないかと思います。実際に例を作ると分かると思いますが、我々は定義1つで結構な前進をしました。

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ただ、「ゲーム」という1つの概念だけでは、ゲーム的状況を描写することはできても、それに対して何かすごい分析をするのは難しそうです。そういうわけでゲーム理論」では「ゲーム」という概念だけでなく、他にも重要な概念を多く作っていきます。

そうすると、「戦争」や「いじめ」の問題について大事な発見をすることができるかもしれません。また、より良い社会状況をどう作り出すかみたいな話もできるかもしれません。もちろん、「社会制度の設計」みたいな話がしたいなら、そのための概念を色々と定式化する必要はでてきます。

発展的内容を2つ紹介しておきますね。今回の定式化の中には「時間」という概念が入ってきませんでしたが、「誰が先に選択をするか」が重要になってくる状況を描写したいこともあるでしょう。そのような分析のために、先ほど「ゲーム」と呼んでいたものを「時間を意識しないゲーム」と定義しなおして(呼び方を変えて)、その上で「時間を意識するゲーム」という新しい概念を定義すると良いかもしれません。

また、僕は個人的に優しさとか倫理観に興味があるので、そのようなものを分析するための概念にも興味があります。プレーヤーが2人の場合は、kindness_1kindness_2をそれぞれのプレーヤーの優しさの度合いを表す数字みたいにして、それらを「ゲーム」の3つの構成要素に付け加えた概念を考えたりするのはどうだろう?んーどうでしょうか。こういうのはアイディアの働かせどころですね。

時間とか優しさとかの観点からの拡張を示唆しましたが、他にも色々な拡張があるでしょう。理論の可能性は無限大です。

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これでゲーム理論の紹介は終わりです。

はぁ、なんとも長い道のりを進んできましたね。

最初にゲーム理論以前の枠組みについてスーパーと企業の例を見て、そこで「あれ、ゲーム的状況と呼びたくなる状況がごっそり抜けてない?」って気づいた。んで、「ゲーム的状況」をちゃんと分析するための理論づくりの最初のステップとして「ゲーム」の定義をしました。

途中では、「単純な意思決定の状況」という概念を作ることで「ゲーム」という概念の理解に役立てようとしましたし、何より数学の定義も4つ見ました。最後は、具体例を作りつつ、発展的内容も少し覗きました。

盛りだくさんでしたね。

もし良かったら少し時間を取るので、「色々なことをやったなぁ、こんなことをやったなぁ」と思い返す時間をとってみてください。一番、面白く感じたのはどこだったでしょうか?(1つくらい面白いポイントがあったら嬉しいな。笑)

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あ、そういえば最初に、経済学っていうのはざっくりいうと「社会について数学を使って考える学問です」と言いましたが、なんとなくそのイメージは伝わったのではないでしょうか?

もう少し丁寧にいうと、「経済学というのは、経済やそれ以外の社会現象を、数学というクリアに思考するのに適したツールを主に使うことで丁寧に考えてみる学問」というかんじかもしれないですね。僕はだいたいこんなイメージを持っています。

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これで内容は終わりですが、最後にいくつかメッセージを。まず、僕が高校を卒業してから出会ったゲーム理論という分野の話に耳を傾けてくださり、ありがとうございました。少しでもその魅力が伝わったなら嬉しいです。

また、ゲーム理論に限らず、学問分野というのはどれも本来エキサイティングなものだと思うんです。「天才のひらめき」という言葉が適切かは分からないですが、少なくとも鳥肌が立つくらいすごい「ひらめき」によって作られている側面があると思います。「学問」って意外とかっこいいものかもしれないよ!というのが今回の特別授業のメッセージです。

Fin.