本当は「選好」の定式化についてちゃんと説明したいんだよな〜。
経済学をやっていない友人に、経済学のそれなりに深い内容を紹介する時にそんな気持ちになることがよくあります。この前高校生に向けてゲーム理論について話す機会を頂きましたが、その時もまさしく「選好」に関する議論を曖昧にしました。
しかし、「選好」の定式化は、多くのミクロ経済学の教科書で最初に扱われるほど経済学の基盤的内容です。そこで今回は、前提知識なしに「選好」の定式化について紹介します(直積集合や部分集合などの概念は知っていることが望ましいですが、知らなくても読めます)。
それでは、さっそく始めましょう。
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よくある説明
投票制度について考察したいとしましょう(経済学における主要な考察テーマのつです)。そこで次のような状況を考えてみます。
投票する人はさんとさんとさんで、候補者はととします。
さん、さん、さんそれぞれにとって、が当選したときの嬉しさは、、、が当選したときの嬉しさは、、とします。つまりさんはが選ばれるとの嬉しさを感じ、が選ばれるとの嬉しさを感じます。
このとき多数決が行われるとどの候補者が選ばれることになりそうでしょうか(多数決ルールにおける投票行動はどうなりそうでしょうか)?
この問いへのアプローチは色々あると思いますが、今回はそこには注目せず、ここまでの手順に注目します。
まず私たちは、
投票者が誰であるか( ,, )、彼らはどの選択肢に投票できるのか( , )を記述した上で、各投票者の「嬉しさの構造」も記述しました。ここまでが状況(モデル)のセットアップです。
このように経済学では、考えたいトピックに関して、簡単な状況(モデル)をセットアップしてみて、その上で考察を進める手順を取ることが多いです(より一般的な状況を扱いたいのであれば選択肢はの個ありますのようなセットアップにします)。
経済学ではこんなかんじに考察を進めるのことが多いんよ。
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このような説明をよく友人にします。ただ心の中では、「厳密にいうと1点だけ違うんだよな」と思いながら。それは「嬉しさの構造」を特定した箇所です。
あたかも「嬉しさの度合い(尺度)」なるものが存在するかのようなセットアップをしましたが、このセットアップに対しては、
「が選ばれたときのさんの嬉しさはで、が選ばれたときのさんの嬉しさもになっているけど、これはAさんとBさんがそれぞれのケースで”同じくらい嬉しい”ってこと?そんな比較できるわけ?」
「が当選したときのさん嬉しさはでyのときはだけど、さんはつのケースで倍だけ嬉しさに違いがあるってこと?そんな比較できるわけ?」
などの(哲学的な)疑問が出てきます。
これはとても面倒ですし、そのような疑問に対して「嬉しさの尺度」が存在すると想定することが妥当だと主張するのは大変そうです。
じゃあどうするか?
そこで実際には、「嬉しさの構造」のセットアップの部分を、上のような形にせず、
さんにとって、はより厳密に望ましい。
さんにとって、はより厳密に望ましい。
さんにとって、はより厳密に望ましい。
のようにします。
これなら「嬉しさの尺度」という概念は持ち出されておらず、先ほどのツッコミを回避できます。このセットアップだと先ほどより情報は落ちますが、これでもそれなりに豊富な知見を導くことができます(このことは実際の分析を見ないとわかりませんが)。
いま出てきた、「さんにとってはより厳密に望ましい」という情報はさんの「選好」と呼ばれます。つまり、さんの選好は、さんにとっての「望ましさの順序構造」というイメージです。
先ほどのセットアップをより経済学で実際に採用されている形にすると、
投票者は、さん、さん、さん。
候補者の集合はです。
さん、さん、さんは候補者の集合に対して選好を持っており、それはそれぞれ「はより厳密に望ましい」「はより厳密に望ましい」「はより厳密に望ましい」です。
のような形でされることになります。
定式化の糸口
ここまでで「選好」のイメージは紹介しましたが、まだ「選好」をどう数学的に定式化すればいいかは分かっておらず、数学的分析の基盤としては不十分です。
ということで、「選好」の数学的定式化に入っていきます。最終的には、「選好」を「集合」として表現することになりますが(ちょっと不思議なかんじです)、最終的になぜそう定式化するかを理解するためにも順に考えを進めていきます。
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まず先ほどの例では選択肢が2つだけ(,)でしたので、もう少し複雑にx,y,zとした上で、定式化のヒントを探ります。
選択肢がであるとき、
「さんにとってはより厳密に望ましい」
だけではセットアップとして足りなさそうです。
「さんにとってはより厳密に望ましい。はより厳密に望ましい。」
くらいがセットアップとして妥当になりそうです。
じゃあ、選択肢がつの場合は「との望ましさの比較」「との望ましさの比較」の情報で十分そうかいうと、
「さんにとってはより厳密に望ましい。はより厳密に望ましい。」
のようなケースでは、これだけではさんにとってとのどちらが望ましいかは分からず、さんの投票行動を考えるセットアップとしては足りなさそうです(思考を進めていく「舞台」の設定として情報が足りなさそうです)。
「さんにとってはより厳密に望ましい。はより厳密に望ましい。はより厳密に望ましい。」
まで欲しいところです。
さんはもしかしたらととの候補者について「誰でもいいや」という人かもしれません。その場合には、さんの選好は、
「さんにとってはとは同等に望ましい。とは同等に望ましい。とは同等に望ましい。」となるでしょう。
以上の考察から、選択肢がつの場合には、
とについて「同等に望ましい」か「の方がyより厳密に望ましい」か「がより厳密に望ましい」を指定する。
とについて「同等に望ましい」か「の方がより厳密に望ましい」か「がより厳密に望ましい」を指定する。
とについて「同等に望ましい」か「の方がより厳密に望ましい」か「がより厳密に望ましい」を指定する。
このつを指定してくれるものを選好と呼べば良さそうです。
選択肢の数がのつの場合にも同じように、個の組み合わせが作れますが、そのそれぞれについて同等に望ましいかどちらが厳密に望ましいかを指定するものを、その文脈における(選択肢の集合がのときの)選好と呼べば良さそうです。
ただ、少し気をつけて考えてみると、この定式化では、「さんにとってはより厳密に望ましい、はより厳密に望ましい、はより厳密に望ましい」のようなものも入っていることに注意してください。これは少し変なかんじではあると思います(よりが良くてがより良いならはよりも良くなっていないとおかしい気もしてくるわけです)。この点については一旦目をつぶっておき、最後に解決します。
この点を除けば、定式化の方針がそれなりに見えてきました。実際、ここまでの話に基づいて「選好」を定式化した教科書もあります(Rubinstein先生のLecture Notes in Microeconomic Theoryなど)。しかし、一般的な教科書で扱われている定式化に向けてはもう少し進む必要があります。
ここまでの議論をまとめるために、次のような定義をしておきましょう(選好を集合として定義しておらず最終版の定義とは違います)。
一応の定義:
選択肢の集合について、
上の選好とは、
とについて「同等に望ましい」か「の方がより厳密に望ましい」か「がより厳密に望ましい」を指定し、
とについて「同等に望ましい」か「の方がより厳密に望ましい」か「がより厳密に望ましい」を指定し、
とについて「同等に望ましい」か「の方がより厳密に望ましい」か「がより厳密に望ましい」を指定するものである(そしてそれ以外の情報は指定しない)。
ここでは、「選好」という概念ではなく「選択肢の集合上の選好」という概念を定義しています。なぜ「選好」という概念を作らないのかというと、これは考えて見れば当たり前で日常的な感覚でいっても、漠然と「さんの望ましさの順序」といってもそれが何を順序づけているか分からないからです。
あなたも、「自身の望ましさの順序(ランキング)はどうなっていますか?」と聞かれても「えっと、何に対する順序ですか?」となってしまうはずです。でも「選択肢の集合がりんご、バナナ、みかんとします。あなたはに関してどのような望ましさの順序づけを持っていますか?」と言われれば、何を答えればいいかは分かるはずです。
したがって、「選好」という概念の定式化ではなく、「ある集合Tに関する選好」という概念を定式化します。これは最終的な定義においても変わりません。なお、どの選択肢の集合について考えているか明らかな場合は、単に「選好」ということもあります。
ここが正念場
先ほどの「一応の定義」を少し変えてみます。ここでは、「とについての望ましさの比較ができない」というのもつの順序づけと考えることにしましょう(順序づけできないというのもつの順序づけと考えることにしてみるわけです)。
このような拡張をすると、新しい一応の定義は、
一応の定義:
選択肢の集合について、
上の選好とは、
とについて「同等に望ましい」か「の方がより厳密に望ましい」か「がより厳密に望ましい」か「との比較はできない」のうちつを指定し、
とについて「同等に望ましい」か「の方がより厳密に望ましい」か「がより厳密に望ましい」か「との比較はできない」のうちつを指定し、
とについて「同等に望ましい」か「の方がより厳密に望ましい」か「がより厳密に望ましい」か「との比較はできない」のうちつを指定するものである(そしてそれ以外の情報は指定しない)。
のようになります(もし写像という概念をご存知の場合は、ここでの定義は、、それぞれに対して、「同等に望ましい」「前者の選択肢の方が厳密に望ましい」「後者の選択肢の方が厳密に望ましい」「比較できない」というつの文字列のうちつを対応させる写像のことを選好と呼んでいると理解してください。このように選好を定義することも可能です)。
写像の話は飛ばして頂いても大丈夫です。
大事なのは、現時点の定義に従えば、上の選好とは、
「はより厳密に望ましい、はより厳密に望ましい、とは同等に望ましい」
「とは同等に望ましい、はより厳密に望ましい、はと比較できない」
などになることです。
より日常的な例を作ると、りんご、バナナ、みかん上の選好とは、
「りんごはバナナと同等に望ましい、バナナはみかんより厳密に望ましい、りんごはみかんより厳密に望ましい」
「りんごはバナナと同等に望ましい、バナナはみかんと同等に望ましい、みかんはりんごより厳密に望ましい」
などになります。
ここまでで一区切りです。
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ここから一気に数学的定式化に入ります(最終版にかなり近い形になってきます)。上の選好の例として、例えばという集合が挙げられることになります。このような「集合」を「選好」として捉えてみるわけです。
何をいっているのか?
のような集合を「上の選好」というからには、先ほどの話からすれば、とについてつのうちつを指定し、とについてつのうちつを指定し、とについてつのうちつを指定していて欲しいわけです。
は、実際にその情報を指定していると捉えられます。
との比較についてはとの両方がこの集合に入っているため「とは同等に望ましい」と指定しているとする。との比較についてははこの集合に入っているがは入っていないため「はより厳密に望ましい」と指定しているとする。との比較についてははこの集合に入っているがはこの集合に入っていないため「はより厳密に望ましい」と指定しているとする。
より一般的には、
との両方が選好(集合)に入っていたら「とは同等に望ましい」、だけだったら「はより厳密に望ましい」、だけだったら「はより厳密に望ましい」、どちらも入っていなければ「との比較はできない」とします。
つまり、今までの定義において、上の選好は、
「はより厳密に望ましくて、はと同等に望ましくて、はより厳密に望ましい」
などでしたが、、
も上の選好と解釈できるということです。
もう少し例を見ると、
は
「はより厳密に望ましくて、はより厳密に望ましくて、とは同等に望ましい」と解釈されることになります。
適当な解釈なもとで、「集合」によって「望ましさの順序」を表現したわけです。
すると、セットアップは例えば、
投票者は、、で選択肢の集合は。
、、それぞれの(選択肢の集合上の)選好は 、、 である。
のように表現することになります。このとき我々はさんにとってはよりも厳密に望ましい、さんにとってとは同等に望ましい、さんにとってはより厳密に望ましいと解釈します。
ここまでの話はそこまで厳密ではありませんでしたが、「選好」を「集合」として表現することのイメージを得ることはできたのではないでしょうか?
いよいよ定式化
ここまでの議論を踏まえて、最終的な定式化をします。基本的にはここまでの話を丁寧に定式化するだけですが、今まではとの比較など違う選択肢同士の比較だけでしたが、最終的な定式化ではとの比較のような同じ選択肢同士の比較も考えることにします。
最終的な定義を見てみてましょう。
定義:
選択肢の集合について、
上の選好とは、
集合の部分集合のことである。
また、上の選好が与えられたとき以下のように解釈を与える。がに入っているとき「は以上に望ましい」と解釈し、がに入っているとき「は以上に望ましい」とする(ただしとは同じ選択肢でも良い)。
さらに「は以上に望ましい」が成り立っており「は以上に望ましい」が成り立っていることを「はと同等に望ましい」と解釈する。「は以上に望ましい」のみが成り立っていることを「はより厳密に望ましい」と解釈する。「は以上に望ましい」のみが成り立っていることを「はより厳密に望ましい」と解釈する。どちらも成り立っていないことを「との比較はできない」と解釈する。
解釈のパートは少しややこしいですが(「以上に望ましい」という変なのが途中に出てきていますが)、結局は「との両方が選好に入っていたら「同等に望ましい」、のみ入っていたら「の方がより厳密に望ましい」、のみ入っていたら「の方がより厳密に望ましい」、どちらも入っていなければ「との比較はできない」と解釈されるため、先ほど説明した解釈の仕方と同じです。
とか部分集合などの用語が出てきたので簡単に説明しておきます。
数学用語の補足
集合がであるとき、集合はとなります。のとき集合はとなります。つまり集合の要素から作ったペア全体からなる集合がです。
集合は集合の部分集合です。集合も集合の部分集合です。ある集合がもう1つの集合の「一部」からできているときその集合をもう1つの集合の部分集合と呼びます。ただし、何も入ってない集合はあらゆる集合の部分集合であるとします。また、はの部分集合ですが、もの部分集合とします(その集合自身もその集合の部分集合です)。したがって、集合の部分集合は、、, のつです。
これを踏まえて、もう一度定義を見てみましょう。
定義:
T上の選好とは、
集合の部分集合のことである。
また、上の選好が与えられたとき以下のように解釈を与える。がに入っているとき「は以上に望ましい」と解釈し、がに入っているとき「は以上に望ましい」とする(ただしとは同じ選択肢でも良い)。
さらに「は以上に望ましい」が成り立っており「は以上に望ましい」が成り立っていることを「はと同等に望ましい」と解釈する。「は以上に望ましい」のみが成り立っていることを「はより厳密に望ましい」と解釈する。「は以上に望ましい」のみが成り立っていることを「はより厳密に望ましい」と解釈する。どちらも成り立っていないことを「との比較はできない」と解釈する。
この定義に従えば、のとき上の選好のつはとなります。これが上の選好になっていることは、という集合がという集合の部分集合になっていることから分かります。
そして我々はを、以下のように解釈します。
とについては「はより厳密に望ましい」
とについては「はより厳密に望ましい」
とについては「とは比較できない」
とについては「はと同等に望ましい」
とについては「はと同等に望ましい」
とについては「はと同等に望ましい」
となど同じ選択肢の比較についてはややこしいですが、ここでは難しく考えずにがその選好に入ってれば「とは同等に望ましい」と解釈して、が入っていなければ「とは比較できない(意味不明ではあるが)」と解釈することにすると思ってください。
これで選好の定式化ができましたが、もう少し例を見ながら話をちょっと進めます。
のとき、 はたしかに上の選好であり、
とについては「とは同等に望ましい」
とについては「とは同等に望ましい」
とについては「はより厳密に望ましい」
と解釈されます。なんていうか「理解できる」選好です。
のとき、はたしかに上の選好であり、
とについては「とは同等に望ましい」
とについては「とは同等に望ましい」
とについては「とは同等に望ましい」
と解釈されます。これも「理解できる」選好です。
でも例えば、だとこれは
とについては「とは比較できない」
とについては「とは比較できない」
とについては「とより厳密に望ましい」
と解釈されるもので、ちょっと意味が分かりません。「とという同じもの同士の比較ができないわけ?同じものなんだから望ましさは同等でないとおかしくね」と言いたくなります。
そう考えると選好の定義は、「意味の分からないもの」ものも「選好」として認めていることが分かります。もう一度定義を見てみましょう。
上の選好とは、
集合の部分集合のことである。
この定義に従うとの部分集合ならなんでも上の選好と呼ぶわけです。のときはですが、何も入っていない集合もの部分集合ですから、も上の選好になります。そしてこれは、「とについて比較できず、とについて比較できず、とについても比較できない」と解釈されます。んーどうなのってかんじです。
しかし、選好の定義はここから修正しません。でもそれだと今の問題があるので、新しく「合理的な選好」という概念を作るのが普通です。こうすると必要に応じて「各投票者は{x,y}上に合理的な選好を持っている」や「各投票者は{x,y}上に選好を持っている」のように使いわけることができます。
「合理的な選好」の定義を見てみましょう。
定義:
選択肢の集合Tについて、
上の合理的な選好とは、
以下のつの条件を満たす上の選好のことである。
集合の任意のつの要素をu,wで表したとき、かの少なくともつがその選好に属している。→この条件は「比較ができない」が起きないことを要求しています。
集合Tの任意のつの要素をで表したとき、とがその選好に属しているならば、も属している→この条件の意味は、「が以上に望ましくて、が以上に望ましいならば、は以上に望ましい」です。
最初の条件はCompletenessと呼ばれ、次の条件はTransitivityと呼ばれます(これらの詳細についてはここでは見ませんが、選好を「理解できるもの」にするための条件であることを抑えてください)。このようにして「合理的な選好(理解できる選好)」という概念を作ります。
なお、教科書によっては今回の「合理的な選好」を「選好」と呼び、今回の「選好」は「順序」と呼ぶことがあります(たしかに今回作った「選好」という概念には先ほどみたように「選好」って単語のイメージからかけ離れたものも入ってきてしまっていたため、そのようにするのも理解できます)。この点は教科書ごとに違うので気をつけてください。
以上で「選好」の定式化が終わりました。もうかなり自分のものになったと思うので、最後にもう一度定義を見てみましょう。スラスラ読めるはずです。
上の選好とは、
集合の部分集合のことである。
また、上の選好が与えられたとき以下のように解釈を与える。がに入っているとき「は以上に望ましい」と解釈し、がに入っているとき「は以上に望ましい」とする(ただしとは同じ選択肢でも良い)。
さらに「は以上に望ましい」が成り立っており「は以上に望ましい」が成り立っていることを「はと同等に望ましい」と解釈する。「は以上に望ましい」のみが成り立っていることを「はより厳密に望ましい」と解釈する。「は以上に望ましい」のみが成り立っていることを「はより厳密に望ましい」と解釈する。どちらも成り立っていないことを「との比較はできない」と解釈する。
上の合理的な選好とは、
以下のつの条件を満たす上の選好のことである。
・Completenessの条件
・Transitivityの条件
以上で今回紹介したい概念はすべて紹介できましたが、今一度
「上の選好とは、集合の部分集合のことである」
という一文の簡潔さを是非感じてみてください。
(直積集合と呼びます)や部分集合という概念は、集合論の超基本的概念です。そのような基本的な数学的概念だけを用いて経済学の思考の基盤となる「選好」という概念は作られています。このことから、数学の力を借りながら経済・社会について考えている経済学という学問はこうやって数学の力を借りているんだと感じられる気もします。
最後に
全体像を振り返ります。まず経済学では現実のミニチュア版のような「モデル」をセットアップしてそこから考察を進めることが多くあります。そのときに、各主体の「嬉しさの度合い」のようなものをセットアップしたいのですが、「嬉しさの度合い(の尺度)」を想定するのが妥当であると主張するのは難しそうです。
そこで、「さんにとって選択肢はより望ましい」のように「望ましさの順序」をセットアップします。この「その望ましさの順序」を数学で表現したのが「選好」という概念です。ただし、「選好」の定義は「少し変なもの」も許容していたので、追加で「合理的な選好」という概念も定義しました。
嬉しさの度合い
が選ばれたら、が選ばれたら。
言葉によって定めた選好
はより厳密に望ましい。とは同等に望ましい。とは同等に望ましい。
数学の世界に落とした選好
Fin.
経済学部の方への補足:
授業において、「さんの選好をで表す」のような表現を見るかもしれません。このように書かれたときは正確には集合です。つまりなどです。そして、のことをと表しています。このようにすると今回の定義となどの表記が繋がってきます。
また、「効用関数」は、「嬉しさの度合い」を表してそうですが、あれは「選好を関数で表現したもの」です。つまり「さんは効用関数を持っています」の意味は「さんは効用関数で表現される選好を持っています」です。今回扱ったステップからさらにもう一段階工夫を進めたものだと思ってください。この辺の話は林ミクロやMWGをご参照ください。