前編:経済学の授業を受ける前にやりたかったトレーニング

僕は経済学部出身ではないのですが、学部3年のときに経済学部の授業を受け、強烈な洗礼を受けました。「全部数学で書かれていて、何も分からない」

経済学部では「使用言語が数学」というかんじで、授業スライドが何も読めませんでした。

そこで今回は、当時の自分が受けたかった「集合や論理の言葉になじむためのトレーニング」を作ってみました。

3つの記事に分けて、それぞれ30分程でできるものを目指しました。本格的な経済学の授業を受ける前の学部3、4年生におすすめです。

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集合から始めます。

\{ \}という記号は集合を表すのに使います。例えば、 \{a,b,c \}と書いたら、それは文字 aと 文字bと文字 cからなる集合です。本当は「集合の定義」を行いたいのですが、それはとても難しいので立ち入りません。一旦、「数字でも文字でも何かしらの対象物を集めたもの」を集合と呼ぶと思ってください。

 aは  \{a,b,c \}に属しており(  \{a,b,c \}という集合の要素であり)このことをa\in \{a,b,c\}と表します。 dは  \{a,b,c \}に属していないので「 d  \in  \{a,b,c \}」は成り立ちません。 dが  \{a,b,c\} に属していないことを「 d  \notin  \{a,b,c \}」と表します。 d  \in  \{a,b,c \}は「 dは  \{a,b,c \}に属している」と主張する文であるため間違っていますが、 d  \notin  \{a,b,c \}は「 dは  \{a,b,c \}に属していない」と主張する文であり正しいです。

経済学では色々な集合を考えますが、「実数全体からなる集合」はよく使うのでこの特別な集合を Rで表すことにします。実数とは、 1とか 2とか 1.4とか -100とか -122222.1111とか基本的に想像できる数字すべてのことです。ただし、2乗すると-1になる数 iなどは含みません。数直線上にある数はすべて実数ですし、数直線上にない数は実数ではありません。

実数全体からなる集合Rには無限個の要素が入っているためその中身を全部書くことはできませんが、 Rは  \{1, 1.5, 0.1, -100, -20019, 2021, 5.55555,...\}のようになっているというイメージを持ってください。常識的に考えられる数が全部入っているのがRという集合です。したがって、 4 \in R は成り立ちますし、 5.4444 \in Rも成り立ちます。

自然数全体の集合もよく使うので、記号を導入して Nで表すことにしましょう。 Nは  \{1,2,3,4,・・・ \}のようになっています。 Nの中に0を入れる流儀もありますが(つまり0自然数として扱う流儀もありますが)、経済学では入れないことが多いです。 なお、 RNについては  \mathbb{R}\mathbb{N}という記号を使うことが多いですが、この記事では RNを用います。

他にもよく使う記号として、R_{++}R_{+}があります。それぞれ、「正の実数全体からなる集合」、「非負の実数全体(0もOK)からなる集合」です。1.5R_{++}にもR_{+}にも属します。-100Rには属しますがR_{++}R_{+}には属しません。0RR_{+}には属しますが、R_{++}には属しません(「非負」と「正」の違いに注意してください)。

以下の文はどれも正しい文です(真である命題です)。1つずつ正しいことに納得してください。

(1)  1.33333 \in R

(2)  -0.4 \in R

(3) 0.5 \in R_{++}

(4)  0 \in R_{+}

(5)  4 \in N

(6)  5.4 \notin N

(7) 0 \notin R_{++}

(8)  000.1 \in R_{++}

(9) \frac{1}{3} \in R

ここまででやったのは、\in\notinという記号の使い方と、NRR_{++}R_{+}などの紹介です。これらの表記はとても便利です。例えば、「(理論上ありうる)体重の集合」はR_{++}で表せそうです。また「(理論上ありうる)今までの人生で飲んだ水の総量の集合」であればR_{+}で表せそうです(生まれたばかりの人は水を飲んだことはないでしょうから0を入れています)。「(理論上ありうる)会社の収支の集合」であれば赤字になることもあるでしょうからRを用いたくなります(ただしこの場合は「40.11円の黒字」なども概念として許容することになります)。このように経済学ではそのとき考えたいテーマに合わせて考えるベースになる集合を用意していきます。

ここで「(理論上ありうる)テニスをした回数の集合」について考えます。この場合はNを用いれば良さそうですが(R_{+}を用いるのは微妙でしょう。1.4回テニスをしたことがあるというのは変なので)、しかしテニスをまったくやったことがない人もいるでしょうからNだと0が入っていない点が困ってしまいます。そこでNという集合に0を追加した集合を考えたくなります(Nという集合に0だけからなる/{0/}という集合をくっつけたような集合を考えたくなります)。

実はそのような集合は\cupという記号を用いて、N\cup\{0\}と表されることになります。

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\cup \capという記号について紹介します。2つの集合ABがあるときA\cup Bという記号はAとBの(少なくとも)どちらか一方には属しているもの全体からなる集合を表します。例えば、A=\{1,2,3\}B=\{5\}のとき、A\cup B\{1,2,3,5\}という集合になります。A=\{a,b,c\}B=\{d\}のとき、A\cup B\{a,b,c,d\}という集合になります。「少なくともどちらか一方」となっているため、ABの両方に属しているものもA\cup Bに含まれます。例えばA=\{a,b\},B=\{b\}のとき、A\cup B=\{a,b\}です。

補足しておくと(あまり気にしなくていいですが)、\{a,b\}\cup\{c\}=\{a,b,c\}と書いたとき、これは正しい文ですが、その主張は「\{a,b\}\cup\{c\}という集合と\{a,b,c\}という集合の中身が一致している」です。集合と集合が=で結ばれているとき、それは2つの集合は必ずしも概念として同じであるわけではなく、その中身が同じということです。

次に \capについて説明します。2つの集合ABがあるときA \cap Bという記号は集合Aと集合Bの両方に属しているものからなる集合を表します。例えばA=\{1,2,3\}B=\{1\}のときA\cap B\{1\}になります。ここで要素が何も入っていない集合も考えることとして、これを\phiで表すことにします。つまり、\phi\{ \}みたいなかんじで「空集合」と呼ばれます。A=\{1,2\}B=\{5\}のときA \cap Bは要素が何も入って集合となるので、A \cap B=\phiです。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1) \{a,b,c\}\cup\{d\}=\{a,b,c,d\}

(2) \{1\}\cup\{2\}=\{1,2\}

(3) \{1,2\} \cap\{2\}=\{2\}

(4) \{1,2,3,4,5\} \cap\{1,4,7,8\}=\{1,4\}

(5) \{1,2,3\}\cup\{1,4,6\}=\{1,2,3,4,6\}

(6)\{1,2,3\} \cap\{2,4,5\}=\{2\}

また、a \in \{a,b,c\}\cup\{d\}は正しい文であることを確認してみてください。 \{a,b,c\}\cup\{d\}\{a,b,c,d\}となることから分かります。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1)a \in \{a,b,c\}\cup\{e\}

(2)a \notin \{b,c\}\cup\{e\}

(3)1 \in R

(4)0 \in R

(5)0 \notin R_{++}

(6)b \in \{a,b,c\}\cap\{b,c\}

(7) a \notin \{a,b\}\cap\{b,c\}


(3)〜(5)は復習問題です。例えば(7)は、まず\{a,b\}\cap\{b,c\}の部分が\{b\}という集合になる(に等しい)ことを確認すると分かります。

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なお、少し難しいですが、\cupの定義を思い出すと、N\cup\{1\}=Nも正しいです。これについてよく考えると\cupに対する理解が深まると思うので、2種類の理解の仕方を見てみます。

一番丁寧な理解の仕方は次の通りです。まず、自然数以外のものを考えてみます。するとそれがどんなものであれ、自然数でないなら、Nにも\{1\}にも属さないため(その少なくとも一方に属するもの全体からなる集合として定義される)N\cup\{1\}には属さないと分かります。続いて任意の自然数を考えれば(どの自然数でも良いので自然数に注目すれば)、これは自然数全体からなる集合であるNに属するため、N\cup\{1\}に属すると分かります。以上より、N\cup\{1\}に属するのは自然数(1,2,3,4...)だけでそれ以外は属さないと分かります。困ったらこのように丁寧な方法で理解するのが良いと思います。


他にも、簡単な例(\{a,b,c\}\cup\{d\}=\{a,b,c,d\}など)から、A\cup Bという記号は集合Aに集合Bを”くっつけてあげた”ような集合だなというイメージを得て、そのイメージから納得する方法もあります。N\cup\{1\}Nという集合に\{1\}という集合を"くっつけてあげた"ようなもので、Nにそもそも1が属しているので、Nという集合に\{1\}という集合をくっつけてあげてもNのままで変わらないという理解です。

どちらの方法でも良いのでN\cup\{1\}=Nに納得してみてください。

また、\{1,2,3\}\cup\phi\{1,2,3\}となります。\{1,2,3\}空集合\phiの少なくとも一方に属しているものからなる集合が\{1,2,3\}\cup\phiであると主張しています(これもイメージでいえば、\{1,2,3\}に何も入っていない集合である\phiをくっつけてあげても\{1,2,3\}のままということです)。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1) \{a,b,c\}\cup\{a\}=\{a,b,c\}

(2) \{a,b\}\cup\{c\}=\{a,b,c\}

(3) \{a,b\} \cap\{b\}=\{b\}

(4) \{a,b,d\}\cap\{a,b,c,e\}=\{a,b\}

(5)  \{a,b,c \}\cup\phi= \{a,b,c \}

(6) R\cup \{1,2,3 \}=R

(7) R_{++}\cup \{1\} =R_{++}

(8) R_{+}\cup \{0 \}=R_{+}

(9) R_{++}\cup R=R

(10)  \{1,2,3 \}\cap\phi=\phi

(11) R\cup \{1,2,3 \}=R

(12) R\cup N=R

(10)については\phiに惑わされないでください。\phiはあくまで「何も要素を持っていない集合」で、\{ \}というイメージです。それに気をつければ理解できると思います。(12)については、NRもあくまで集合であることを思い出してください。そして、すべてのNの要素はRの要素でもある(すべての自然数は実数でもある)ことに注意してください。

最後に、R \cap N=Nも確認してください。R\cup N=RR \cap N=Nについて「たしかにそうだな」となったら、\cup \capはマスターです。

ここまでで、\in\notinの使い方と、RNなどの紹介、\cup\capの紹介をしました。次に少し毛色が違うことについて紹介します。

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ある集合を表すときに、その中身を全部書き出す方法もありますが(例えば \{1,2,3 \}と書き出す)、もう1つの方法(記法)があります。

例えば、\{x \in N | 5≤x≤8 \}のように書きます。これは「5以上8以下の自然数からなる集合」を表しています。他にも、 \{x \in R | 5≤x≤8 \}と書いたらこれは5以上8以下の実数全体からなる集合を表します。 \{x \in R | 5≤x \}と書いたらこれは5以上の実数全体からなる集合です。 \{x \in R++ | x≤10 \}は正の実数の中で10以上であるという条件を満たすもの全体の集合を表します。なお、5以上8以下の実数全体からなる集合を表すときに、xを使いましたがここには何を使っても同じ集合を表します。例えば、zを使って \{z \in R | 5≤z≤8 \}と書いても、yを使って \{y \in R | 5≤y≤8 \}と書いても同じことです。

一般に \{x \in A | \text{条件} \}という形式のものは、Aに属するものの中で|の後ろに書いてある条件を満たすもの全体からなる集合を表します。

\{x \in N | 1≤x ≤3\}自然数の中で1以上3以下という条件を満たすものからなる集合になるため、\{1,2,3\}となります。そのため、1 \in \{x \in N | 1≤x ≤3\}は正しいです。xの代わりにyを用いてもいいので、1 \in \{y \in N | 1≤ y ≤3\}も正しいです。なお、\{x \in N | 1≤x ≤3\}=\{1,2,3\}ですが、\{x \in N | x ≤3\}=\{1,2,3\}でもあります。

例を見て感覚を掴みましょう。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1) \{y \in N | 1≤ y ≤3\}=\{1,2,3\}

(2)  \{y \in N | y ≤2\}=\{1,2\}

(3)\{y \in N\cup\{1,2\} | y ≤2\}=\{1,2\}

最後の(3)については、N\cup\{1,2\}=Nに注意すれば、\{y \in N\cup\{1,2\} | y ≤2\}=\{y \in N| y ≤2\}となるので、\{1,2\}になることが分かります。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1)\{y \in N | 1≤ y ≤3\}=\{z \in N | z ≤3\}=\{1,2,3\}

(2)4 \in \{x \in R |  x ≤10\}

(3)4 \notin \{x \in R |  x ≤2\}

(4)1.3 \in \{x \in R |  x ≤2\}

(5)1.3 \notin \{x \in N |  x ≤2\}

(6)-10 \in \{x \in R |  x ≤2\}

(7)-10 \notin \{x \in R_{++} |  x ≤2\}

(8)10 \in \{x \in N |  5≤x ≤10\}\cup\{x \in N | 8≤N≤12\}

最後のは少し難しそうですが、10\{x \in N |  5≤x ≤10\}\cup\{x \in N | 8≤N≤12\}という集合に入っていると主張しています。\{x \in N |  5≤x ≤10\}=\{5,6,7,8,9,10\}\{x \in N | 8≤N≤12\}=\{8,9,10,11,12\}に注意すると、\{x \in N |  5≤x ≤10\}\cup\{x \in N | 8≤N≤12\}=\{5,6,7,8,9,10,11,12\}になります。よって、10\{x \in N |  5≤x ≤10\}\cup\{x \in N | 8≤N≤12\}にたしかに属していると分かります。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1)10 \in \{x \in N |  4≤x ≤10\}\cup\{x \in N | 4≤N≤12\}

(2)10 \in \{x \in R |  4≤x ≤10\}\cup\{x \in R | 4≤N≤12\}

(3)10 \in \{x \in R |  4≤x ≤10\}\cup\{x \in N | 4≤N≤12\}

(4)10 \in \{x \in N |  4≤x ≤10\}\cup\{x \in N | 11≤N≤12\}

(5)10 \in \{x \in N |  4≤x ≤10\}\cap\{x \in N | 4≤N≤12\}

(6)10 \notin \{x \in N |  4≤x ≤12\}\cap\{x \in N | 11≤N≤12\}

(7)10 \in \{x \in R_{++} |  4≤x ≤10\}\cup\{x \in R_{++} | 4≤N≤12\}

(8)10 \in \{x \in R |  4≤x ≤10\}\cup\{x \in R_{+} | 4≤N≤12\}

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次に直積集合についてやりましょう。

2つの集合ABが与えられたときに、A\times Bという記号がどのような集合を表すかを紹介したいのですが、A=\{1,2\}B=\{4,5\}のケースでイメージを掴みます。このときA\times B\{(1,4),(1,5),(2,4),(2,5)\}という集合になります。(1,4)という「2つの数字の組」、(1,5)という「2つの数字の組」、(2,4)という「2つの数字の組」、(2,5)という「2つの数字の組」、の4つの要素からなる集合です。

\{1,2\}(1,2)の違いに注意してください。\{1,2\}と書いたらこれは12からなる集合ですが、(1,2)と書いたらこれは12を「順番を気にして」組にしたものというかんじです。集合においては何が入っているかだけが大事なので\{1,2\}\{2,1\}は同じですが、(1,2)(2,1)は順番を気にする概念なのでこれらは別物です。

直積集合についてもう少し例を見ます。\{a,b\}\times \{c\}は\{(a,c),(b,c)\}という集合を表します。つまり、集合Aと集合Bが与えられたときにA\times Bは「Aに属するものとBに属するものを(順番を気にして)組にしたもの全体からなる集合」となります。

\{a,b\}\times \{1,2\}は\{(a,1),(b,1),(a,2),(b,2)\}という集合になります。集合はどの順番に並べてもいいので、「\{a,b,c\}\times \{1,2\}は\{(a,1),(a,2),(b,1),(b,2)\}という集合になります」と言ってもいいです。なお、\{1,2\}\times \{a,b\}\{(1,a),(1,b),(2,a),(2,b)\}となります。

\{1,2,3\}\times Rという集合には、R\{12,54,-100,...\}のようなものであると思い出せば、この集合には(1,12)(2,54)などが入っており、他にも(2,12),(2,-100)であったり、(1,-33)も入っていることが分かります。ただし、(-10,5)は入っていません。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1) (a,b) \in \{a,e\} \times \{b,c\}

(2) (a,b) \notin \{a,b\} \times \{c,d\}

(3) (1,2) \in \{1,2,3\} \times \{2,3,4\}

(4) (1,2) \notin \{1,2,3\} \times \{1\}

(5) (1,2) \in \{1,2,3\}\times R

(6) (1,2) \in \{1\}\times R

(7) (1,2) \in \{1\}\times N

(8) (10,2) \notin \{1\}\times N

(9) (1,2) \in R\times R

(10) (7,2) \in R_{++}\times N

(11) (1,2) \in R\times R_{++}

(12) (-10,2) \notin R\times R

(13) (1,b,z) \in \{1,2,3\} \times \{a,b,c\} \times \{x,y,z\}

最後の(13)では\times3つ続いていますが、2つのときと同じです。つまり\{1\}\times \{x,y\}=\{(1,x),(1,y)\}ですが、同じように\{1\}\times \{x,y\}\times \{c,d\}=\{(1,x,c),(1,x,d),(1,y,c),(1,y,d)\}です。

また、これは当たり前ですが、1 \notin \{1\}\times \{2,3\}です。\{1\}\times \{2,3\}=\{(1,2),(1,3)\}であるため、この集合には(1,2)(1,3)しか入っておらず、1は入っていないため、1 \notin \{1\}\times \{2,3\}となります。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1) (a,b,c) \in \{a\} \times \{b\}\times \{c\}

(2) 1 \notin \{1,2\} \times \{3\}

(3) (1,21,7) \in N \times N \times N

(4) (1,21,7) \in N \times R \times N

(5) (1, 0.4, 7) \notin N \times N \times N

(6) (1, 0.4, 7) \in N \times R \times N

(7) (1, 0.4, 7) \in R_{++} \times R_{+} \times N

(8) (1, 0.4, 7) \in R_{++} \times R_{+} \times \{7\}

(9) (1, 0.4, 7) \notin R_{++} \times R_{+} \times \{8\}

(10) (1, 2, 3, 4, 5 ) \in R \times R\times R\times R\times R

これも表記の問題ですが、R \times R\times RのことをR^3と書くことがあります。同じようにN\times NのことをN^2と書くことがあります。(1,2) \in R^2(1,2,30)=N^3などは正しいですし、(1,2,3,4,5,6)=R^6も正しいです。R_{++}\times R_{++}についてもR_{++}^2と書いたりします。これらの表記もよく使うので慣れてください。

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次に、[1,2]などの表記について紹介します。これは\{x \in R | 1≤x≤2\}のことです。つまり1以上2以下の実数全体からなる集合です。同じように、[4,5]は\{x \in R | 4≤x≤5\}のことです。

(2,3]\{x \in R | 2\lt x≤3\}[2,3)\{x \in R | 2≤x\lt 3\}のことです。(2,3)\{x \in R | 2\lt x\lt 3\}のことです。ただし、(2,3)と書かれただけでは、23を順番を気にして並べたものであるか\{x \in R | 2\lt x\lt 3\}を指しているのかは分かりません。これは表記が被ってしまっているので文脈で判断するしかありません。例えば、2.1 \in (2,3)と書いてあるときは、(2,3)\{x \in R | 2\lt x\lt 3\}という集合を表していると分かります。対して(2,3) \in R^2と書いてあるときは、(2,3)は2と3を組にしたものを表していると分かります。(2,3]や[2,3]のときには混乱しようがありませんが、(2,3)のようなときには少し注意が必要です。

とはいえ、開区間(2,3)、ベクトル(2,3)のように名前をつけて呼んだり文字の大きさを変えたりすれば良いだけなので実際には「これはどっちだろう」と悩むことはあまりないです。

他にも大事な表記として、[1,\infty)と書いた場合は、これは\{x \in R | 1≤x\}のことです。また、(1,\infty)\{x \in R | 1\lt x\}のことで、11 \in (1,\infty)ですし、3333 \in (1,\infty)です。1 \notin (1,\infty)には注意してください。

また、R^2にような表記は[0,1]などにも使えて、 [0,1]\times[0,1] のことを[0,1]^2のように表すことがあります。(0.1, 0.3) \in [0,1]^2です。あ、もちろん(0.1, 0.3) \in [0,1]^2と書いた場合の(0.1, 0.3)0.10.3の組という意味で、\{x \in R | 0.1\lt x\lt 0.3\}という集合ではありません。以下、(0.1, 0.3)などは数字の組を意味していると思ってください(開区間の意味で使う場合にはその都度断ります)。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1) 22 \in N

(2) (22, 23) \in N\times N

(3)(22, 23) \in N^2

(4)(22, 23) \in R\times R

(5)(22, 23) \in R^2

(6) (1, 3, 7) \in N^3

(7) (1, 3, 7) \in R^3

(8)(1, 3, 7) \in R_{++}^3

(9) (1, 3, 7) \in R_{+}^3

(10) 1  \in [-10,10 ]

(11) 22  \in [10,\infty ]

(12) 22  \in [-8,\infty]

(13) (0,0,0,0) \in R^4

(14)(0,0,0,0) \in R_{+}^4

(15)(0,0,0,0) \notin R_{++}^4

(16) (1,1,1,0) \notin R_{++}^4


(17) (1,1,1,0) \in R_{+}^4

(18) (1, 4, 3)  \in [1,6)^3

(19) (1,6) \in \{1,2,3\}\times R

(20) (1, 6,5) \in \{1,2,3\}\times R^2

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最後は集合の引き算についてです。2つの集合ABに対して、A\setminus BAの要素の中でBに属さないもの全体からなる集合です。例えば\{1,2,3\}\setminus \{1\}=\{2,3\}です。\{a,b,c,d\}\setminus \{a,b\}=\{c,d\}です。R_{+}\setminus R_{++}=\{0\}も確認してみてください。これは、非負の実数全体の集合に入っている要素の中で正の実数全体の集合に入っていないもの全体からなる集合であるため、\{0\}となります。

以下の文はどれも正しい文です。1つずつ正しいことに納得してください。

(1) \{1,2,3\} \setminus  \{1,2\} =\{3\}

(2)\{1,2,3,4,5\} \setminus  \{1\} = \{2,3,4,5\}

(3) \{3,4,5\} \setminus  \{3\} = \{4,5\}

(4) \{a,b,c,d\}\setminus \{a,b,c\}=\{d\}

(5) 4\in R_{++} \setminus  \{3\}

これで前編の内容は終了です。以下に3つのコラムがありますが、これらは中編、後編を読むのに必須なので見てみてください。

 

コラム:\setminusは便利。

\setminusって概念は実際に役立つのかですが、意外と役立ちます。

例えば、ある学校にいる人の集合としてQ=\{生徒1,...,生徒200,先生1,...,先生30,校長先生\}を考えましょう。ここで学校でビンゴ大会をやるとして、校長先生は主催者だからビンゴには参加できないとしましょう。すると、ビンゴ大会の参加者はQ\setminus\{校長先生\}と表されます。

もちろん新しい集合Pを、P=\{\text{生徒1,...,生徒200,先生1,...,先生30}\}と書き出して定義してもいいですが、さすがに面倒。1人引くだけなんだから、Q\{校長先生\}と書きたくなります。表記として便利です。また、生徒1が欠席した場合にも、\setminusを使うと簡単にビンゴの参加者全体からなる集合はQ\setminus\{生徒1,校長先生\}と書けます。

 

コラム:R_{++}^kR_{+}^k\setminus\{(0,..,0)\}

k種類の財がある状況を考えましょう。りんごとバナナしかないならk=2です。このとき価格ベクトルを考えましょう。りんごとバナナのケースでは、りんごの値段とバナナの値段を並べた(10, 1)などが価格ベクトルです。その経済にある財の価格を順番を気にして並べたのが価格ベクトルです。

k種類の財がある市場において、「潜在的に実現しうる価格ベクトル」全体からなる集合を考えることにしましょう。

このときある先生が授業において、「潜在的に実現しうる価格ベクトル全体からなる集合はR_{++}^kです」と言ったとしましょう。この場合、すべての財の価格が1であるような(1,1,..,1)という価格ベクトルは入っていますが(潜在的に実現しうるものとして考えることになりますが)、(0,1,1,..,1)のようなある財の価格が0であるような価格ベクトルは入っていません。つまり、この先生は「どの財の価格も0になることはない(そもそもそのケースを考える必要はないから考える対象から外してしまおう)」という立場だと分かります。

では他の先生が、「潜在的に実現しうる価格ベクトル全体からなる集合はR_{+}^k\setminus\{(0,..,0)\}です」と言ったとしましょう。こちらの方がポピュラーだと思います。ちなみに、(0,..,0)の部分は0k個並んでいると思ってください。(1,1,...,1)R_{+}^k\setminus\{(0,..,0)\}に属しますし、今回は(0,1,...,1)も属します。つまり、この先生は価格がマイナスになる可能性は排除していますが「ある財の価格が0になることはない」とはいっていないようです。しかし、(0,..,0)R_{+}^k\setminus\{(0,..,0)\}に属していないので、「全部の財の価格が0であるような価格ベクトル」は考える対象から排除していると分かります。

このように、同じ「価格ベクトル」という概念でもそれがどの範囲になり得るかはその先生が行う定式化によって違ったりします。これは非常に重要で初回授業で説明されたときに聞き流していると、証明の時に混乱したりします(証明の手順が変わったりするので)。丁寧に確認しておくのがオススメです。

 

コラム:R\cup R^2 ってどんな集合?

復習のために、R\cup R^2 という集合について考えてみましょう。

Rは実数全体からなる集合で133などが属しています。R^2R\times Rという集合で(1,2)(4,12)などが属しています。

すると、133(1,2)(4,12)はどれもR\cup R^2 に属していることが分かります(なぜなら、これら4つはRR^2のどちらかには属しているので、\cupの定義より、R\cup R^2 にも属しています)。

もちろん(1,2,4)などはRにもR^2にも属していないので、R\cup R^2 には属していません。R\cup R^2 \{1,100,-33,(1,3),(44,3),(99,0),....\}のように「実数」と「2つの実数の組」からなる集合です。

以下を確認してみてください。

(33,22,1) \in R^3
(33,22,1) \in R\cup R^3
(33,22,1) \notin R\cup R^2
(1,2) \in N^2
(1,2) \in NUN^2
(1,2) \notin N\cup N

最後のはN\cup N=Nに注意してください。


中編はこちら