Fair Allocation Ruleの領域の色々な公平性の概念(後半)

 

前編はこちら


公平性8(\mathcal{G},\Lambda) envy free

この公平性は具体的な1つの公平性ではなく、(\mathcal{G},\Lambda)として何を採用するかによって内容が変わります。特定の仕方によっては、envy freeに一致したり、average envy freeに一致したり、strict envy freeに一致したりします(ただし、定義を見ると分かるようにbalanced envyに一致することはありません)。それらを統一的に扱おうとしているがゆえに定義は少し込み入りますが、以下のように定式化されます。

\mathcal{G}=(G_1,….,G_n)および、\Lambda=(\Lambda_1,,...,\Lambda_n)が与えられたとき、

(ここでG_iNの空ではない部分集合でiさんとの比較に用いられる人々の集合)

(ここで\Lambda_i\Delta^{G_i}=\{(\lambda_j)_{j\in G_i}\ \in [0,1]^{|G_i|}\ |\ \Sigma_{j\in G_i}\ \lambda_j\ =\ 1\}の空ではない部分集合で、iさんについて行う比較のweight全てからなる集合)

 

(各G_i\{1,2,5\}みたいなかんじで、各\Lambda_i\{(0.1,0.5,0.4),\ (1,0,0),\ (0.2,0.4,0.2)\}みたいなかんじです)

経済e\in \mathcal{E}^Nにおいて配分z\in Z(e)(\mathcal{G},\Lambda) envy freeであるとは、任意のi\in Nと任意の(\lambda_j)_{j\in G_i}\in \Lambda_iについて、z_i\ R_i\ \Sigma_{j\in\ G_i}\ \lambda_j\ z_jが成り立つことである。

なお任意のiさんについて、G_iiさん以外全員からなる集合であるG\setminus\{i\}としておいて、\Lambda_in-1次元の単位ベクトル(例えば(1,0,...,0)など)全体からなる集合としておくと、(\mathcal{G},\Lambda) envy freeは普通のenvy freeに一致します。


公平性9ranking関連

これは他とは形式が少し異なります。今までの概念は「その概念の条件を満たしているか満たしていないか」のどちらかでしかありませんでした。そのため例えばenvy freeであればenvy freeの条件を満たしていない2つの配分についてどちらの方が公平かなどについては何も教えてくれませんでした。

このような「荒さ」に対処するアイディアとして、

9-1羨望が発生している各i,j(ただしiさんからjさんへの羨望が発生している)についてu_i(z_j)-u_i(z_i)を計算して、その合計で配分の公平度合いを測る。

などが出てきます。

utility functionの値を比較しているため、utility functionは単に選好を表すものであるという立場からは外れてしまう難点はありますが、各配分にこのように公平性の度合いを定めると、envy freeではない配分間での公平性の比較が可能になります(なお、envyが発生していない配分については0で処理をしておく)。

他のアイディアとしては、

9-2羨望が発生している各i,j(ただしijを羨望している)について、\lambda_{ij}\lambda_{ij}\ z_i\ I_i\ z_jを満たす値として定めて、その合計で配分の公平度合いを測る(今回は値が小さい方が公平性が大きい)。

なども考えることができます。

羨望が発生しているi,jさんについて(つまりz_j\ P_i\ z_iとなっているi,jさんについて)、iさんのベクトルであるz_iを何倍してあげればz_jと無差別になるかを計算しているわけです(ただしwell-definedになるためには条件が少し必要ではあります)。

また、make senseするかは置いておいて例えば9-1において、羨望が発生しているかに関係なく、全てのペアについてu_i(z_j)-u_i(z_i)を計算して合計すればenvy freeな配分間での公平性の比較をすることもできます。

これらのように公平性の度合いを測ることで、feasibleな配分の集合上により細かい(満たしているか満たしていないかという0,1よりも細かい)rankingを考えることができます。


公平性10Egalitarian Equivalence

envy freeと並ぶ有名な公平性の概念です。

経済e\in \mathcal{E}^Nにおいて配分z\in Z(e)Egalitarian Equivalentであるとは、あるベクトルz_0\in \mathbb{R}_+^kが存在して(z_0,...,z_0)\ I\ zが成り立つことである。

全員にとって、あるz_0というベクトルと自身の割り当てられたベクトルが無差別になっているということです。



公平性11equal-division core

この公平性はequal division lower boundをグループに関して一般化したものです。equal division lower boundは各個人について「私はそのベクトルを割り当てられるくらいなら\frac{1}{n}\Omegaを貰った方がマシだ」とならないことを要求していていましたが、今回のequal-division coreは各グループG\subseteq\ Gについて「私たちはそのベクトルを割り当てられるくらいなら\frac{|G|}{|N|}\Omegaを貰って自分たちで再配分した方がマシだ」とならないことを要求します。

経済e\in \mathcal{E}^Nにおいて配分z\in Z(e)equal-division coreに属するとは、任意のG\subseteq\ Nについて、次の条件を満たす(z_i’)_{i\in G}\in \mathbb{R}_+^{k|G|}(ただし\Sigma_{i\in G}\ z_i’\ =\ \frac{|G|}{|N|}\Omega)が存在しないことである; \forall i\in G\ z_i’\ R_i\ z_iかつ\exists i\in G z_i’\ P_i\ z_i


公平性12no-domination for groups

この公平性はno-dominationをグループに関して一般化したものです。

経済e\in \mathcal{E}^Nにおいて配分z\in Z(e)no-domination for groupsを満たすとは、「あるグループG,G’\subseteq\ Nが存在して、\frac{\Sigma_{i\in\ G}z_i}{|G|}\ \gt\ \frac{\Sigma_{i\in\ G'}z_i}{|G’|}」が成り立たないことである。

どの2つのグループについても、平均を取ったときにどちらかのグループの方が全ての財において多く貰っている(そして1つの財については厳密に多い)ことはないことを要求します。

今回は扱いませんが、envy freeなどについてもグループに関する一般化をすることはできます。

最後に2Choice setに関する公平性を紹介します。


公平性13equal opportunity

この公平性は「どの個人についても同じchoice set Bから選択していると捉えられる」という意味での公平性です。

経済e\in \mathcal{E}^Nにおいて配分z\in Z(e)equal opportunity allocationであるとは、ある空ではないB\subseteq\ \mathbb{R}_+^kが存在して、任意のi\in Nについてz_iR_iB上で最大化していることである。


公平性14equal opportunity equivalence

1つ前の公平性をEgalitarian Equivalenceっぽいかんじにしたのがこの公平性です。

経済e\in \mathcal{E}^Nにおいて配分z\in Z(e)equal opportunity equivalentであるとは、ある空ではないB\subseteq\ \mathbb{R}_+^kが存在して、任意のi\in Nについて、z_i\ I_i\ z_i^*が成り立つことである(ここでz_i^*R_iB上で最大化するベクトル)。


以上です。今回は割と単純な経済について考えてきましたが、productionを入れた経済を考えるなど考える経済を変えることでも新しい公平性の概念が出てきたりします。興味を持った方はぜひHandbook of Social Choice and WelfareChapter21を読んでみてください!

 

Fin.