メカニズムデザインの3つの新しい領域

僕の指導教員は社会的選択理論が専門の加藤先生なのですが、実はM1の冬まではオークションなどメカニズムデザインが専門の松島先生に指導教員になって頂きたいと思っていて、個別に相談させて頂いたり院ゼミに参加させてもらったりしていました。

そういうわけで、去年はそれなりに多くの時間をかけて松島先生の著書や論文を読んだのですが、その中でメカニズムデザインについて「そういう観点から考えようとしているんだ!面白い!」と思ったテーマが3つあります。*1

カニズムデザインは最近はあまりやっていないのですが、今日NFTなどトークンに関する本を読んでいたときに、ふと「あのとき面白いと思った3つのテーマはどれもめちゃくちゃ大事になるかもな」と思い出したので、その3つの領域について簡単に書いておこうと思います。

1つ目は、「分かりやすさ」の観点。

これは「わかりやすさのための制度設計」という本を松島先生が出されていて、それを通じて知った観点です(また先生の授業においても以下に出てくる「プレーヤーの頭の中」の話は随所でされていました)。基本的なメッセージとしては「プレーヤーたちから制度がどう見えているか(or 制度に直面している状況がどう見えているか)」の観点を大事にしよう、だと思っています。

特に本の中に出てきた、

「プレーヤーの『心の情景』」

という言葉が印象的でした。

標準的な「数学的にモデルをこうセッティングして、こういう解概念を考えると数学的にはこうなるよね」という話だけでなく、「そのような状況のときにプレーヤーたちの心の中はどうなっているんだろう?」と考えてみて、そのような観点から新しい概念を作ったりする。

「プレーヤーの心の情景(プレーヤーの心の中がどうなっているのか)」の観点は経済学の実装の観点からも今度発展があっても良さそうだなと思っています。

2つ目は、「プライバシー」の観点。

「Privacyの経済学」のようなサーベイ論文を松島先生の院ゼミで輪読したときに、オークションとプライバシーの話がでてきて面白いと思いました。

例えば第二価格オークションでは(基本的には)プレーヤーたちは正直申告することが知られているが*2、プレーヤーたちが自身の評価額を(プラットフォーマーや周りの人に)知られたくないと思っているときはそうとは限らないよね、という議論だったと思います。

色々な領域においてプライバシーは重要なトピックになってくると思いますが、メカニズムデザインに関しても重要にはなってくるかもなと思いました。

3つ目は「優しさ」の観点。

これは松島先生のワーキングペーパーで読んだと思うのですが、例えば普通のメカニズムデザインだと、それぞれの個人の評価額を同じ重みで評価するのが普通だけど、その論文では、例えば「子どもの便益を他の人より2倍だけ重視する」社会的選択関数を考えるとどうなるだろうという話を扱っていました。

この話は個人的にとても興味を持ちました。

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以上の3つの観点:「分かりやすさ」の観点、「プライバシー」の観点、「優しさ」の観点、が松島先生の著書などを読む中で個人的に「面白いな」と感じた観点です。

最近はメカニズムデザインについては時間があるときに標準的なトピックを扱っている本を読んでいるくらいだったのですが*3、この記事を書いていたら、せっかくなので3領域についても論文を読んだりしたくなってきました。やっぱり面白そう!

Fin.

*1:この記事のタイトルは「松島先生の著書などを読んでいるときに、自分が「面白い」と感じた3つのメカニズムデザインの領域」とかが正確だと思う。

*2:実証研究的にどうであるかは分からないです。ここでの意味は、(標準的なセッティングにおける)理論的な予測としては正直申告が行われるというだけです。

*3:とはいえ坂井先生たちの「メカニズムデザイン」なのでちゃんと読むのはかなり大変です。