3つの逆需要関数。

*この記事は中級レベルの経済学を前提にしています。

先日、松井先生の「慣習と規範の経済学」を読んでいたらクールノーモデルの逆需要関数が普通の定式化より一般的な形で行われていて「なるほどなぁ」と思ったので、クールノーモデルにおける逆需要関数を3つ整理してみようと思います。

例えば学部で初めてクールノーモデルを習うとき、
Xを総生産量として以下の逆需要関数が用いられることが多い。

逆需要関数1
P(X)=a-bX

まぁクールノーの逆需要関数といったらこれってかんじ。基本的にはこれでいいと思うが、最初にこの定式化を見たとき、「Xが大きくなると価格がマイナスになるけど、それはいいのかな」とは疑問に思っていた。とはいえ、その点について意識した定式化に出会わなかったのでこれをそのまま受け入れていた。

しかし、学部4年生くらいの時に読んだ岡田先生のゲーム理論の本では逆需要関数は次のように定式化されていた。

逆需要関数2
P(X)=max\{a-bX,0\}

これを見たときに「これだ!そうやって定式化すればいいのか、言われて見れば当たり前だけどこれでモヤモヤが解決された!」となった。それ以降は最初のタイプの逆需要関数が出てきたときにも基本的にはP(X)=max\{a-bX,0\}に心の中で読み替えたりしていた。*1このときは結構モヤモヤが解消された記憶がある。

逆需要関数についてはそれ以降は特に何もなかったのだけど、この前松井先生の「慣習と規範の経済学」という本を読んでいたら、この2つとは違う形で逆需要関数が定式化されていた。

逆需要関数3
以下の2つの条件を満たすP(\cdot)
(i)連続である、(ii)ある\bar{X}\gt 0が存在して、すべてのX\lt \bar{X}において2回連続微分可能かつP'(X)\lt 0であり、すべてのX\geq \bar{X}についてP(X)=0

これは逆需要関数2のグラフを考えたりすると気持ちがよく分かる。条件(ii)については、ある特定の総生産以上だと価格は0になって、それより少ない生産量のときには生産量が増えると価格が減少していくことことを要求している(ただしその減少の仕方は必ずしも線形であるある必要はない)。*2

改めて3つの逆需要関数を並べてみる。

逆需要関数1
P(X)=a-bX

逆需要関数2
P(X)=max\{a-bX,0\}

逆需要関数3
以下の2つの条件を満たすP(\cdot)
(i)連続である、(ii)ある\bar{X}\gt 0が存在して、すべてのX\lt \bar{X}において2回連続微分可能かつP'(X)\lt 0であり、すべてのX\geq \bar{X}についてP(X)=0

1には分析をとてもシンプルにしてくれる嬉しさがあるし、2にはシンプルさを保ちながらも価格が負にならないように考慮している嬉しさがあるし、3には一般的な取り扱いができる嬉しさがある。こうやって並べてみると「どれもいいなぁ」という気がしてきます(笑)。

Fin.

*1:ちなみに、X=0のときに価格がaになるのはいいの?って気もしてくるかもしれないけれど、クールノーモデルを考えるときには利潤の定義を見れば、X=0のときには価格が何であれ利潤は0になるので、「X=0のときにはP(X)=0にしておいて別に問題ない」ってかんじだと思う。ただし価格の高さそのものに意味を見出す場合などにはもう少し丁寧に考える必要は出てくると思う。

*2:条件(i)は、条件(ii)だけだとbar{X}において不連続になってしまう可能性を排除できないので入れているだけだと思う(それ以外の点における連続性は条件(ii)で保証できているはず)。