修論指導は”映画鑑賞”?

指導教員の先生とのミーティングにおいて、映画を勧めてもらった。

社会主義の未来社会を描いた映画で、社会的選択理論のヒントになりそうとのことらしい。さっそく勧められた映画「giver」を見てみた。この記事では、それを見て面白いと思ったことや考えたことをメモしてみようと思う。

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・人種差別がなくなるように人種という概念自体をなくす。

そもそも人間から色を識別する能力が消されている設定だったので人種に限った話ではなくて、よく分からない世界になっていたのだが、「差別をなくすには概念自体をなくしてしまえばいいんだ」という発想には驚いた(でも高度に脳に干渉する技術が発展した100年後とかには、この種の問題は現実味があるかもしれない)。

・「たしかに意外と普通に暮らすよね、そりゃ」と思った。

人々は色を認識しないし(というより色という概念があることを一部の人を除いて知らないし)、「音楽」の存在なども知らない設定なのだけど、その世界の人たちは何事もないように普通に暮らしていて、「まぁたしかにそれが自分たちにとっての普通だったら、特に何も感じないかもな」と思った。

ということは、

仮にみんながすごく仲の良く暮らす社会が実現したとして、それに人々が意味を見出すはそうではない世界を知っているからであって、生まれたときからずーーーっと皆んなが仲が良い社会に住んでいたらなんとも思わないのかもしれないわけだよね、と思ってこのへんは難しいなと思った(現状がどうというより、状況が進展していることが重要かもしれない?)。

・思考法として、「自分たちの世界から大きく何かが欠けているとしたら?」と問うのは大胆な発想をしたいときには面白いかもしれない。

今回は現実世界(つまり僕たちが普段住んでいるこの世界)が「色々なものが揃っている世界」で、それに対して色々なものが概念レベルで失われた世界が映画の中で描かれていたわけだけど、逆に「概念レベルで現実世界よりも多くのものがある世界」が存在するとしたらそこはどうなっているだろう?みたいな思考法は面白いかもしれない。「もしこの現実世界が実はもとの世界から何か大事な概念を失くした世界だったとしたら、その概念ってなんだろう?」みたいに考えてみると大胆な発想ができるかも。

実は前に、社会的選択理論でaxiomについて考えているときに、「efficiencyとequityだけではなくて何か大きなそもそもの見落としがあったりしないかな」と考えてみようとしたことがあるけど、全然上手くできなかった。ただ今回の映画は(現実世界と比べて色々な)概念自体がなくなっている世界と現実世界を交互に描いてくれていたので、こういう思考の行き来みたいなものが、ちょっと上手くできるようになったりしたかもしれない。研究において試すかは別にして今度やってみようと思う。

・思考法として、視覚とか聴覚とか気持ちとかの切り口で社会を見てみるのもありかも。

今回の映画では、まずは視覚について取り上げていて、次に聴覚について取り上げていて、「視覚って観点から現実世界を見てみる」「聴覚って観点から現実世界を見てみる」みたいな経験になった。これは新鮮だった。

経済学をやっているときには、視覚って観点から、聴覚って観点から、Feelingって観点からみたいな切り口で何かを考えることって少ないと思う(経営学とかだと違うのかな?)。でも例えば選挙制度について考えるときに、「選挙において人々は何を感じるだろう?」とか「投票所に行った時に人々はどういう視覚情報を得るかな?」とかって考えると、前者の視点からは「人々が自分が所属するグループについて誇りを持つような制度設計ってできるかな」みたいな発想が出てくるかもしれないし、後者の観点からは「実際に投票所にいくと近所の誰々さんが投票しにきたなという情報が分かったりするな。誰が投票に参加したかという情報をどう扱ったらいいだろうか」みたいな発想が出てくるかもしれない。

視覚、聴覚、感覚、みたいな切り口は色々な場面で使えるだろうし、こういう「切り口のレパートリー」が自分は経済学的な切り口に限定されつつあるような気がしてきたので、色々と試してみたいと思った。

・「ここでは、すべての過去が消し去られていた」

これは冒頭で出てきた言葉。ちなみにタイトルのgiverという言葉は、人々から消し去られた記憶を選ばれた人間に渡す人を指す(記憶をgiveする人というかんじ)。実は前の学期に、社会的選択理論の公平性の文脈で「過去をどう扱うか」を考えようとして、でも難しそうで諦めていた経緯もあって、「過去」というテーマについては改めて考えてみたいと思った。

「過去」とか「歴史」とかの概念について考えるのってすごく難しそうだけど、真面目に向き合ってみると、現在と未来しかみない場合には見えてこなかった世界を見せてくれそうで、向き合いがいがある概念かもなと思った。「ここでは、すべての過去が消し去られていた」というキャッチーな言葉に出会ったことで、その重大さを認識したかんじ。





以上です。

やっぱり映画とか壮大なかんじのものに触れると大胆な発想とかはしやすくなりそうで、時々みると頭が柔らかくなっていいかもなと思いました。

Fin.