社会的選択理論の研究について教わったことメモ

*この記事は中級以上の社会的選択理論の知識を前提とします。

指導教員とのミーティングなどで「あ、これは学びになるな」と思ったことをメモしておきます。以下は基本的に手法としてはcharacterizationについてなので、社会的選択理論に馴染みがない(or 不可能性定理しか見たことがない)方は、期待効用理論をイメージしてください。あれはくじ全体上の選好について、「これらの公理を満たすのはこの形の表現を持つものに限る」と示しているのでcharacterizationです。

axiomを読むときにそのaxiomについて自分はどう思うかを意識する

社会的選択理論ではルール(or 選好)に満たしてほしい性質(axiom=公理)について考えるが、論文でaxiomを読むときには、「自分はこの公理についてどう感じるのか、たしかに重要な公理だなと思うのか、それとも違和感を感じるか」のようなどう感じるかを確認するのも重要だとアドバイスされた。

社会的選択理論を始める前にはこういう感覚を大事にできていたけど、段々とテクニカルなことが見えるようになってくるとそこばかりに注目するようになってしまっていた。両方大事。

axiomを見るときは何をcharacterizeしたいかを見ながら読む

これは不可能性定理ではなくcharacterizeのときだけど(これらのaxiomを同時に満たすルールは存在しないと示すのが不可能性、これらのaxiomを同時に満たすルールはこれに限られると示すのがcharacterization)、最終的にどういうルールをcharacterizeしたいのかを見ながらaxiomを読む(論文では基本的にaxiomが先に提示されるので普通に読むとルールは分からない状態で読むことになる)。得たいルールを見ながら読むと、「まぁ、これをcharacterizeしたいならこの公理は必要だよね」みたいなことが分かったり、「なんでこれをcharacterizeするのにこの公理が必要なんだろう、ちょっとすぐには分からないな。ということはこの公理にトリックが隠されているのかな」みたいなあたりがついたりして、一段深く読める。


他のルールはどのaxiomを満たすのかを確認する

charaterizeしたいルールはそりゃ取り上げられている全部のaxiomを満たすわけだけど、じゃあ他のルールはどのaxiomを満たすのかも確認する(例えば「ほぼ同じモデルを扱っている先行研究でcharacterizeされたこのルールは今回のaxiomのうちどれを満たしてどれを満たさないか」を確認するなど)。こうすることでどのaxiomにトリックがあるのかが分かったりする。

実際に僕が出会った例でいうと6個くらいのaxiomが出てくる論文で、そのうち1つのaxiomの解釈がどうにもよく分からなかった(分かるっちゃ分かるけどなんとも言えないかんじ)。そのときに先生から、「そのaxiom以外の5つのaxiomはこの分野で有名なこのルールも満たすよね(そしてそれは割とシンプル)。とうことはいま解釈につまっているこのaxiomにトリックが隠されていると考えられそうだね。そういう意味では、このaxiomはすぐに理解できなくてもいいかもね、証明を見てからじゃないと分からないんじゃないかな」みたいなことを言われ、いま注目してるルールだけではなくて他のルールはどれを満たすかを確認するのは大事だなと思った。

axiomの独立性を自分で確認する

読んできた論文の内容を発表してるときに、「そういえばこの論文のcharacterizationで使われているaxiomたちの独立性は確認したの?」と先生から言われた(独立性の確認とは、axiomが5つならそれぞれaxiomについて、それ以外の4つのaxiomは満たすがそのaxiomだけ満たさないルールが存在することを確認すること)。独立性の確認は最初に言われたときには大事なのかよく分からなかったけど(独立性自体が重要なことは分かっていたけど論文になっているということは基本的には独立性はチェックされているわけでそれを自分で時間かけてチェックするべきか分かっていなかったけど)、実際にこの作業をやっている途中で論文の間違いに気づいたりして、大事だなと思った。

数学的に発想する

これは自分で望ましいルールを考えるときに(つまり研究における)のコツだと思うのだけど、「数学的に発想する」のも重要だと教わった。意味合いで考えるのも重要だけど、それだけではなく数学的に発想するやり方もある。具体的にそれがどういう頭の使い方なのかは正確には分かっていないけど、前にある論文を読んでいたときに「このルールは(意味合いとしても綺麗だけど)数学的に綺麗だな」と感じることがあって、そういうのに普段から注目しておくとできるようになるかもしれない。

Fin

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