Bossert&Fleurbaey(1996)の紹介記事の補足。

 

先日紹介したBossert&Fleurbaey(1996)の証明などを補足しておきます(また、追記でこの論文を発表した時に指導教員から貰ったコメントについても載せておきました)。論文には載っていない証明もあるので少し間違っているところもあるかもしれません。

ちなみに、指導教員との読んできた論文を発表するタイプのミーティングの準備として「発表論文について先日の記事くらいに内容をまとめておいた上で、この補足記事くらいの内容を考えておく。そして先日の記事については暗記して即行で再現できるようにして、この記事についてはその場で考えれば再現できるようにしておく」くらいの準備をするようにしています(なお、発表は何もみずに読んできた論文についてその場で板書しながら説明する。基本的には前回の記事の内容を書いて、必要に応じて今回の記事の内容も入れ込むかんじ)。

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まずは前回の記事で省略したA0 implies A1の証明。元論文ではもう少し細かい論理関係が示されていて(より多くの公理を導入していてややこしいことになっていて)、自分で考える必要が生じた。

なおA0 implies A1を示すだけではA0がA1より強いことを示したことにはならず、(anonymityと)A1を満たすが(anonymityと)A0を満たさないFを具体的に持ってくることも必要だがそこについては省略。B0 implies B1についても同様。

A0 implies A1

Suppose F satisfies A0。

Fix any a\in \Omega^n and any i,j\in N such that a_i^E=a_j^E
WTS*1:F_i(a)=F_j(a)

このあとは言葉で書いてしまうと、aにおいてa_i^S=a_j^Sであればanonymityより話は終わりで、もし違う場合にはaと基本的には同じだがa_j^Sa_i^Sに変えた\bar{a}を考えるとanonymityよりF_i(\bar{a})=F_j(\bar{a})となる。あとは\bar{a}aは一箇所Sが違うだけなのでA0よりF_i(a)=F_j(a)を得る。

Q.E.D.

B0 implies B1

Suppose F satisfies B0。

Fix any a\in \Omega^n and any i,j\in N such that a_i^S=a_j^S
WTS:F_i(a)-f(a_i)=F_j(a)-f(a_j)

このあとは言葉で書いてしまうと、a_i^E=a_j^Eであるなら、anonymityよりF_i(a)=F_j(a)が従い、またa_i=a_jであるからf(a_i)=f(a_j)をも従うのでF_i(a)-f(a_i)=F_j(a)-f(a_j)を得る。

a_i^E=a_j^Eでない場合にはaと基本的には同じだがa_j^Ea_i^Eに変えた\bar{a}を考えると、F_i(\bar{a})-f(\bar{a}_i)=F_j(\bar{a})-f(\bar{a}_j)が従う。\bar{a}からaへの変化を考えるとB0よりiさんについてはF_i(a)-f(a_i)=F_i(\bar{a})-f(\bar{a}_i)であり、jさんについてはjさんのEの増加分は全部jさんにいくのでF_j(a)-F_j(\bar{a})=f(a_j)-f(\bar{a_j})となりF_j(a)-f(a_j)=F_j(\bar{a})-f(\bar{a}_j)を得る。

Q.E.D.
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あとはTheorem1とTheorem2の証明。

Theorem1のonly if part

Suppose that F satisfies A0 and B2。
Fix any a\in \Omega^n

Define
\tilde{a}=( (a_1^E,\tilde{a}^S),(a_2^E,\tilde{a}^S),...,(a_n^E,\tilde{a}^S))
a^1=( (a_1^E,a_1^S),(a_2^E,\tilde{a}^S),...,(a_n^E,\tilde{a}^S))
\ldots
a^{n-1}=( (a_1^E,a_1^S),...,(a_{(n-1)}^E,a_{(n-1)}^S),(a_n^E,\tilde{a}^S))
a^n=a

↑最終的には、最初にfixしたaに対して\forall k\in NについてF^{EE}を定義した式が成り立つことを示したい。そういう意味ではaを入れたときにどうなるかを知りたいわけだが最初からそこを攻めるのではなくまずは\tilde{a}を用意する。すると全員について\tilde{a}^SになっているからB2が使える。そしてこそから、一人ずつa_i^Sに変えていけばA0が使えて、最後にa^n=aに辿り着けるという方針。

By B2,
F_i(\tilde{a})=f(a_i^E,\tilde{a}^S) \forall k\in N

↑B2:社会的環境が全員referenceで同じならその人の課税前収入がそのまま収入。

By A0,
F(a^1)=f(a_i^R,\tilde{a}^S)+\frac{1}{n}[f(a_1^E,a_1^S)-f(a_1^E,\tilde{a}^S)] \forall k\in N

Repeated application of A0 yields,
F_i(a)=f(a_i^E,\tilde{a}^S)+\frac{1}{n}\Sigma_{j\in N}[f(a_j^E,a_j^S)-f(a_j^E,\tilde{a}^S)]  \forall k\in N*2 

Q.E.D.

Theorem2のonly if part

Suppose that F satisfies A2 and B0。
Fix any a\in \Omega^n

Define
\tilde{a}=( (\tilde{a}^E,a_1^S),(\tilde{a}^E,a_2^S),...,(\tilde{a}^E,a_n^S))
a^1=( (a_1^E,a_1^S),(\tilde{a}^E,a_2^S),...,(\tilde{a}^E,a_n^S))
\ldots
a^{n-1}=( (a_1^E,a_1^S),...,(a_{(n-1)}^E,a_{(n-1)}^S),(\tilde{a}^E,a_n^S))
a^n=a

↑方針は先ほどと同じ。
ただし以下でB0を連続適応していくところは若干様子が異なる。

By A2,
F_i(\tilde{a})=\frac{1}{n}\Sigma_{j\in N}f(\tilde{a}^E,a_j^S) \forall k\in N

↑A2:努力が全員referenceで同じなら所得も同じになってね。

Repeated application of B0 yields

F_1(a^1)=\frac{1}{n}\Sigma_{j\in N}f(\tilde{a}^E,a_j^S)+f(a_1)-f(\tilde{a}^E,a_1^S)=F_1(a)
\ldots
F_n(a^n)=\frac{1}{n}\Sigma_{j\in N}f(\tilde{a}^E,a_j^S)+f(a_n)-f(\tilde{a}^E,a_n^S)=F_n(a)

↑先ほども今回も1人ずつ変化させていくわけだが、先ほどはSを変化させていったのでA0より全員が等しく取り分が各ステップにおいて追加されていったが、今回は各個人は自分のEが変化したステップでのみ取り分を変化させてそれ以外のステップでは変化させない。

Q.E.D.

Theorem1のif part

Suppose that F=F^{EE}

B2:*3
Fix any a\in \Omega^n such that a_i^S=\tilde{a}^S\ \forall i\in N
WTS:F_k(a)=f(a_k)\ \forall k\in N
Fix any k \in N

Since a_i^S=\tilde{a}^S\ \forall i\in N, we have  F_k(a)=F^{EE}_k(a)=f(a_k^E,\tilde{a}^S)-0=f(a_k^E,a_k^S)=f(a_k)

A0:
Fix any a,\hat{a} \in \Omega^n and any l\in N such that
[a_l^E=\hat{a}_l^E \land a_j=\hat{a}_j \ \forall j\ne l]
WTS:F_i(\hat{a})-F_i(a)=F_j(\hat{a})-F_j(a)\ \ \forall i,j\in N

Fix any i,j\in N
このあとは言葉で書いてしまうと、aから\hat{a}への変化を考えたときに、F_k^{EE}の定義式を見ると第二項については全員に共通の部分なのでaから\hat{a}へ変化したときでいまfixしているi,jさんのどちらも同じように変化する。よって、F_i(\hat{a})-F_i(a)=F_j(\hat{a})-F_j(a)を示すにあたり大事なのはa\hat{a}で比べたときにF_k^{EE}の第一項がiさんとjさんで同じように変化することだが、この部分についてはiさんもjへんもaから\hat{a}に変化しても変わらないから(a\hat{a}を比べたときに変化するのはlさんのSだけでありiさんのEもjさんのEも変化しないことに注意)、どちらについても変化は同じ(第一項の変化は変化しないという意味で両者とも同じ)。

Q.E.D.

 

Theorem2のif part

Suppose that F=F^{CE}

A2:
Fix any a\in \Omega^n such that a_i^E=\tilde{a}^E \ \forall i\in N
WTS:F_i(a)=F_j(a)\ \forall i,j\in N

このあとは言葉で書いてしまうと、F_k^{CE}(a)に注目したときに第三項についてはi,jで共通しているので無視できる。よってi,jで第一項+第二項が等しくなることを確認すれば良いがどちらの個人についてはこの部分は0になるため等しい。

B0:
Fix any a\in \Omega^n and any l\in N such that
[a_l^S=\hat{a}_l^S \land a_k=\hat{a}_k \ \forall k\ne l]
WTS:F_k(\hat{a})=F_k(a)\ \ \forall k\ne l

Fix any k\ne l
このあとは言葉で書いてしまうと、F_k^{CE}(a)の定義式を見ると、第二項と第三項については変化しないことが分かる(lさんのEだけがa\hat{a}で異なりうることに注意)。するとあとは第一項だけであるが今考えているkさんはlさんではないのでa\hat{a}でこの部分は変わらない。

Q.E.D.

以上です。また細かいところとして、A0 implies A1とB0 implies B1についてanonymityがある上での関係性を示したわけだけど、もしない場合にはこの関係が成り立たないことを示すには適当な反例としてF^{EE}と基本的には同じだけど1さんには常に+1としてあげて2さんには常に-1をするようなFを考えるとこれはA0を満たすがA1は満たさなくなるはず。B0の方についてもF^{CE}で同じかんじに作れる。

Fin.

追記:この文献の発表をしたとき*4に先生から貰ったコメント。
 
・他の文脈において出てきていたEE(egalitarian equivalence)という公平性の概念をこの文脈に持ってきたのはこの論文の貢献(それまではこの文脈においてenvy-freeとかの方が優勢だった)。もしかしたら出版当初は(他ではあまり見ないルールである)CEを考えたことで評価されたかもしれないが、いまから見るとEEを持ってきたのが貢献。
 
・Theorem1とTheorem2がパラレルになっている(公理もパラレルになっている)のは綺麗で分かりやすい。ただ、このcharacterizationだけでは、証明もシンプルであり簡単すぎて論文にはならない。そこで(今回の発表では削っているが)その他の細かい公理についても考えて公理間の論理関係を明らかにしてcharacterization以外のところでの貢献も入れ込んでいる。

・一般論として、こういうcharacterizationが単純な論文では、それぞれのaxiomについてどういう哲学的背景があるかなど含めてちゃんと説明することが求められる傾向にある。

・「A0 implies A1ではanonymity使ったけど*5characterizationのところでは(th1でもth2でもanynomityは仮定はしているけど)anonymityたぶん使いませんでした」と発表で言ったら、「anonymityは平等に関する条件だよね。今回出てきた公理たちも平等に関する公理だよね。そうすると、charaterizationのところみたいに平等に関する公理がanonymityの他に2つもあるときにはanonymityは(それらからimplyされるなどして)要らなくなったりするのかもね」とコメントされた(こういうことはよくあるらしい)。

・論文を読んだときに、自分だったらここからどう発展させるかを考えるのは大事。例えば今回の文献を読んだときに、重大な問題点としてrefrerenceを持ってきていることはまず目につく。当時はこの問題自体が新しかったらよかったかもしれないがいまだったらaxiomに外生的によく分からず与えられたreferenceが入っているだけでrejectになりうる。まずはそこは気になった方がいい。あとは例えば一番弱いA2とB2の場合ではどういうruleにクラスが絞られるについて考えるとかも今度発展させる方向としてありうる(実際にはこれは研究アイディアとしてはあまりよくなさそうだけど、そうやってアイディアを出していくといいと教えてもらった)。
 
・それぞれのAxiomについてはちゃんと読めているとは思うけど、「そのaxiomについて自分はどう捉えたか(どう感じたか)」ももう少し考えておくと良いかもねというフィードバックを受けた(このaxiomは強すぎる気がするな、自分だったらこれはもう少し弱めたいなど)。
 
・普通の文脈におけるEEと今回のEEの関係をcheckするのが宿題。

*1:WTSはWant to Showの略でformalな表現ではないが松井先生が証明が迷子にならないように授業スライドでよく用いる。

*2:[tex:F^{EE}の定義と見比べるとあとは正負について調整するだけ。

*3:iとかkとかの記号の使い分けはそれなりに面倒なので、ここに限らず混乱しないように表記に工夫をした方が良かったりしそう。F^{EE}などの定義においてはiは特定の個人を指していないが証明において先にFix any iみたいにfixしてしまうと特定の個人を示すことになるので少し混乱するので、ここではFix any kとしてみた。

*4:発表したのはほぼ前回の記事の内容そのままでそれに加えてonly if partだけ簡単に直感を説明した。

*5:これの証明は発表ではしていない。