社会を構成する個人の集合について(社会的選択理論の文献を読むときの整理)。

*この記事はsocial choice theoryの文献を読む人向けの記事です。

他の経済学の分野でもそうだけど、社会的選択理論においても「社会を構成する個人の集合をN=\{1,...,n\}とする」みたいにモデルをセットアップすることがある。ただし文脈によってはこのNがその論文内でずっと固定されていることもあるし、人口政策のような異なる人口を比べるケースやsubgroupの整合性についての条件を考えるときなどにはNとして色々なものを扱えるようにモデルを作ることもある。今日はこの辺の類型とanonymityについて現時点での個人的理解を書いてみようと思う。

以下どのケースにおいても、
選択肢の集合Aは固定されているとする。

考えるのは、社会を構成する各個人についての「A上のutility fucntionのプロファイル」が与えられたときに、Aの要素を1つ割り当てるようなsocial choice functionについてである(もちろんcorrespondenceにしても良い)。utility fucntionについてinterpersonal comparabilityなどを課すかについてはここでは特に大事ではないので考えず、またA上のutility function全体からなる集合を\mathcal{U}とする。なお、以下の整理はsocial choice function以外のものについて考えるときにも基本的には同じである。

1:N=\{1,..n\}固定


このケースでは、個人の集合はN=\{1,...,n\}(ただし2≤n\lt \infty)で固定されている。すると考えるsocial choice functionは f:\mathcal{U}^n\rightarrow Aとなる。

そしてこの場合はfについてのanonymity(匿名性)は、For all u,\hat{u}\in \mathcal{U}^n, if there exists a bijenction \pi:N\rightarrow N such that (u_1,....,n_n)=(\hat{u}_{\pi(1)},...,\hat{u}_{\pi(n)}), then f(u)=f(\hat{u})、と定義できる。

このケースは単純である。

しかし、上の形式化では人口が変わるような状況やsubgroupの整合性のような条件を取り扱うことができず(例えば今回のsocial choice functionについて考えるなら、3人の社会におけるあるプロファイルでaが選ばれるなら4人の社会で先程と同じプロファイルだが全選択肢について無差別のutility functionが1つ加えられたプロファイルにもaを割り当てるという意味での整合性などは扱えず)、次のような枠組みを考える。

2:Nは色々で誰が社会を構成するかも気にする

このケースでは潜在的な人々の集合として\mathbb{Z}_{++}があって、社会を構成する人の集合は\{1,2,3\}であったり\{4,5\}であったり\{1,5,6,7,8\}であったりする。つまり社会を構成する人の集合はN\subseteq \mathbb{Z}_{++}(ただしN\ne \emptysetは有限)となる。

潜在的な個人の集合である\mathbb{Z}_{++}から有限の個人が選ばれて社会を構成しているような状況である。例えば(今回のsocial choice functionの話とは違うが)人口が異なるアメリカと日本のwelfareを比較したいとかだと人口が違う状況を包括して扱う必要があるので個人の集合として色々なものを扱えるよくにしておく。このときsocial choice functionは\ f:\cup_{n≥1}(\mathcal{N}_n\times\mathcal{U}^n)\rightarrow Aとなる。ここで、\mathcal{N}_n\{N\subseteq \mathbb{Z}_{++}\ |\ |N|=n\}である。つまり、「この人たちが社会を構成していてその人たちのutilityがこうであるとき」にはこの選択肢を選んでくださいと指定するのがsocial choice functionということになる。先程のケースよりもだいぶ扱う範囲が広くなっている。

そしてこの場合はfのanonymity(匿名性)は、For all n\in \mathbb{N}, and all (N,u),(\hat{N},\hat{u})\in \mathcal{N}_n\times \mathcal{U}^n, if there exsits a bijection \pi :N\rightarrow \hat{N} such that (u_1,...,u_n)=(u_{\pi(1)},...,u_{\pi(n)}), then f(N,u)=f(N,\hat{u})、と定義できる。

基本的には以上の2つのケースがあると考えておくと良いと思うが、case2のsocial choice functionにanonymityを課すと個人のラベルを気にしなくてよくなるので、枠組みを次のcase3のようにシンプルにすることができる。

3:匿名性を課したcase2(Nは色々だが誰が社会にいるかは気にしない)

case2のsocial choice functionにanonymityがあるときには、Social choice functionはf\cup_{n≥1}\mathcal{U}^n\rightarrow Aとすることができる。そして、これに対するanonymityはFor all n\in \mathbb{N}, and all u,\hat{u}\in \mathcal{U}^n, if there exists a bijection \{1,...,n\}\rightarrow \{1,...,n\} such that (u_1,..,u_n)=(\hat{u}_{\pi(1)},...,\hat{u}_{\pi(n)}), then f(u)=f(\hat{u})、と定義される。

case3は新しいケースというよりcase2において匿名性を課したときに話がこの枠組みに落ちてくるというイメージである。

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ここで少しややこしいのは(僕が混乱していたのは)、論文において「我々はcase2を考えていますが、anonymityを課すことを考えているのでcase3の定式化を行います」と丁寧に書いてくれている場合には、case3のようにsocial choice functionを定式化するだけでそれに対してanonymityを追加的に定義しておく必要はない(case2のfにanonymityを課すこととcase3のfにanonymityを課すことは同じものとして考えることができるので、こうかかれていたらcase2のfにanonymityが課されているのは当たり前)。

しかし、文献によってはいきなりcase3の定式化から入り(case2を本当は考えているけどanonymityを課しているからcase2に落ちてきているとは説明せずにいきなりcase3の枠組みが導入されることがあり)、このように場合には事前に匿名性について明記していないのでcase3のfについてanonymityを明示的に課しておく必要がある(case3の枠組みで考えているならanonymityは考えているだろうとしても良いのだと思うが事前に明記せずにいきなりcase3の定式化だけを行うなら明記した方が親切)。

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ただcase2の枠組みのまま考えを進めることは少なく、case2の枠組みを採用するときにはanonymityを課してcase3においてanonymityがある話に持っていくのだと思う。そういう意味では実際にお目にかかるのはcase1のfにanonymityがかかっている枠組みかcase3のfにanonymityがかかっている枠組みである場合が多いと思う。

ポイントはcase2からanonymityを課してcase3に落としてきていると丁寧に説明している場合はcase3のfにanonymityが課してあることは明らかなのでcase3用にanonymityをさらに定義しなくても良いが(もちろんしても良いが)、丁寧に説明せずに最初からcase3のfを持ってきている場合にはそれ用にanonymityを定義しないとよく分からないので基本的には説明されるということである。

Fin.

参考:例えばこの記事はcase1に該当。対してこの記事case3に該当するがcase2から落としたということは明記していないため(記事中ではaxiomは紹介していないが実際の論文においては)axiomとしてcase3に合わせたanonymityを定義している。なおどちらも今回の記事のようなsocial choice functionとは異なる枠組みを採用している。