今日は卒業式、、、あれ?



本日2023323日は東京大学経済学研究科の卒業式(正確には修了式)でした。本来だったら僕も卒業するはずだったのですが、今年は卒業せずに1年間卒業を延ばして来年卒業することにしました。なんだかややこしいことになったものです(笑)。

ということでこの記事ではなんでそうなったかについて書いてみようと思います。ちなみに、2024年の4月からは某社でデータサイエンティストとして働く予定です(会社名は聞かれても同期など以外には教えないので詮索しないようにお願いします)。



卒業を延ばしたのは総合的な判断ですが(色々なことを考慮したり色々な細かい事情があってのことですが)、一言でいうと、

「一旦は就職したいという気持ちはあるけど、就活も出遅れたし東大経研のカリキュラムの特殊性もあり修士2年間のうち1年間しか研究できなくて研究の世界をこのままでは何も知ることができないなと思ったから」というかんじです。そもそもなぜ就職が志望であるかについてはこちらの記事:デカルトなら博士課程に行く?就職する? を去年書いたのでご参照ください。



まぁ経済学研究科で普通にやっていると最初の1年間は必修のコア科目に追われて(手を抜くことはできるかもしれませんが、学部レベルと大学院レベルを分ける修行のようなものなのでこれは一定以上注力するのは必須だと思います)、コアが終わったM1の終わりのタイミングで指導教員が決まり、自分の専攻が決まるため、そこからの数ヶ月は自分が選んだ分野の勉強をようやく始められるという時期になっており自分が選んだ分野が楽しくてしょうがなくてしばらく打ち込んでしまいました。これは正直「そうする以外はちょっと考えられなかった」というかんじです。

そんなかんじで就活はとても出遅れたのですが、「でも卒業を延ばすのもなんだしな」と思っていたときにある企業の役員の人の話を聞く会のようなものに出たのですが、その人が「自分は大学を卒業したあとニート期間が数年あったが、そのあとにビジネスの世界に入っていまはこうやって最前線で戦っている」と話していて、それを聞いたときに「別にちょっとレールから外れるのは問題なさそうだな、むしろそこで自分らしさを磨いた方が大きな挑戦を将来的にできるかもな」と思い大きな影響を受けました。

他にも先輩に修士の卒業を延ばしている人がいることを知っていたりして(そしてそれぞれの事情はありつつも僕の同期にも複数名そのような選択を取っている人はいます)そのあたりからも、「別に卒業延ばしても大丈夫な気がするな。一番しっくりする道だしこれでやってみるか」と判断しました。

そこからは2024年卒用の就活をして(早めの就活になったのでちゃんと考えて好きな企業を受けることができました)、去年の12月には第一志望の企業から内定を頂いて、そこから卒業するまでの13ヶ月くらいの間は研究などに時間を使えるようになったかんじです。



この3ヶ月くらいは研究に打ち込んできました。

指導教員のもとで(お手伝いというよりは「これで不可能性定理出るか確認してみて」みたいな割と研究に近い)リサーチアシスタントをやらせてもらっているのですが、「あぁ研究ってこういう世界なのか、まったく想像と違ったな」というかんじに「これは卒業を延ばさなかったらまるで想像がつかなかっただろうな」と感じる経験をさせてもらっています。研究の面白いところもつまないところにも触れつつありますが、知らなかった世界を日々知ることができてここ数ヶ月はとても楽しかったです。

来月から春学期が始まり(とはいえ単位としてはあと2単位取るだけでいいのでかなり裁量はあります)、またリサーチアシスタントのいまのプロジェクトもここらへんで一区切りつきそうなので、勉強と研究の比率をどうするのか、リサーチアシスタントと自分の修論の比率をどうするのかなど色々考えてないといけないなと思っていますが(あとこのブログも次の1年間でどう運用していくかも真面目に考えないとなぁと思っています)、いずれにせよ楽しく過ごそうと思っています!

こんなかんじが僕の現状です。「こういう道も意外とありなのかな....?」と1つ下の学年の人や2つ下の学年の人が思うきっかけとなったら嬉しいです。あ、あと、これを忘れちゃいけない。同期のみなさんマジで卒業おめでとうございます!今日は会場にいけなかったけど今度あったときに「おめでとう~」って言います!笑

Fin.

 

 

 

 

東大経研の修士2年間ってぶっちゃけどうだった?



この記事は、東京大学経済学研究科の修士課程(経済学コース)のリアルな情報を提供しようとする試みです。

受験を本格的に検討している方、これから入学する方を読者として想定しており、修士課程が丁度終わるタイミングの現在のM2のアンケートを13名分載せています。

あくまで個人ブログを活用した情報提供ですので情報の正しさは保証されていないこと、公開後に削除•編集が行われる可能性があることはご了承ください。また、昨年まとめた2つの記事を事前に読んでからの方がコア科目などについてイメージしやすいと思うのでよろしければ「東大経研(経済学コース)に入学する方への情報提供」と「東大経研M1(経済学コース)のリアルな声 」もご参照ください。





【アンケートに入る前の基本知識】

コア科目: 必修の6科目。

トピック科目:コア科目の内容を前提としたトピック別の発展的な科目。

Sセメ:春学期の意味。SセメはS1タームとS2タームからなる。

Aセメ:秋学期の意味。AセメはA1タームとA2タームからなる。

GraSPP: 東大公共政策大学院。コア科目と博士進学の2点で関わる可能性がある。まずコア科目については、経研のコア科目は卒業するだけであれば、その一部を公共政策の対応する科目(比較的簡単)で代替することができる。活用している人はそこまでは多くない印象だが実質的に卒業を保証するような役割になっていて心強い。博士進学については、東大経研の博士課程に進学するには経研のコア科目で一定水準以上の成績を取る必要があり(公共政策の代替科目の成績では基準は満たされない)、それを満たせそうにないがどこかしかに博士進学したい場合には公共政策大学院の博士課程を目指すのが一つの道になっている(他には他大学の博士課程を目指す選択肢などがある)。今年はその選択肢を取る人が多かった。ただしこのルートについては賛否があるらしく来年以降も同じように活用できるか(出願はできるとしても同じくらい合格が出されるか)は不明。

コアの受け直し:(公共政策での代替をしない場合)、コア科目の試験を受けられるチャンスは最大で3回(M1の本試験と追試、M2の本試験)。このM2での受け直しのことを指す(試験だけではなく授業自体をもう一度聴講として受ける)。コア科目は基本的にはM1の時に本試験と追試を受けるが(追試は本試験を受験できなかったり受けたが博士進学要件の水準以下だった場合のみ受けられる)、そこで必要な成績が得られなかった場合にはM2になってから再度そのコア科目を受けることができる(ただしここで良い成績を取っても成績表にはM1での成績のみが載りあくまで博士進学などにおいて内部で参考にされるだけ)。なお、M1の時にそもそも履修しなかったり、履修しても単位を取れなかったコア科目についてはM2で聴講としてではなく普通に履修できて、その場合はM1の成績がないためM2の成績が成績表に載るはず。

例:「東大経研の博士課程に強く進学したいが、もし無理なら公共政策の博士課程に進学したく、それも難しいなら外部の博士課程に進学したい」という人がM1のAセメにコアミクロ2で追試含めてもBしか取れなかったとする(他のコア科目の博士進学要件はM1でクリア)。その場合はM2のAセメでコアミクロ2を受け直すことになるが、その試験結果が出るまで東大経研の博士に行けるかは分からず、東大経研の出願準備、東大公共への出願準備、外部への出願準備のすべてやることになったりする。

対してM1で博士進学要件をクリアできなかったコア科目がSセメ開講のものだけであった場合には(例えばコアミクロ1)、M2の夏休み中に(M2のSセメでの受け直しの試験結果が出たタイミングで)経研の博士に行けるか判明するため負担は多少減る(クリアしたら東大経研にだけ出願すればよくて、クリアしなかったらコアのことは忘れて公共政策と外部に出願するなど)。

それでは、アンケートに入っていきます。






1人目:犬さん



『基本情報』

学部は東大 or 外部?

外部

専門分野は?

応用ゲーム理論

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士進学を考えていました。

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

入学時点と変わらずに博士進学を考えていました。

実際の進路は?

博士進学

この2年間でRAやTAをやった?

M2の春休みに、指導教員のもとでデータ作成のRAをしました。

『質問』

質問1:M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

SセメAセメともに、コア科目の勉強がメインでした。特に、Sセメはコア4科目と数学の授業のみに集中していました。それと比べると、Aセメは少し時間的余裕があったので、コア以外の授業もいくつか取りました。その頃は実証に関心を持っていたこともあり、実証寄りの授業が多かったと思います。夏休みと春休みはどちらも、基本的に追試の勉強に時間を使っていました。

転機となったのは夏休みの勉強会かなと思います。なかでも、ミクロの勉強会では証明の読み方/書き方や、最適化問題の解き方の整理などを丁寧に積み重ねたのが、その後にも役に立ちました。実際、修論で定理の証明をする際に、これらの知識はとても大事だということを実感しました。ミクロの勉強会に限らず、どの勉強会もかなり高い強度でやっていたので当時は相当大変でしたが、そのぶん力は付いたと思います。

質問2:M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

Sセメは履修1科目、聴講1科目と非常に少なかったです。聴講していたコア科目は、M1時には自分でも時間が足りずに理解が不十分だったなという意識があったので、M2ではしっかりと時間をかけて臨みました。Sセメでの履修科目が少なかったことから、Aセメは3科目履修することになりました。この時期に受けていた授業は非常にバラバラで、その時に直感的にいいなと思った科目を履修していたという感じです。もちろん授業内容もそうですが、それだけではなく授業の分かりやすさや授業の雰囲気を重視して決めたこともあって、今でもまったく一貫性のない履修だったなと思い出します。

転機となった時期は、こちらもM1と同様に夏休みだと思います。コア科目とは夏休みで一区切りつき、その後の進路も決定したのと、修論の土台も夏休みにある程度固まったので。こうして並べてみると、M1もM2もなんだかんだ夏休みが転機だったというのは少し不思議な感じがします。

質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

指導教員の決定。修論指導では、論文の執筆/発表の流れや取り組み方について、細かく丁寧に教えていただきました。また修論指導以外にも、各種の奨学金への申請書類の添削をしてもらい、様々なアドバイスをもらいました。そのほかにも、修士後の進路についても自分にとってどういう道がいいのか、何度も相談に乗っていただきました。

質問4:修論の概要(内容でももちろんOKだがイメージとしては理論か実証かの説明)と大体のスケジュールを教えて?

修論では、既存の理論モデルの簡単な拡張を行いました。まずS1の期間は、興味のある論文の発表をするなかで、それぞれの論文のモデルに対して「どのような拡張ができそうか」ということについて考える時間でした。夏休み前半(8月)に、修論でメインとして扱う理論モデルを見つけ、その精読に多くの時間をかけました。夏休み後半(9月)は、そのモデルの簡単な拡張をしてmain resultの導出を行いました。この拡張と均衡の計算自体は紙とペンできる範囲だったため、main resultはほぼ1日で終わったと思います。そこからAセメにかけての期間は、結果の解釈と追加分析の2点を行う時間でした。結果の解釈については、他分野(主に国際政治学)の文献などを参考にしつつ、main resultに対してどのような解釈を与えられるかについて考えました。また同時に、main resultで新たに導出した部分が、一体どのようなルートを通じて出てきたのかという点について、経済学的直観を考える訓練もしました。この点については、夏休みに既存モデルの精読をしていたおかげで上手く進みました。追加分析は主にパラメータに関しての比較静学のようなもので、main resultの結果についてより詳細な検討を加えるという意図で行いました。

本格的な修論の執筆は、先生からの指示もあり12月の初旬から始めました。まず日本語でのドラフト(定理と証明などは英語)を12月の中旬までに完成させ、12月の下旬までに英語での最終版を完成させました。このスケジュールから見てもわかる通り、この1か月間は基本的に修論にかかりっきりでした。あとになって分かったことですが、日本語でのドラフトを書いておくメリットとしては、たとえば論文の要旨を提出する際や、事前に他の先生方(主に副査の先生)にざっくりと論文の内容を理解してもらう際には役に立ったかなと思います。一方で、日本語から英語に直す作業にもある程度時間がかかったので、慣れていれば最初から英語で書いていっても全然いいと思います。最後にワークショップでの修論発表について、少し特殊な例になってしまいますが、私はワークショップでの修論発表の日が修論提出の締め切り日と同日だったので、年明けはスライドの作成と発表練習をして、本番を迎えました。

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?(補足:東大経研では基本的にはM1の終わりに指導教員が決定し、M2から修論指導が始まる)

まずS1は、自分が興味のあるトピックについて、論文を読んできて発表するという形式だったため、2週に1回のペースで進めました。S2の期間はコア科目の聴講があり、先生からもそちらの勉強を優先した方がよいとアドバイスをもらったので、ミーティングはお休みにしてもらいました(この点は、指導学生が自分だけだったので柔軟に対応してもらえました)。夏休みから12月中旬までは週1のペースで進捗報告をして、修論提出前の12月下旬は主にメールでやり取りをしていました。その後も修論の改訂に向けてメールで連絡をとっていました。

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

おそらくこれは、応用理論をやっているからという部分が大きいと思いますが、自分の気持ちをいまやっている修論につなぎ留めておくことが大変だったという記憶があります。修論を進めるにつれて、身に付けた型(モデル)を使って、こういう現実の経済現象も説明できるんじゃないかということを考えることが楽しい時期が何度かありました。やはり、修論で一つのテーマについて考え続けていると、たまにはそこから離れたくなる時もあると思うので、そのへんは上手くバランスをとりながらやることが大事かなと思います。

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

たくさん批判されるような論文を目指しましょう!

質問8:大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

大学院入学時点の想像と違ったことは本当に多かったのですが、いま特に感じていることは、経済学をやっていけばいくほど、その広さと深さを実感して何をいまやればいいか分からなくなってくるということです。大学院入学時点では、これからどんなことを勉強/研究していこうかなと楽しみにしていましたが、修士の2年間は思ったよりも短く、今後の自分の軸をどこに定めるのかを決めるのは想像よりもずっと難しいです。

それに対して、大学院生活の中で想像通りだったということは、たぶんほとんどなかったように思います。ただその中でも、院生室の同期に恵まれていたことは想像通りだったと言えるかもしれません。外部からの進学だったので心配していた部分は当然ありましたが、きっとみんないい人たちだろうと想像していました。実際、その通りで、とても素敵な人たちばかりでいつも感謝しています。

質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

ここでは博士進学に関する金銭面、特に(給付型の)奨学金について書きたいと思います。といっても、この点については私より詳しい人もいると思うので、あくまで私が経験した範囲内でのことになります。ここで紹介する奨学金は、学振、卓越プログラム、SPRING GXの3つです(周りの院生でもこの3つがメインでした)。スケジュール的には、まずM2の5月初旬に学振DC1(大学によらずに応募可能、月20万)と卓越プログラム(東大経研の学生のみ応募可能、月18万)の書類提出があります。注意点としては、指導教員からの評価書が提出されないと提出完了できないので、先生には早めにお願いしておいたほうがよいと思います。その後、卓越プログラムは5月の中旬に面接審査があり、5月の下旬に結果が発表されます。この奨学金は、学振に提出する書類でほぼ足りるので、追加的な負担は少ないと思います。学振の結果は10月の上旬までに発表されます。最後に、SPRING GX(東大の学生であれば応募可能、月18万)という奨学金があります。こちらは1月の下旬が締め切りとなっていて、応募区分によっては面接があり、3月の中旬ごろに結果発表となります。名前の通り、何らかの形でグリーントランスフォーメーションと関連するような研究を行っている、あるいは行う予定だと、わりと書きやすいかなという印象です。

上記の奨学金の最新の情報については、以下のページが参考になると思います。

 

・学振:募集要項(PD・DC2・DC1) | 特別研究員|日本学術振興会 (jsps.go.jp)

・卓越プログラム:学生向け情報 (u-tokyo.ac.jp)

・SPRING GX:博士後期課程学生支援「グリーントランスフォーメーション(GX)を先導する高度人材育成」の募集 (u-tokyo.ac.jp)

 

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

80点

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2人目:シマエナガさん

 

『基本情報』

学部は東大 or 外部?

外部

専門分野は?

応用ミクロ計量経済学

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士課程10割

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士課程10割

実際の進路は?

(東大経研以外への)博士進学

この2年間でRAやTAをやった?

RAのみ行った。週15~20時間ほど。

『質問』

質問1: M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

RA業務が重なりコアに時間が当てられなかった。RAはほどほどに。個人的には研究が殆どできなかったのが辛かった。

質問2: M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

博士進学を考えている方には学振があるので、3月のコアの追試が終わったら早めに手を付けると後が楽。先輩に聞くと親切に教えてくれるので、遠慮なく頼るとよい。

質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

拘ることをやめたこと(もちろん卑屈にならずに、という条件付きで)。

質問4:修論の概要(内容でももちろんOKだがイメージとしては理論か実証かの説明)と大体のスケジュールを教えて?

実証。理論部分は既存モデルをほぼ援用。データ構築、推定方法の考案、推定をM2のSセメに終え、夏に外部の研究会で発表した。10,11月で執筆や追加分析を行い完成。12,1月は他大学博士課程進学の準備で何もできなかった。

他大学博士進学があり得そうな人ほど、早めに修論を仕上げないといけないのは、自業自得にしても二重三重苦ではある。

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?

ほとんど関わることはなかったが、いつでも助言をくださる方だった。指導教員以外の教員と話すことは何度かあった。

話は少し逸れるが個人的には、他大学博士進学があり得そうな人ほど、内外問わず多くの研究者と関わるべきだと思う。「お時間があれば修論にコメントいただけませんか」、と連絡して嫌な顔する研究者は少ないし、基本的に喜んでコメントをくれる(嫌な顔をしてきた研究者には今後近づかなければよい)。

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

論文の売り方をもう少し考えて書くべきだった。新しいこと&色々な分野に跨る研究は見栄えはいいが、コメントへの対応が難しい。

関連して、博士進学を考えているなら、風呂敷を広げ過ぎず、さっさと出版できる論文に計画的に仕上げた方が良いと思う。書きたい論文を書くのは楽しいが、自分はこれで苦労している。

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

著者が偉いから五大誌に載る研究があるということ。それを例えそのまま引用したとしても、叩かれるのは自分だということ。悲しいね。

質問8:大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

想像と違った点:同期、先輩、本当に人が良い。

想像通りだった点:東大経研事務所の対応。

 

質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

コア死んでも、プライドと時間と金を溶かせば何か活路は見出せるので、諦めず後悔しない選択をした方がよい(Regret Minimization)。

 

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

100点。教育的配慮に欠けた講義が多く、苦手な教員も増えた、経済学界隈の嫌なところも知った。でも、それ以上に良い同期や先輩と知り合えたので良かったと思う。

 

最後に宣伝や一言があれば!

ブログ管理者のKoさんは私が尊敬する同期の中の一人です。彼の活動は真似できるものではなく本当に素晴らしいと思っており、私も彼から多くのことを学んでいます。今後も彼のブログを読んでください。私も読みます。

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3人目:タコさん




『基本情報』

学部は東大 or 外部?

東大

専門分野は?

都市経済学・空間経済学・公共経済学

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

就職しようと考えていた。博士進学要件を一発で満たして(長期休みを潰したくないので……)、経済的に自立できる見込みが立った場合のみ博士進学してもよいかな、といった程度で、基本的には就職のつもりだった。

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

上記の1つ目の条件は満たし、せっかくなら、ということで博士進学に傾きつつあった。経済的に自立できる見込みが立ったら博士進学しようと考えていた。

実際の進路は?

博士進学

この2年間でRAやTAをやった?

ほぼ2年間RAをやった。他大学の教員のRAをやっていた。守秘義務のため内容は口外できないが、おもしろいデータに触れることができた。受入教員の共著者の先生方が大変丁寧で、有料ソフトフェアを使わせていただいたり発表のお誘いをいただいたりと、貴重な機会になった。ただ、受入教員のパワハラを感じるようになったので契約は延長しなかった。近い分野で業績のある教員だっただけに残念。最終業務報告や最後の挨拶に対してもいまだに返信はありません。業務内容以外にも教員との相性などもあるので、これから修士課程などに入学する人たちは、RAを始める際は慎重に他の選択肢を吟味してもよいかもしれないとアドバイスをしたい。指導教官の方針でTAは博士進学以降にやる予定。



『質問』

質問1: M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

Sセメスターについては、内部進学勢で既にコアコースや数学系科目の一部を学部で取っていたため、残りのコアコースに加えて興味のある科目をいくつか受けた。とはいえ、コアコース中心のスケジュールだった。マクロのせいでゴールデンウィークが潰れた。

Aセメスターについては、残りのコアコースは1科目だったので、興味のある授業を多めに受けていた。しかし、年末に利き腕を骨折する大怪我を負い、搬送先の東大病院の初期対応がアイシングすらしないなどかなり悪かったこともあり、勉強どころではなくなった。そのため、必修のコア科目を除いた全科目を断念することになり、コア科目も利き腕の骨がくっついていない状態で試験も臨むことになった。この怪我から試験までの1ヶ月半が良くも悪くも節目になった。

質問2: M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

当初は学部からの持ち出し科目を合わせてM1の間に必要単位数を揃えて、M2ではほとんど授業を取らずに修士論文に専念するつもりだった。しかし、前述の怪我により必要単位数が全然揃わず、M2で授業をいくつか取らなければならなくなってしまった。SセメスターとAセメスターに授業をそれぞれいくつか受けた。

節目というか大きな出来事になったのは、学位記授与式(大学院の卒業式に当たるもの)で経研の総代(代表して総長から学位記を受け取る人)に選ばれたこと。修士の2年間のうち怪我で半年をほとんど棒に振った割には、なかなか頑張ったのではないかと思う。

質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

骨折した利き腕でコア科目の試験を受ける決断をしたこと。必修科目なので、もし受けなかったらM2のAセメスターに受けないと修了できないから。

次点で、学内のフットサルグループに参加して代表をやったこと。積極的に参加したことで教員や先輩・同期・後輩と接する機会ができて、毎週のモチベーション・息抜きになった。

質問4:修論の概要(内容でももちろんOKだがイメージとしては理論か実証かの説明)と大体のスケジュールを教えて?

マイクロデータを用いた実証分析を行った。週に1回、指導教員とその指導学生たちで集まった。Sセメスターでは論文紹介や雑談をしながらテーマ探しを行い、Sセメスターの終わりくらいまでにテーマを決める形だった。当初のテーマでは上手くいかなかったことや、Sセメスターに受けた財政系の授業とそのタームペーパーにのめり込んでしまったこともあり、テーマが定まったのは夏休みの終わりからAセメスターの初めにかけてだったと思う。指導教員から言われていたスケジュールからはかなり遅れてしまった。

Aセメスターも週1回集まり、修論の進捗報告とそれに対するコメントやアドバイス、雑談をした。試行錯誤しながら分析を行っていた。元々のスケジュールでは夏休みの終わりまでに論文として打ち出すポイントを作るように言われていたが、打ち出し方を明確にできたのは11月の終わりだったと思う。予定からは相当遅れてしまった。一方で、同期と話していると指導教員によってスケジュールは区々であることもわかり、良くも悪くも少し安心した。12月に入って書き始めたが、なかなか思うように書き進められなかった。一通り書き終わったのは年が明けてからになってしまった。もっと早くギアを入れられなかったことを後悔している。1月頭に修論を提出したあとは、その1週間後(学生や分野によって数週間異なる)くらいにワークショップで主査1人と副査2人(+α)に対して30分程度で発表を行う。そのとき受けたコメントへの対応を2月下旬に10分程度の口述試験で説明する。修論の合格発表は3月頭に行われる。修論自体を修正したい人は、3月中旬までに修正すれば図書館保存用の修論を修正できる。

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?

学部ゼミからお世話になっている先生で、M1とM2のSセメスターに指導教員の授業を取っていた。前述のようにM2の初めから週1回ミーティングをしていた。それ以外でも必要に応じてメールで質問をしたり指導を受けたりした。ある程度書き上がってからの年末年始はメールでやり取りをした。

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

なかなかテーマや方針を決められなかったこと。当初のテーマで上手くいくとは限らない(むしろ上手くいかない方が多いかもしれない)ので、テーマ決めも含めて全体的にもっと早く進めればよかった。

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

M1の年末に大怪我をした際に相談に乗ってくださり励ましていただいた。授業担当教員との窓口になってくださり、サポートしていただいたことに非常に感謝している。それがなければ修了や進学ができていなかったかもしれない。

総代に選ばれたことに対して祝福と労いのお言葉をいただき、非常に嬉しかった。研究面では勿論のこと、教育面や人間面でも尊敬できる指導教員に就くことができたのが大きかった。

質問8: 大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

想像と違ったのは、同期との交流が多かったこと。経済学は個人作業が多いのであまり交流がないかと思っていたが、同期と喋ったり食事をしたり遊んだりすることが多かった。コロナでオンライン授業の期間が長かったこともあり、交流したい人が主に研究室に来ていた可能性はある。また、この分野だけかもしれないが、ワークショップの懇親会で東大や他大学の先生方とお話しする機会があったことは予想外だが大きかった。

想像通りだったのはM1のときにコアコースに追われたこと。指導教員からは、M1はコアコースを頑張りなさい、と学部生のときから言われていた。別の教員からは学部生のときに、コアコースに苦戦している人には博士課程は厳しい(から、軽々乗り越えろ)、と厳しいアドバイスを受けていた。

質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

修士に入ってからコアコースを全部受ける人にとっては、博士進学要件を満たすのは想像以上に難しい、ということはあらかじめもっと知られておくべきかなと思う。学部でコアコースを一部取っていた内部進学勢が(博士進学しない人も)そこまで苦戦していない印象だった。一方で、学部で取っていなかった内部進学勢や他大学から来た人たちを見ていると、すべての科目を一気に受けつつ良い成績を修めるのは現実的に難しそうだと感じた。先取りしている内部進学勢が(東大の学部入試を通っているだけでなく院の授業を受けるほど)優秀であることを考慮しても、0から始めて要件を満たすのは困難かもしれない。修士進学と博士進学を考えている内部の学部生は少しでも先取りして修士での負担を軽くした方が良い。外部から修士に入学して博士進学を考えている人は要件を満たせないリスクを認識した方が良い。要件が厳しくない他大学の大学院に進学した方が望むキャリアを歩めるかもしれない、とアドバイスしたい。デリケートな部分で良く思われないかもしれないが、これから進学を考えている人は知っておいた方が良いと思うので記した。

もっと柔らかい話題として、博士進学時に入学金がかからないことを知らなかったので記しておきたい(ただし、修士進学時は入学金がかかる)。

また、東大経済学部から東大経研修士課程に内部進学する際に、学部時代に取った学部・大学院合併科目を経研の成績に持ち出すことができることは、多くの内部生は知っていると思う。しかし、履修の手引きの記載が不明瞭で、選択科目しか持ち出せないことが修士1年の4月になって判明した。これによって、多くの内部進学勢が困惑した。経済学のための数学などの科目は学部の専門科目扱いになっているため、実質的なコア科目であるにもかかわらず持ち出すことができなかった。そのため、持ち出しを検討している内部生はあらかじめ教務に確認することをお勧めする。

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

満足度は90点、自己評価は70点。

最後に宣伝や一言があれば!

週に1回、東大の体育館でフットサルをしています。東大の教員・他大学の教員・OB・経研の院生・他研究科の院生・学部生など、様々な人たちが参加しています。留学生も多いです。運動不足解消にも息抜きにも1週間のご褒美にもなるので、どなたでもご参加お待ちしています!興味ある方はブログ主に連絡してください!*1



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4人目:カメさん



『基本情報』

学部は東大 or 外部?

東大

専門分野は?

ミクロ実証

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士進学

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士進学

実際の進路は?

博士進学

この2年間でRAやTAをやった?

RA、TA

『質問』

質問1: M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

基本コア科目に集中。RAを通じてデータの仕込みをいくつか。

質問2: M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

4月:学振DC1/卓越の申請書作成

5-7月:授業、修論のネタ探し、共著論文(M1からRAやっていたもの)の学会発表

8-9月:修論データ探し

10-11月:修論データクリーニング、推定手法サーベイ

12月:修論実証分析、執筆

1月:修論提出、ワークショップ発表

2月:口頭試問

3月:修論リバイズ

質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

チャンスがあればなんでもやってみる(RA、学会手伝い、共著論文の学会発表など)。興味の幅が広がったり色んな先生と話せたりするのはいい機会だった。もちろんやるからにはコミットメントの責任が生じるので、合わないとかキャパオーバーだと感じたら適切な手順を経て辞めなければいけない。トライ&エラー。

質問4:修論の概要(内容でももちろんOKだがイメージとしては理論か実証かの説明)と大体のスケジュールを教えて?

概要:実証。企業間ネットワークの形成と知識スピルオーバーに関する構造推定。

スケジュール:9月末までデータとテーマが決まらなかった。10-11月で戦略的なネットワーク形成の推定手法を調べながら並行してデータクリーニングを進めた。12月に分析と執筆。ギリギリ過ぎた。

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?

毎週1回のミーティング。自分以外の指導学生を含めた3人で毎回一緒に行っていた。毎週何かしら進捗を出そうという気持ちが生じるので非常にありがたかった。同期の研究の話も聞けてよかった。

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

データ探し

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

論文はイントロが全て(意訳)

質問8: 大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

想像と違った点:先輩や同期からのピア効果が大きい。みんな優しいし何度も助けられてとてもありがたかった。

想像通りだった点:大変さ

質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

とにかく先輩や先生と広くコミュニケーションをとって情報を集めることが大事。

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

75点くらい?自分自身が至らなかったと思うことは多くあるけど、プログラム的には満足。

*******************



5人目:ニシキゴイさん



『基本情報』

学部は東大 or 外部?

外部

専門分野は?

実証ミクロ経済学

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

入学時点ではどうするか決めていなかったが、博士でも研究を続けてみたいというモチベーションがM2になっても保てていたら博士進学をしようと考えていた。

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

この頃には既に博士進学を考えていた。

実際の進路は?

東京大学公共政策大学院に博士進学

この2年間でRAやTAをやった?

M2の一年間で資料の調査・データの前処理・計量分析を行うプロジェクトに従事していた。

『質問』

質問1: M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

Sセメは授業に集中したがコア科目以外にも数学系の科目を二科目とった。今思うとそれなりにしんどかったので、「経済学のための数学」の一科目にすべきだったかもしれない。夏休みは追試の勉強をしながら民間企業の長期のインターンシップに参加した。インターンに従事する中で実質的な内定をもらっていたので、仮に博士進学できなかったとしても進路で困るようなことはなかった。Aセメはコア科目に加えて3科目ぐらいとった。Aセメには指導教官を希望する先生の授業や関心のある分野の授業を取ればよいと思う。

質問2: M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

Sセメは指導教官の授業とコア科目の再履修が中心だった。再履修していたコア科目の成績が進学要件を満たさなかったため、他大学や東大公共の選択肢を考え始めた。

Aセメは一科目しかとらず、ほとんどの時間を修論に充てた。ただ、12月は複数の出願と修論のダブルワークが非常に辛かったので、東大経研以外の博士課程に出願する人は出願の準備を12月上旬には終わらせておけるようにしたほうがよいと思う。

質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

M2のSセメに、指導教官が担当の論文読みとディスカッションの授業をとったことは研究を行う上で非常に役に立った。

また、修論を始める前にRAの仕事を始めたのは良かったと思う。単純に分析を回す経験ができるだけでなく先生方と研究についてディスカッションする時間はとても貴重だった。先生とのコネクションを増やすという意味でも重要だったと思う。

質問4:修論の概要(内容でももちろんOKだがイメージとしては理論か実証かの説明)と大体のスケジュールを教えて?

政府の政策に関する最近のトピックについて実証研究を行った。Sセメは主にリサーチクエスチョンやアイデアの検討を行っていた。夏休みごろにリサーチクエスチョンが固まり、12月上旬まで分析を回し続けた。12月中旬に修論発表を行い、残りの時間を使って戴いたフィードバックを踏まえた分析の修正を行った。

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?

こちらから相談したいタイミングでアポを取りミーティングをした。月一度くらいのペースで修論の進捗や課題などを相談した。その他にも、指導教官のゼミで2回ほど発表する機会があった。

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

リサーチクエスチョンを決めるとこが一番大変だった。実証分析はリサーチクエスチョンを思いついても必要なデータが存在しないと研究ができないので、何度もリサーチクエスチョンを考えてはボツにするというプロセスを繰り返してしまった。指導教官が独自に持っているデータも含めて、どういうデータが利用できるのかは早めに頭に入れておくべきだと思う。

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

コア科目はサッカーでいうリフティングのようなもの。サッカーでリフティング以外の技術も重要なのと同じで、研究も色々なスキルが重要だからコア科目でうまくいかなかったことは気にせずそれらを身に着けるよう頑張るべき。

質問8: 大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

学生が個人で勉強したり研究することが多いと当初は想像していたが、実際には同期と勉強会を行ったりゼミに参加したりなど交流が非常に活発だと感じた。自分はシャイで社交的なほうではないがそれでも先輩や同期、後輩に教わることはとても多かった。学部時代の大学では修士の学生は片手で数えるほどしかいなかったが、東大経研は修士・博士の数が多く、様々な人と相談できるという点でとても魅力的だと思う。


質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

仮にコア科目に落ちたとしても、他大や東大公共に進んで博士進学する道はあるということ。勿論、博士進学を目指す人はコア科目の要件を満たすことに注力すべきだが、うまくいかなかった場合はそのようなオプションもあるということは知っておいてもよいと思う。ただし、そのような進路をとる場合はTOEFLやGREなど早めに準備することがたくさんあるため、情報収集は早めにしておいたほうが良い。

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

80点(満足はしているが、修論などもっと頑張れたことはたくさんあると思うので)。

最後に宣伝や一言があれば!

 

(入学される方は)ぜひ修士課程を楽しんでください!


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6人目:フェネックさん

 

『基本情報』

学部は東大 or 外部?

東大

専門分野は?

マクロ経済学

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

就職51%進学49%

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士進学

実際の進路は?

博士進学

この2年間でRAやTAをやった?

TAをM2のS, Aでやった。RAはM1の間は週10hくらい、M1~M2の春休みで週30hくらい、M2のSセメはならすと週5hくらい。夏休みの前半に週25hくらいやってやめた。

『質問』

質問1: M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

ミクロ/マクロ 理論/実証 のレベルで修士論文のテーマが決まっていなかったので、聴講を含めて幅広く授業を受けていた。節目になったと思う出来事は特になし。

質問2: M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

SセメはTA等でほとんど研究に時間を割けなかった。研究テーマは学振の出願に際してなんとか捻り出したものがあったが、あまり興味がわいていなかったため研究モチベもあまり高くなかった。

節目は修士論文のテーマを2年の8月頭に完全に変更したこと。DC1申請時やSセメの論文紹介みたいなところでやっていたテーマを全て捨てて、Literature Survey含めてゼロからやることにした。元のテーマでやっていてもなんとかなったかもしれないが、振り返るとあそこから本腰をいれられるようになった感じがする。

質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

2Sで藤井先生のTradeのトピックコースを受けたこと。学部レベルのTradeすら一度も受けたことがないレベルだったが、最終的に修論の核となるモデルはこの授業で扱ったワーキングペーパーを使った。

質問4:修論の概要(内容でももちろんOKだがイメージとしては理論か実証かの説明)と大体のスケジュールを教えて?

理論っぽい応用マクロをやった。研究自体は上述したように2年の夏休みから始まった。9月の中旬に同期で修論の進捗を発表する会があったので、夏休みは一旦そこに合わせてモデルの作成と実装を進めた。10月、11月はLiterature Surveyをしつつ、モデルを色々いじっていた。12月の中旬あたりで日本のデータを使ってモデルのパラメータを推定する作業を行ったら見たい結果が出てこなくなったので、モデルを一気にシンプルにして、数値的な結果よりも理論的な話を押し出すことにした。12月下旬あたりからさすがにやばすぎるので論文を書き始めた。

 

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?

1年はほとんど関わりなし。授業は一つ取っていたが、多くの授業の一つといったくらいで先生との交流が特にあったわけではなかった。

2年のSセメの前半は同じ指導教員の先輩の人たちが多くいたので、その人たちを交えながら任意のテーマの論文発表会が週1であった。修論に関する具体的なMTGはSセメは一度もしていない。Aセメで先輩が留学に行って人数が減ったのもあって週1の発表会はなくなった。代わりに大体週1でオフィスアワーみたいな時間を設けてくださったので、そこにたまに参加した。(Aセメで合計7回ほど)

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

12月中旬ごろまで色々いれたモデルを扱っており、無駄に複雑になったせいで少しのパラメータの変化で結論が大きく変わるような結果になってしまっていた。最終的に論文に仕上げるにあたってかなりの部分を落とすことになった。(ある程度はしょうがないなという感じではあるが。)

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

研究とはLiteratureのギャップを埋めること。

質問8: 大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

 

違った点:指導教員からの指摘をもとに研究の質が上がっていくものだと思っていたが、良くも悪くも研究の質は自身の指摘で上げていくものだと知った。

想像通りだった点:建物はいつも綺麗で有難かった。

 

質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

博士進学における修論審査はそこまで心配しなくて良い。

 

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

90点



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7人目:子猫さん





『基本情報』

学部は東大 or 外部?

東京大学経済学部

専門分野は?

ミクロ計量

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

学部でコロナ不況に泣いて以来、ずっと就職の予定だった

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

就職一択

実際の進路は?

シンクタンクへ就職

この2年間でRAやTAをやった?

M2の夏休みに進路が決まってからRAを行い、80時間ほど働いた。また、広義のTAとしては、M2の2月に学部必修の試験で採点を行った。

 

『質問』

質問1: M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

Sセメスターは気が狂うほど忙しかった。忙しさは当時のブログに詳しいが,コアワークでは同期に比べて遥かに見劣りする自身の能力を思い知り、必死で準備したインターン出願では落選の知らせを対象に突き付けられて、もう何もしたくない心地だった。

一方、夏休みはバーンアウトしていたが、後半はインターンに行くことになった。インターンでは高く評価されて、その後の早期選考でも波に乗り、最終的に早期の内々定をいただいたため、意義深いものを感じた。

Aセメスターも全力で走っていた。就活で何か大学院へ来た理由を話せなければいけないと、自らの労働市場での売り文句を文系的な素養とデータサイエンスへの理解による複合人材とする決意を固め、計量経済系の科目を2つ、統計系の科目を1つ、R言語の授業を1つとった。Sセメよりははるかにコアの負担が減ったため、2つのコアは決して軽くはなかったが、Sセメよりも気は楽だった。キャリアサポートセンターのイベントを完走する勢いで出続け、説明会を聞き、数十人のOBOGに出会って質問攻めにした。その裏で、やはり面談などと併せてESのブラッシュアップなどを続けていた。運が良かったのは、当時はハーマイオニーが許されたことである。詳しくは去年の記事参照。

春休みなんて無かった。2月はインターンが足りないからと、コアの試験直前に1dayインターンを入れる羽目になった。コアの試験が終わってからは2日だけ休み、説明会、OB訪問を2日行った後は、1weekのインターンに行った。インターンが終わったらTOEICの勉強とSPIなどのテストの勉強で寝る間も惜しむ生活で、3月は説明会・座談会・面接が1日平均合計で2.5個も入っており、寝る時間以外は全て就活に使い、一日十数時間ずつやるべきことをこなしているか、体調不良で倒れているかしかない生活を送っていた。

質問2: M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

Sセメスターは、就活ばかりしていた。正確には、Sセメも指導教員の演習と講義を合計1つ、S1にトピックコースを2つ、S2にトピックコースを1つ履修していたが、4月は講義と就活で寝る間も惜しむ生活が続いた。4月初旬に初めての内々定をいただき興味のない企業を全て切ったことで、大分楽になった。4月末にはまた1つ、5月には3つの内々定をいただいた。6月には更に1社にいただき、どこへ自分の将来を賭すのかを7月中旬まで真剣に吟味することになった。一方で、6月頃にはプライベートで知人が自殺を示唆するような発言をするなど対応せざるを得ない事件が重なって、2徹する羽目になった日もあった。

夏休みはやはり、バーンアウトしていた。3年ぶりに旅行に行ったほか、数年ぶりに人生に余裕があったことは喜ばしかった。進学時にお世話になった先生のRAもできたし、タームペーパーで理論の拡張を試みてみたり、徹夜で修論の解析を行ってみたりと、何某かの「研究」をする余裕もあった。バイトも久しぶりに出来て、目減りする一方だった貯金に少し余裕を持たせることも出来た。

Aセメスターは修論ばかり書いていた。基本的には修論ばかりの生活だったが、研究室に出てきて勝手に隣の研究室とかに押し入って経済学の話をしたり、研究室の本棚を本で埋めてみたり、他所の研究室でお湯を貰って紅茶を飲みながら経済学談義したり、演習後に皆でご飯を食べた後に1コマほど経済学の話をするのが、非常に刺激的で楽しかった。11月中には修論を書き始めた。

春休みは、やはり無い。1月には口頭発表も終わり、2月にかけては少し休んだ後、口頭試問への修正とバイトと学部必修の採点に追われていた。今も、修論の口頭試問は無事に終わったが、3月の学会発表に向けて修正に追われる生活をしている。

質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

授業中や授業後に興味の赴くままに、大量に質問させていただく癖をつけたこと。

自分には博士課程という未来が存在しないので、このままでは今後、調べても調べても分からないことを尋ねに行ける人が指導教官の先生しか居なくなると気が付いた時に、少しでも先生方と親交を持てるように全力となったが、この習慣が幸いして先生方には割と覚えていただけており、自らを助けることとなった。

質問4:修論の概要(理論か実証かなど)と大体のスケジュールを教えて?

自分の人生には他の院生の様に優雅に新しいテーマを探すような余裕が無かったため、Sセメの間は、大学院進学時の研究計画書を再考して、単なる重回帰の計画書から大学院で習った内容を踏まえた現代的なDIDデザインへとリノベーションした。また、それと並行して、AERなどからトピックに関する論文を複数本読んで、修論らしい国際的な内容へブラッシュアップした。夏休みに1回解析を行った後、後期は10月初頭からは毎週、解析の不足点や誤りを見つけてはやり直す日々が続いたほか、副査になりそうな先生の演習でも早くから研究をお見せしてコメントをいただくなど、有機的なコミュニケーションに努めた。指導教官の先生は10月には論文を書くように要望され、11月には一応書ける状態となって書き始めたが、メインのリザルトが固まったのは結局12月の最後のやり直しだった。研究科同期の中では、有数に早く書き始めた方のはず。

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?

Sセメの演習では普通に輪読を行い、そのほかは院生ゼミで月に1回程度発表する程度で、夏休みまでに解析の枠組みを作ることに焦点が置かれていた。指導教官の先生は「夏の内には一回目の推定を」とのことだったので、一週間ほどかけてコードを書き、1回徹夜で推定して夏休みの終わりごろに報告した。Aセメからは1週間に一度も進捗を見ていただき、解析手法のおかしさや考察の誤り、出したアイデアと自らの見解に対する反論などで徹底的に叩いて貰い、時にはテクニカルな質問に答えてもらうことで中身をブラッシュアップした。報告の前日は大体徹夜か3時間睡眠になった。12月からは双方力尽き、あとはマトメの期間ということでメールとなった。

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

あと約60日のタイミングで15日分の進捗にミスが見つかって全部吹っ飛んだ時か、あと約30日で修論書き始めるときに先行研究を読み直して誤読に気づいた時か、あと約10日の時点で制度への誤解が見つかってコードを慌てて死ぬ気で書き直した時。

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

沢山あって選びきれない。

「フィールドトップや五大誌だからと鵜呑みにせず、必ず自分の頭で考えなさい。間違っているものも沢山あるのだから」

「まず教科書を読みなさい。基本は全て教科書にあります」

「僕のキャリアにも寄り道があり、平均より遅く経済学のキャリアを始めているので、いま君が、自らのキャリアにそんなに絶望する必要は無いと思います。」

「実証研究では泣くのも仕事です。辛いだろうけど、諦めずに頑張りなさい。」

「僕も若い頃の論文には少し誤っているものがあります。取り上げられて批判されるのは辛いけど、誰も若い時から完璧にはなれないのだから、君も間違えながら覚える位のつもりで進みなさい。」

質問8: 大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

忙しさの質が違った。繁忙期に一時的な徹夜が何度も起きるのかと思っていたが、同期達に比べて優秀とは言えない自分は、どちらかというと土日も昼夜も無く慢性的に働き続けることで力不足を補っており、そういう意味では気が遠くなる生活だった。

質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

そもそもこの大学院は、事実上は就活と博士進学を両にらみ出来るシステムにはなっておらず、見かけ上は単線型の教育システムだが、事実的には複線型の教育システムになっている。ただし経済学研究科は、進学して最初から就活のつもりで居れば行先は割とあり、世間の文系大学院この世の終わり説とはほぼ無縁なので、それに怯える必要は無い。

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

 

80点。修士でやるべきことは大体やった。30単位で終了の所は約1.5倍でオーバーキルするまで学んだし、土日も夜中もなく研究して同期に「研究者の模範だね」とも言ってもらえた。指導教官の先生との関係は恐らく良好だし、気になる先生方にはオフィスアワーをいただいて沢山のことを教えていただいた。専門以外のトピックも沢山学んだ。研究科の友人や後輩達とは、たくさん経済学談義をした。いつも時間が無かったぶん、全力で人生を走り、研究科生活を駆け抜けた。

それでも、まだ足りない。勉強したりない。研究したりない。研究科の皆と語り切れていない話が無限にある。もっと一緒に勉強したかった。自分色に染め上げた研究室の机を手放したくない。専門分野についてもまだまだ知識が不足していて、もっと専攻のペーパーも読めばよかった。だから残った悔恨の分、マイナス20点。

 

additional:最後に宣伝や一言があれば!

インターネットで苦労話を大量に話してたら、キーワードを見繕ってググられて東大院生ってばれたので、皆はこういうブログを書くときは気をつけようね。

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8人目:サモエドさん





『基本情報』

学部は東大 or 外部?

外部

専門分野は?

 

国際経済

 

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士進学

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士進学

実際の進路は?

博士進学

この2年間でRAやTAをやった?

M2になってからTAとRAの両方をやった。

『質問』

 

質問1: M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

一年間通してずっとコア科目をやっていた。春より秋の方がだいぶ楽だったので、専門科目を3つ(重いもの2つと比較的軽いもの1つ)履修した。スケジュールについては昨年の記事に詳しいと思われる。

秋にとった二つの専門科目が今の研究に直結していて、かつ修士に入ってからの授業で楽しい!と(当時)もっとも強く感じた。どちらの授業の先生にも継続して目をかけてもらっている点を鑑みて、この二つの授業を受けたことだけでもここに進学した意味があったと感じていて、自分の血肉になっていると思う。

質問2: M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

5月上旬締切のDC1への書類申請に向けてM2になる直前の3月頭から準備を始めていたものの、なんだかんだ締切までバタバタ書類作成と推敲に追われていた。忙しい中コメントをたくさんつけてくれた同期や先輩方、何回も読んでくださった指導教官には足を向けて寝られないなあと思いながら、締切時間近くに提出した。Sセメは授業3つとゼミ(単位なし、輪読)を履修していた。月に一回か二回のペースで1時間分(105分)丸々自分の発表に充てる機会があり、修論に向けて先行研究の手法や文脈の理解を深めることに尽力していた。

7月末には大体修論でやることが固まった(より正確には、紆余曲折を経たものの4月くらいから考えていたモデル設定を原点回帰的にほぼそのまま採用することを決めた)ので、夏休みの間はモデルの整理をしたり、重要な先行研究のreplicationを行なったり(そこで駄文をなるべく排除したコードの大事さをひしひしと感じたり)しながら、RA業務に勤しんでいた。そもそも選好的に夏という季節自体が好きじゃなくて体質的にも暑さがものすごく苦手なのに気温があまりに高すぎたことや、ちょっとした仕事などなどで、夏は体力的にも精神的にもかなり消耗していた反面、研究が楽しくていいね!いいね!とノっていたので、幾分楽になった(これについて、いや〜そういう思えるのは本当にいいことだし、この先でも大事だからね〜〜と指導教官にその後褒められた)。夏休み終わりまでにモデル設定に関わる部分の7、8割ができていた。

10月からAセメが始まると、コアミクロの取り直しをしており、その宿題の出るペースに完全に依存したスケジュールで動いていた。その締切に近い週はミクロに集中し、そうでない週に修論を進めていたので、1週間ごとにミクロの週と修論の週がやってきた。ミクロに集中したかったのもあり、秋は他一切授業を取らずに修論とミクロだけをやっていた(指導教官と相談しM1の終わりの時点で、M2の秋はそうしようということになっていた)。集中しようと最初から思おうと思わまいと宿題がある週は、その分野に強い人あるいは超器用な人あるいは体力お化けの超ショートスリーパーでない限りコアに時間を割かれるので結局コアと修論だけにせざるを得ないと思う。とはいえ10月末には均衡条件が出揃ったので、MATLABのコードを書き始めた。12月にGrasPPに出願する予定があったので、GREとTOEFLを11月に受けた。TOEFLは前日に5時間くらい勉強したが、GREはどの順番でQ/V/AWが回ってくるのかを当日の朝の電車で確認するだけくらいしか勉強しなかった(コアと修論の大事さが高くて、それらの勉強に可処分時間を回すほど優先順位が高くなり得なかった)。加えて出願書類がちょこちょこあり、DC1の書類を参考にしたりして労力を節約したものの、結構な時間が割かれた。12月半ばにGrasPPの出願にて修論が必要だったため、急いで第一稿を書き上げた。経研の提出締切までに2週間以上あるので余裕かと思いきや追加の分析をしたり、ブラッシュアップしたりで提出締切ぎりぎりまで粘った。翌週にワークショップで発表があったが、ゼミでのスライドを再利用しつつ、制限時間に最適化したスライドを急いで作り練習をした。ワークショップでの発表後、指導教官と副査の先生にそれぞれミーティングをしていただき追加のコメントをいただいて修論としての完成後の話をした。そこまでで一旦修論のブラッシュアップの手を止めてミクロの試験勉強に全振りしたが、試験後にまた修論のプロジェクトと戯れるたのしい春休みを現在送っている。

秋にコアを残していること(+GrasPPに出願する予定があること)と修論をある程度の満足度で提出したいことを鑑みて一年間どう過ごすかをM1の2、3月の時点で指導教官と相談していて、ほぼそのままに過ごしていたと思う。計画を立ててその時に一番いいと思う方向へちょっと軌道修正しつつも、それに則って動くのが好きなので、こうなったところは大きい気もする。

質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

息抜きを積極的にすること。

切羽詰まっている度合いが9/10の時までは、土日どちらかで出かけたり外にご飯を食べに行ったりする。M1の間は勉強で土日も日夜大学にいることが多かったが、M2の間は毎週か2週間に一回くらいは土日のどこかで息抜きしていたような気がする(平日も月二くらいでのんびり夜ご飯を食べに行った)。やっていることが楽しいと無限に時間を注いでしまうが、緩急がつくので息抜きをした方が自分にとっては合っていた。

質問4:修論の概要(理論か実証かなど)と大体のスケジュールを教えて?

理論の拡張とそれによる均衡条件に基づく簡単化したモデルでのシミュレーションを行った。データを用いた反実仮想をできれば最高だったものの、夏のRAで自分がやろうとしているような一般均衡のモデルでのデータ生成にはすごく時間がかかることを知っていたので、理論部分が片付いた時期とキャパを鑑みて修論で反実仮想までやるのは厳しいかも宣言を11月時点で指導教官に告げた。

主なスケジュールは一個前の質問で書いていた通り。テーマ自体は修士に入る前からずっと関心のあることなので、それが学問的にどう大事なのかを考える時間としてSセメを使った。

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?

年間通して週一回ゼミとして指導教官含めた3人の先生方と学生の輪読+発表を行っていた。毎週持ち廻りなので、月一回発表が巡ってきた。

指導教官との個人的なミーティングは基本的には要望すればその日〜3日後の間に1時間くらいできるイメージで、平すと週1、2回は話す機会があったと思う。また、なぜか遭遇率が高い(自身も指導教官も大学にいる頻度が高いからだとは思う)ため、ふと遭遇した時に5〜10分程度で最近のアップデートと困っていることと雑談を話していた。これも含めると週3くらいで話していた時期もある。メールでもやりとりしていることが多いので、一切コミュニケーションを取らなかった週は長期休み含めてほぼないかもしれない。

Sセメの間は、次回どの論文を発表するかの相談+その論文を読んでいてわからなくなったところの質問をしにミーティングの時間をもった。

夏休みの間は8月終わりまでにモデルをある程度作っておくようにと言われていたので、そこに向けて準備していたら、その時期にちょっとした仕事を頼まれて9月はその関連で話したり、手を貸していただいたりすることも多かった。

秋は修論を進める週のたびに進捗を伝えにミーティングをしていた。どこかで見かけると捕まえてはしばらく話していた。

正直ここまで面倒を見てくれる先生は学内でも学外でも少ないのかもと思ってはいます。ありがとうございます!といつも思っている。

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

 

変な賃金が3ヶ月連続で出現したこと。

モデルで賃金が正になる仮定を置いているのに、均衡条件を導出したら負になった(10月)(理由:置換積分の時に積分範囲をひっくり返すのを忘れていた)。

部分均衡条件に基づいて一般均衡の条件を求めて、シミュレーションしたら賃金が虚数になった(11月)(理由:MATLABとの仲を深めきれていなかった)。

頑健性チェックのための追加のシミュレーションをしていたら、明らかに経済学的な直感に反する方向に賃金が動いた(12月)(理由:該当の分析用の関数の中身で転置をつけ忘れているところが一箇所あった)。

12月中旬から生じていた三つ目の問題の糸口を見つけたのは修論提出締め切りまで3時間半ほどの時だった。あまりのうれしさにMATLABを回している間に同期のいる研究室と指導教官の研究室を行脚した。指導教官にここまでやったのが報われましたねと言ってもらって、ぎりぎりにいい感じになったことに喜び舞い体内を駆け巡るアドレナリンを感じながら自分の研究室に戻ってからは、急いで追加部分を執筆し、MATLABが回り終わったら画像を載せて体裁と見た目をいい感じに調整し、カラーコピーをしにコンビニへ走り、そして事務室に走り、締め切りまで45分くらいで提出した。この一年間はなるべく後々で余裕を持てるように早め早めから動いていたはずだったが、結果としては各締め切りの前に脳内でKAT-TUNが活躍していた。毎回なんだかんだ丸く収まった(?)おかげで、ギリギリを攻める疾走感の中毒となってしまったかもしれない。要はもっと余裕を持てるように動いた方がいいのだと思うが、キャパが間に合わなかった。

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

どんな分野や進路にしても全力でサポートできることはするから、なんでも言いなさいと言われたこと。言葉をそのまま受け取ったので、なんでも言っている。

質問8: 大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

違った点:もっと鬱々とした人がいるのかなあと思っていたけど、みんなけっこう楽しそうに苦しんだりしていること。

想像通りだった点:学部の時よりも実家から近くて、通学が本当に楽。

質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

学内の給付奨学金で経研に所属する人が対象のものは経研のサイトに掲載されているもの以上に種類があること。準備が大変なものばかりではないので、ちょっと踏ん張って出すのは悪くないと思う。

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

98/100

最後に宣伝や一言があれば!

指導教官も自分自身もお喋り好きなので、たくさん話している節はあります。


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9人目:ヒトさん



『基本情報』

学部は東大 or 外部?

東大

専門分野は?

マクロ、金融

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

留学も視野に入れつつ博士進学をメインに考えていた。

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士進学で固まっていた。

実際の進路は?

GraSPPの博士課程に進学

この2年間でRAやTAをやった?

RAは2年間通して、TAはM2の1年間やった。

『質問』

質問1: M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

Sセメスターは、コア科目4つと数学系の2つでアップアップな感じでやっていた。Aセメスターはコア科目が2つになったので、RAをこなしながら自分の興味のある分野を模索した。

M2のAセメスターは修論に集中する環境にしたかったため、M1のAセメスターでもSセメスターと同じくらい単位を取った。結果、早々と単位要件を満たすことができ、修論さえ出せば修了が確定する状況を作れたのでメンタル的に正解だったと思っている。

質問2: M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

SセメスターはM1で残したコア科目(ミクロと計量2)の取り直しがメインだった。プラスαで指導教員の授業とゼミを受けた。Aセメスターは単位要件をすでに満たしていたため、指導教員の授業とゼミのみ参加し基本は修論に充てた。

授業期間のことではないが、夏期休暇期間に月100時間を超えるペースでStataに触れて、データクリーニングをしつつStataを体得したのは、その後の修論作成にも今後にも活きる経験になったと思う。

質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

夏期休業期間に朝から晩まで指導教員の部屋に行ってデータクリーニングをすると決めて実行したこと。指導教員との関係もこの期間で明らかに深まったと思っています。

質問4:修論の概要(内容でももちろんOKだがイメージとしては理論か実証かの説明)と大体のスケジュールを教えて?

実証研究。Sセメスターはリサーチクエスチョンと使用データを決め先行研究の調査をしたが、コア科目の取り直しもあってデータには全く触れられなかった。夏休みはそこまでで全くできなかったデータのクリーニングをやり、詳細な分析手法もこの期間で決めた。Aセメスター前半は修論のLiterature ReviewやMethodologyの部分を書きつつ、ゼミでの中間報告のフィードバックを踏まえ追加の分析をした。Aセメスターの後半に追加分析の結果をまとめて、残りを一気に書き上げた。

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?

ゼミが通年であったためSセメスターから毎週ざっくり進捗を報告する時間はあったが、ガッツリフィードバックを受けるようなものはS2タームのゼミで具体的に修論のテーマを発表してから。

自分はRAを兼ねて指導教員の部屋にほぼ毎日足を運んでいたため、適当に指導教員の余裕があるタイミングで直接報告する形だった。なので、良く言えばほぼ毎日、悪く言えば不定期という感じでした。Aセメスターも夏休みとほとんど同様でしたが、ゼミの発表の直前直後はそれ以外の時よりもしっかりやっていた印象。メールでのやり取りは基本なく対面が100%でした。

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

データクリーニング作業とサンプルサイズの問題。データクリーニングは実証研究をするうえで避けて通れず地道で大変な作業だが、それを終えてもまだ分析のスタートラインに立っただけという虚しさがすごかった。サンプルサイズ問題はデータクリーニングを終えてから発覚したため絶望感がすごく、どう対処するかかなり頭を悩ませた。

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

実証研究はディスカッションとかは一旦置いといて、結果が有意だろうが有意でなかろうがそれをそのまま書けばいい。(アドバイスではないが、書き上げる時にかなり気分的に楽になった)

質問8: 大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

 

(想像と違った)

・普通に学部と同じくらいテストがある

・もっと殺伐としていると思っていた

 

(想像通りだった)

・研究漬け・勉強漬けの生活

・食生活が悪いor悪くなる

・全然運動しない


質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

博士課程進学を予定する人のほとんどがM2の最初(4月末〜5月頭)でDC1という給付奨学金を申請すること。研究計画をがっつり書くことになるため、知っていればもう少し先行研究やテーマの決定に早いうちから注力できたのではないかと思っている。

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

97点!

*******************



10人目:マウンテンブルーバードさん



『基本情報』

学部は東大 or 外部?

東大

専門分野は?

マクロ

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

基本的には博士進学のつもりだった

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

変わらず

実際の進路は?

博士進学

この2年間でRAやTAをやった?

TA

『質問』

質問1: M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

セメスター中はコア科目に集中していた。また、Aセメは少し余裕があったので実証系の授業もとっていた。長期休み中は同期と勉強会をしていた。節目は指導教官決めの際の先生方との面談。コアにかまけて論文を読むのを怠り自分の関心を定めないでいると先生方との面談もあまり身にならないことを実感した。

質問2: M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

SセメはTAをやったり他大聴講に行ったりした(どちらも良い経験になると思うので一回はやってみてもよいと思います)。長期休みはゆっくり論文を読んでいた。Aセメに入りしばらくたった後、さすがに修論の進捗が危ぶまれたので研究をスピードアップした。


質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

院生室に通ったこと。同期とのつながりはあらゆる面で肝要。

質問4:修論の概要(理論か実証かなど)と大体のスケジュールを教えて?

マクロの理論研究。夏休みが終わってしばらく経つまでのんびりいろいろ論文を読んでいた。Aセメ中のあるところでこれはそろそろやばいということになり、必死にテーマを固めようとしたところ、たまたま貢献ができそうな部分が見つかったので既存のモデルを組み合わせてモデルを組み立て、突貫工事でプログラミングしシミュレーションまで漕ぎつけた。

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?

Sセメはゼミ形式で、自身の読んだ論文の発表を先輩方と持ち回りで行っていた。Aセメは出席自由になったのであまりコミュニケーションを取らなくなった。年末やワークショップの発表前後は話し合いをした。

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

研究テーマを決めるところ

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

研究者は第一印象がかなり大事で、その後のキャリアにも結構影響する。

質問8: 大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

 

想像と違った点

・コアは団体戦

・あってほしいと思う授業に限って意外と存在しないこと

・研究生活も結局人付き合いの能力が相応に要求されること

・意外と留学生との交流が少なかったこと

 

想像通りだった点

・自主性が試されること

・頭いい人がたくさんいること

質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

・公共の出願に関する情報全般

・各先生方の指導スタイル

・卓越プログラムやSpring GX、学振など経済援助関連の制度やそれらの攻略法

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

100点満点です!(CV.種崎敦美)



*******************

11人目:クロマグロさん




『基本情報』

学部は東大 or 外部?

東大経済。

専門分野は?

マクロ経済学。

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士 50% ***
就職 44% **
どこか遠い島に旅立つ 4%
虚空 2%

*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士 2%
就職 4%
どこか遠い島に旅立つ 44%
虚空 50% *************

*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1

実際の進路は?

就活全落ち(1社中1社)で博士進学へ。

この2年間でRAやTAをやった?

RAが案件2つ。それぞれM2の8月、11月より稼働し、週に合計15時間程度。但し、修論で忙しい時期は実働時間に配慮して頂いた。


『質問』

質問1: M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

春、Sセメスターは、コアコースに集中するつもりだった。が、気がつくと教養学部の輪読ゼミに真面目に参加していた。M.フーコーの生権力論を交えて、Covid19を巡る医療・経済そして、生命の統治について考察した。

学期末、計量IIで成績表に「(ᐛ👐可ァ!w」が付いたことに憤慨する余り、Bruce E. HansenのEconometricsに齧り付く日々が続いていた。そのある日、余りにも晴明な朝をベッドで迎えたかと思えば、時計の針は正午を指している。確か計量の追試は午前10時からだったはず。私はその日以来、14階建ての経済学研究科棟を見上げる度に、その屋上から自分が飛び降りてくる幻覚に暫く悩まされた。

秋、Aセメスターは、コアコースに集中するつもりだった。が、気がつけば情報理工の先端人工知能論を真面目に履修していた。自然言語処理のモデルの学習データを蓄積するために舶来のニシキヘビを振り回して、昼夜Twitter APIのアクセス上限と格闘していた。

年の瀬、サークルで私が一方的に敬愛していた(が、私の重度コミュ障ゆえに大して認知されていなかった)先輩から二月上旬の一週間旅行に誘われて、過呼吸になりながら二つ返事で快諾した。そう言えばコアの試験も同じ頃であると、その後の風の便りで知った。

——— 二月の父島は、まっさらな砂浜に、太陽が眩しすぎた。

質問2: M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

3月に入ると、博士としてやっていく展望が見出せないまま、私の中の世論はだいぶ消去法的就活へと傾倒していってたが、一方で、社会というメリーゴーラウンドの歯車として死ぬまでぐるぐる回り続けるのも酔生夢死と思えたので、煩悶はいよいよ深まった。

4月、就活アレルギーが増悪する中、折衷案としてこちらが選り好みした一社だけ受けることを対症療法として始めることを思い立ったが、私が一途な思いを寄せた貴社とは、最初の本社面接を最後に連絡が途絶えてしまった。

私の知る限り、この「人生舐めプ☆就活戦略」を二人の知り合いが取っていて、そのどちらも首尾よく内定に漕ぎ着けていたことがSNSでほんのり伝わってくると、就活用に買った青いネクタイで(首が通るくらいの)手頃な結び目を作り、天井からぶら下げて「終活ぅ~w」と孤独な部屋で自虐ネタをするのが日課になった。

5月、進路相談と称して、指導教員に人生相談をしてもらい、自分自身の気取った苦悩を鋭く指摘されて、深く反省し、心を入れ替えて博士に進むことにした。

質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

親元を離れて一人暮らし。人の棺桶に詰め込まれるより、多少手狭でも自分の棺桶に入ったほうが良いだろう。

質問4:修論の概要(理論か実証かなど)と大体のスケジュールを教えて?

データから仮説を取り出すことをはじめは志向していたが、最終的にピュア理論な修論になった。Sセメスターから夏にかけて、先行研究を追いつつ、関連するトピックコースを履修して、研究課題を探した。これと並行して、数値計算に関するプログラミングスキルを身につけた。

しかし、Aセメスターの中盤になっても、自分の中で納得のいく研究課題が見つからず、更に、夏までに組んでいた先行研究のレプリケーションで、自分が採用したプログラミング言語では計算時間がかかり過ぎるという課題に直面していた。

11月に入ってから、研究の方向性を単純化し、数値計算の戦略を抜本的に変更することを決めた。修論の最後の一ヶ月は、竹槍でICBMを撃ち落とすような戦いで、心身共に焦土と化した状態で、一月六日に無条件降伏。論文に掲載する数値計算の結果が出たのは、提出期限の二日前だった。

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?

Sセメスターは週一ペースでゼミがあり、論文発表と自分の修論発表が半分ずつ。夏の休暇中はゼミもお休みだが、月に一度のペースで研究相談を行なった。Aセメスターは参加任意のオフィスアワーのみだったので二、三週に一回のペースで進捗報告をした。

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

修論の制約が厳しいこと、大学院に入ってから自分の研究テーマを探し始めた場合は特に。例えば、近代経済系の論文を一本仕上げるのに最低限必要な時間に比して、実質的に与えられた時間があまりに短すぎること、大学院生の身分ではアクセス可能なデータセットに制約があること、ほぼ初めての学術研究なので、研究活動にどんな作業や能力が必要であるのかが、修論が終わった後になってやっと分かり始めることなど。分野にもよるのだろうが、これらの制約をはじめから割り切れると快適かもしれない。

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

研究者に向いているのは「言いたいことがある人」。

質問8: 大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

良くも悪くも想像通りだったのは、経研は人も物も除菌消毒され過ぎていて、人間的な香りのするノイズが少ないこと。とは言いながら、想像と違ったのは、誰もが血も涙もないわけではなく、ミクロな人情はそこかしこに隠されていること。

質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

個人的には、少なくとも博士期間中に限って言えば、食い繋ぐ方策は案外いろいろあること。良く探せばDC以外にも給付型奨学金などはあるし、自立した生活が可能な待遇のRA案件も方々で出回っている。最終手段として、指導教員に養ってもらう(RAとして)などもありうる。無論、他人のための作業をせずに、安心して学業・研究に専念できるのが最も理想的ではあるが。

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

修士課程に入った頃の自分であれば3/100点。現在の自分であれば60/100点。

additional:最後に宣伝や一言があれば!

効用最大化だけが人間の全てじゃない。


*******************



12人目:アカハシウロコバトさん



『基本情報』

学部は東大 or 外部?

東大

専門分野は?

実証IO

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士5割、就職5割

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士5割、就職5割。とりあえず就活をやってみた。

実際の進路は?

就職

この2年間でRAやTAをやった?

RAのみやった

『質問』

質問1: M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

Sセメはマクロ以外のコアを受けていた。測度論的確率論と実証IOのトピックコースもとっていた。夏休みは経セミとかAcemogluの成長論の勉強会をやっていた。Aセメはコア全部受けていた。Sセメの測度論的確率論の続きの授業とまた別の実証IOの授業,空間統計,ポリエコを受けていた。ポリエコはterm paperの論文読むとこまでやって,書く時間がなかったので提出はしなかった。コアの追試には引っかからずに済んだ。春休みも測度論的確率論の勉強会を軽くやった。3月に就活をはじめた。

質問2: M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

Sセメは5大誌を中心に興味ある分野の論文とかデータとか見て修論で何ができそうか考えていた。4月に就活を終えた。S1で授業を何もとらなかったら生活習慣が崩壊したので,S2で工学部の1単位のPythonの講義受けていた。実証IOの勉強会もセメスター中にしていた。Sセメにほぼ授業取ってなかったので,夏休みもSセメの延長みたいな感じで続いていった。修論の方向性は9月初めに決まった。Aセメは因果推論やまた別の実証IOの授業を受けていた。1月初めに修論を提出した。春休みはベイズの勉強会をやった。

質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

指導教員の選択。分野的にもスタイル的にもマッチ度が高かった。

質問4:修論の概要(内容でももちろんOKだがイメージとしては理論か実証かの説明)と大体のスケジュールを教えて?

実証IOの構造推定。8月まではテーマ&データの可能性を探っていて,9月に方針が決まった。9月半ばにはデータをとって,クリーニングをしながらpreliminaryな分析とかやっていた。12月半ばに目処がついて,そこからは執筆して1月初めに提出した。

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?

週1のmtgで進捗報告した。他の修論指導学生も参加していて,一人20〜30分ぐらい話す。簡単なスライドを毎回作っていった。SセメもAセメもそんな感じ。

 

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

データやテーマ決めの段階で,データがどこまで揃っていたら何ができるのか,いまいち掴めなかった。W杯がむちゃくちゃ邪魔してきた。

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

「経済学的に面白い」「政策的に大事」みたいな視点

質問8: 大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

想像と違った点は,思ったより同期で知らない人多い(半分オンラインだったからかもしれないけど)。

想像通りだった点は,修論を書くのは大変。

質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

みんな博士にいくので就活するタイミング見失いがち。

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

90点。全体的に満足だけど,M1の頃はオンラインがメインだったのが残念だった。

*******************




13人目:カクレクマノミさん

 

『基本情報』

 

学部は東大 or 外部?

外部

専門分野は?

実証IO

入学時点では修士後の進路についてどう考えていた?

博士5割 就職5割

M1の3月時点では修士後の進路についてどう考えていた?

就職9割9分

実際の進路は?

M1冬からM2春にかけて就活し、6月にシンクタンクと証券会社から内定をもらった。内定をもらった後に、教員と話してやはり博士課程に行きたいという思いが強くなり、内定式直前に内定辞退して博士課程に進学する事にした。

この2年間でRAやTAをやった?

M2から研究室の同期とコード書きのアルバイトを始めた。


『質問』

質問1: M1のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

Sセメはコア科目と数学に追われていた。院生室には全く行かずに一人でやっていたので、結果的に宿題や試験勉強は、適当な感じで終わらしていた。その結果成績も芳しいものではなかったので猛烈に反省している。また、IOのトピックコースも受けていて、その分の負担も割と大きかったので、なおの事、コアは疎かになってしまった。ただトピックコース自体はとても勉強になったので取った事自体は後悔してない!

夏休みに関しては、8月と9月前半はずっと旅行に行ったりして遊んでいた。9月後半は追試の勉強に追われていた。

Aセメも相変わらず適当な感じでコアはこなしていた。また、トピックコースもいくつか取っていた。コアの成績が良くない上に、研究する機会もなかったので、この時期には就職にかなり心が傾いていた。経済学研究科のシステム上、修論指導が2年生からしかないのは学生のモチベーションを下げている気がする。

秋くらいには、インターンに参加するために、企業研究とかをぼちぼちしていて、インターンのエントリーシートをいくつか書いた。冬は実際にインターンに参加して、受ける企業もかなり絞った。その結果、コアの試験もかなり適当に受けてしまった。結果、両方追試(泣)。追試の時期には就活も本格化し始めた結果、追試も蔑ろにしてしまいミクロを落としてしまった(大号泣)。

質問2: M2のスケジュールと節目になった出来事を教えて?

就活に関しては、M2の春くらいは就活に追われていた。学業に関しては、M2の4月から実証IOの先生の配属になり、研究ミーティングを通して修論を仕上げていった。また、Aセメはコアの取り残しがあったので、それにも注力していた。さらに、Spiring GXや公共政策受験の書類作成にも追われていた。

質問3:修士課程の間におこなった(学問や大学院生活に関わる)意思決定の中で一番してよかったものを教えて?

①指導教官の選択。指導教官がメシアだった事は、疑いの余地がない。

②してよかったかどうかは将来に委ねられるが、内定獲得&内定辞退もビッグイベントではあった。

質問4:修論の概要(内容でももちろんOKだがイメージとしては理論か実証かの説明)と大体のスケジュールを教えて?

実証IOの構造推定。ガソリンの長期価格弾力性を推計した。

1年間を通して週一回のミーティングが設定されていて、そこで研究室同期3人と指導教官と議論しながら修論を進めていった。Sセメの間は、トップジャーナルを数本読んできて、その概要を報告するという事を行った。8月くらいに使いたいデータとリサーチクエッションがほぼ同じタイミングで決まった。どちらもSセメで輪読したりしていたものの一つだった。データはデータ会社から購入する必要があったので、購入手続きを取った。3人の中では、データを決めたのが早かった方だが、自分の要領が悪すぎて、結局データを入手できたのは10月中旬だった。そこから、推定、執筆、提出を大急ぎで行った。

質問5:M2の期間、指導教員とはどのくらいミーティングなどで関わった?

週1の定例ミーティングで毎週会っていた。進捗が無くても会うのは本当に大事。またそれに加えて、個別に連絡を取って、適宜時間を割いてもらった。

質問6:修論に関して一番大変だったポイントは?

実証の中でも、かなりcomputationの比重が重かったので、コードを書いて、現実的な速度で推計しきるのは大変だった。最終的にはスパコンを契約してもらって何とか回った。

質問7:指導教員からもらったアドバイスや言葉で一番印象に残っている(or勉強になった)ものは?

博士楽しいよ!

(色々貰った気がするが、自分の記憶力が悪いせいかあまり思い出せない。ただ、教員が心から「博士楽しいよ!」と言っている姿は印象的で、かっこよかった。)

質問8: 大学院入学時点の想像と実際の大学院生活で、想像と違った点と想像通りだった点は?

入学時点で、経済学研究科は、殺伐として、殴り合いの世界の印象があった。M1の時点でも、人と全く交流しなかった結果、その印象を持ち続けていた。M2に入り、適宜人と交流した結果、院生に関しては(教員がどうかは知らない)意外とそうでもない気がした。

質問9:就職する人は就活に関して、博士に行く人は博士進学に関して、この情報/tipsは事前に知っておきたかったな(もしくはこの情報はもう少し広く知られてもいいはずなのに知られていないな)というものを教えて?

就活に関して)

M1からガンガン研究を行う他研究科とは異なり、経済学研究科ではひたすらコアに追われている。なので、自分の場合は、院生なのにガクチカでM1のエピソードについて喋れず、卒論や学部ゼミについてばかり話すという悲しい事態に陥っていた。かなり偏見も含んでいるが、金融機関等の学卒の人が中心的に受ける企業に行きたい場合は、経済学研究科にいるメリットはほぼない気がした。

博士に関して)

就活するにしろ博士行くにしろ、少しでも迷いがある場合(自分の場合は1%)は卓越を出そう!

全般)

企業の内定辞退はあっさりできます!
博士に行く決断もあっさりできます!

質問10:修士課程に対する全体的な満足度を100点満点で表すと?

(M1:0点、M2:80点を平均して) 40点

additional:最後に宣伝や一言があれば!

人と交流しましょう!







以上がアンケートの結果です。情報不足で困っていた方に役立てたなら嬉しいです。協力してくださった同期の皆さん、改めてありがとうございました!

最後に関連する記事のリンクを3つ貼っておきます。

昨年まとめた2つの記事。

東大経研(経済学コース)に入学する方への情報提供


東大経研M1(経済学コース)のリアルな声


直接は関係しないですが、公共政策大学院の修士課程の方がまとめてくれた記事。

東大公共政策大学院所属で、経研のコアを取っている現状からの情報提供


Fin.

 

*1:追記:フットサルグループに興味ある方はTwitterでメンションするか、この記事にコメント(一般公開はされません)をお願いします。

if と if and only if

 

*この記事は経済学(や関連分野)で英語の教科書を読み始めたくらいの人を想定読者にしています。

分かってしまうと簡単だけど大学院入って最初の数ヶ月は混乱していたこととして、if と if and  only ifの違いがあります。僕以外の同期でも混乱している人がいましたが、理解できてしまうと当たり前すぎて逆にあまり説明されないみたいなところがあると思うので書いておきたいと思います。

定義において出てくる"if"と"if and only if"はどちらを使ってもよくて、定理(補題、命題)において出てくる"if"と"if and only if"は区別すべきものっていうのが分かりづらいなと思っていて、今回はその話です。





定義におけるif と if and only if

例えば、

Definition:
社会的厚生関数F satisfies 匿名性 if (Fの条件)

という場合には、このifはif and only if に変えても同じことで、具体的には

Definition:
社会的厚生関数F satisfies 匿名性 if and only if (Fの条件)

としても大丈夫です。

ifを使ってもif and only ifを使っても「社会的厚生関数F が匿名性を満たすとは、ーーーーということである」という風に概念の定式化を行っているだけです(書き手の好みの問題)。

定理におけるif と if and only if

これとは対照的に、

Theorem:
社会的厚生関数Fが公理1~4を満たす if and only if (Fの条件)

のように定理(補題、命題)などにおいて出てくる if や if and only ifは区別する必要があります。上の文は「社会的厚生関数Fが公理1~4を満たすと仮定するとFは(Fの条件)を満たす、かつ、社会的厚生関数Fが(Fの条件)を満たすと仮定するとFは公理1~4を満たす」と主張していますが、もしこれを、

Theorem:
社会的厚生関数Fが公理1~4を満たす if (Fの条件)

とすると、「社会的厚生関数Fが(Fの条件)を満たすと仮定するとFは公理1~4を満たす」という違う主張になります。

定理においてはif とif and only if を区別するべきだということは知っていると、定義においても区別すべきなのではないかと勘違いしてしまう可能性があるのがこの話の落とし穴な気がしています。

定義におけるifとif and only if は一点だけ注意あり

以上の内容で基本的には大丈夫だと思うのですが、定義におけるif と if and only ifには一点だけ注意が必要で、

Definition:
関数P is OOO  if  P satisfies A if and only if P satisfies B.

というようになっている場合には、赤字にしたif は最初の例と同じようにif and only if に変えても大丈夫ですが、if and only if は ifに変えてしまっては違う意味になります(もちろん黒字のif and only if が ifだった場合もそれをif and only ifに勝手に変えることはできないです)。

つまり正確にいうと、

「定義の文において、定義の骨格を作っているif(もしくはif and only if) = 『ーーーとはーーーのことである』という構造を与えているif(もしくはif and only if) はif と if and only ifのどちらを使っても『ーーーとはーーーのことである』という構造を与えるだけなので同じだが、定義の文においてもそれ以外のif や if and only if (条件の中に出てくるif やif and only if ) は定理においてと同じように区別して考える必要がある」ということになるかと思います。





僕はこんなかんじに理解しています。意外とややこしい気がしてる〜。


Fin.



反例って反例になっていればいいってわけではないんだね



大学院1年生の時に受けていたミクロ経済学の授業では、「次の命題を証明するか間違っていることを(反例を示して)示しなさい」というタイプの問題が多く出題された。

こういう種類の問題が出た時にはまずは反例を見つけようとすることが個人的には多いけど、僕は反例を見つけるのが割と得意だったし、頭の使い方としても証明するよりも好きだった。あとはなんといっても、反例を見つけたら面倒な証明をすることなく一発でその問題を終えることができるのが宿題の量が多いときには嬉しかった。笑

そんなわけで反例探しが好きになっていた僕は本格的に論文を読むようになってからも論文の主張に対して反例を見つけようとしたりしながら読むことも多くて、しばらく反例を探すのがとても好きな時期が続いた。

ただ、研究っぽいことをすることが多くなってきた最近では「そこまで好きじゃないなぁ。。。。」というかんじになってきた。



というのも、宿題だったら反例が見つかるか見つからないかがすべてであり、反例に良いも悪いもない(貰える点数は変わらない)。



しかし、どうやら研究だとそうはいかないらしい。

例えば僕が専攻している社会的選択理論では公理と呼ばれる条件を色々と考えていくのだが、「例えば4つの公理で不可能性が示せます(この4つの公理を同時に満たすルールは存在しません)」という主張があったときに、反例を発見して主張が間違っていることを発見したとする。

そのときに仮にその反例がすごく極端なものであったら、「元の主張にちょっと修正を加えて極端なケースを排除するようにしたらその反例は成り立たなくなるから、本質的には元の主張で良さそうな気もするなぁ」みたいにかんじたりもする。対してその分野において一般的なルールが反例になっていたら、「極端なケースを排除するような公理を追加して解決するタイプの問題ではなさそうだな」となったりする。同じ主張に対する反例でも価値が異なるわけだ。

また、指導教員に「ーーーーという反例とーーーーーという反例を思いつきました」とある主張に対して(どちらも極端ではない)2つの反例を考えて持っていったときに、「こっちの反例はこういう分野の人に受けが良さそうで、こっちの反例はこういう分野の人に受けが良さそうだね」みたいなコメントを受けて、そういうめんどくさい観点があることも最近知った。

反例にも本質的なものとそうではないものがあるし査読とかまで含めるともっともっと考慮することが多いらしい(ので、最近では反例を1つの見つけても「もっとまともな反例はないかな」とか「こういう種類の反例もないかな」みたいに反例を1つ見つけたらOKみたいなことにはならなくなってきた)。



こういうことに気づくようになると、学部のときとかは例えば授業受けているときに「こういう反例があると思うので、厳密には授業スライドの内容は成り立たなくないですか?」みたいに無邪気に質問して「あーよく気がつきましたね」みたいに言われることが多かったけど(本当にそういう機会が多かったかはあまり記憶が定かではないけど。笑)、

あれは普通に「たしかにそれは反例になっているかもしれないけど証明のアイディア自体はそれでもvalidだよね。その些細なポイントをそこまで厳密に考えなくてもなぁ」といまだったら(or 当時の先生だったら)言いたくなるような指摘だった可能性があるわけだ。「なんでもいいから反例を見つけようとしてみて見つけたらきっと先生の役にも立つから教えてあげよう!」みたいなメンタリティーはさすがに無邪気すぎる。*1

たぶん「主張があっているかどうか」に注目しすぎていて、「この証明のアイディアは何か」とか「どういう構造が発見されたことが大事なのか」みたいなことを意識することを知らなかったのだと思う。



先ほど自分が(大学院生になってから)書いたブログを読み返していたら、「教科書ではこの主張に対する反例としてこういうものを挙げているけど、僕が考えたこの反例の方が分かりやすくないかな?」みたいなことが嬉々として書いてあった。

それを見返したときに、「その反例はたしかにより簡単だけど、より適切とは言い難いな。」という風に反例についての感覚がこの短期間でだいぶ変わっていたことに気づいたので、成長を実感した記録としてこの記事を書いてみました。反例も奥が深い。

Fin.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:ただしこのようなメンタリティーを当時持つこと自体は学習に役立ったと思っているので、そのようなメンタリティーを持ち続けるのが問題ということ。

先日の記事に頂いたコメントへの返信。



先日公開した記事(哲学の問題に数学で挑むってどういうかんじ? )について多くのコメントをはてなブックマークで頂いたので、いくつのコメント(特に技術的な疑問点)について僕の考えを書いておきます。この分野に興味を持ってくださり、ありがとうございました。

この分野は発信者が少ないので慎重かつ誠実なコメントを心がけますが、単なる大学院生の意見なので読み流すくらいの感覚で捉えて頂けると幸いです。

Minimal Increasingnessは一次元と同相だから推移律を満たせば自動的に満たしそう。

 

これは自動的には満たされないです。例えばどんな2つのベクトルを取ってきても同等に望ましいと判断するような(ちょっと極端な)価値判断基準を考えると、これは推移性を満たしますが(イメージとしては全部に対して同等に望ましいと判断しているため特に内部に矛盾はないということです)、minimal increasingnessは満たしません(全部に対して同等に望ましいと判断するということは(3,3,3)(4,4,4)の比較などについても同等に望ましいと判断してしまうからです)。このタイプの高度な疑問を持ってくださり、ありがとうございます。

 

a bかつb ca c」の「推移律」って、自明に仮定して良いのかよく分からなかった。

 

「推移性(記事中の整合性の条件)を満たしていないと価値判断基準として認めない」という風に定義しましたが、「推移性を満たしていなくても価値判断基準として認める」ことにした上で、「価値判断基準に推移性がないよりはあった方がいいから、価値判断基準に要求したい条件として推移性を課す」というように、価値判断基準の定義での段階ではなく後から他の条件と同じように推移性を定式化することにしても大丈夫です(これは論文においてもどちらのパターンを見ることがあります)。

 

また、推移性の要求が強すぎるという意味で気になる場合には、今回は紹介しませんでしたが推移性を弱めた条件を課すこともあります(「正確にいうと「a ≻ bかつb ≻ c⇒a ≻ c」は準推移性と呼ばれることが多くこれの弱め方として「a\succ bかつb\succ cならば、c\succ aではない」などを考えることができます)。それすら課さない=整合性の条件をまるで課さないとするとさすがに価値判断基準として使い物になることが保証されない気がします(もちろんこれは僕の感覚ですが)。

 

>途中まで興味深く読んでいたが、"またそもそも幸せとは何か、幸せをどう測定するかなどについても今回は扱いません"""に。数値化できないものを数学で解析する意味とは。それはまた別の研究なのでしょうか。

 

今回の記事については、そこは一旦認めた上で=幸せと呼ばれるものがあってそれを仮に測定できるとした上で、どういう議論ができるかを考えていると思っていただくのが分かりやすいと思います(ただし実際にはこの分野においてこの種の観点を無視しているかというとそういうわけではないです。特に測定についてはInformational basisなどのキーワードが関連しており多くの研究蓄積があります)。

 

経済学の公平分配は既にパレード最適を目指す、で一致していると思ったが……

 

これは意外と知られていないのですが(経済学のアウトリーチ不足かもしれません)、実際にはそんなこともないです。例えばNo-envy(無羨望)と呼ばれる公平性の概念などはパレート効率性とは異なる規範的な概念としてお調べになると面白いかもしれません。

 

人の幸福以外のものを価値として考える理論はたくさんあって、このやり方ではそういう考えに対応できない。議論としては面白いんだけど視野が狭いというか、数学をやるならそういう前提条件に注意するべきと思う。

 

これはおっしゃる通りだと思います。実際にPopulation Ethicsの分野でも幸福の情報以外の情報(non welfare informationと呼ばれます)を入れ込んだ研究はあります。ただ、やはり幸福以外の情報も入れようとするとそれだけ議論は複雑になりますのでまずは幸福の情報だけを使って基本的な構造を調べるみたいなイメージかなと思います。

 

アローの不可能性定理は知ってたけど、こちらの不可能性定理は知らなかった。問題の設定をいろいろ考えれば、いろんな不可能性定理がありそう。

 

まさにそうです!Population Ethicsの分野に絞っても他にも多くの不可能性定理が存在しています(ましてやアローによって切り拓かれた社会的選択理論という大きな分野では数えきれないほどの不可能性定理があります)。ギバード・サタースウェイトの定理やリベラルのパラドクスなどは社会的選択理論における有名な不可能性定理ですので、ご興味がありましたらそのあたりのキーワードはおすすめです。

 

>個々人の幸福感は定数ではなく関数で表されたほうが現実に即しているのでは

 

これは非常に鋭い点でして、今回は幸福について定数で表していますが実は関数で考えている世界観がベースにはあります(ただしその世界観はいささか扱いづらく、reasonableであると思われている仮定をおくことで今回のような枠組みに簡略化して落としてきているという背景があります)。

 

>この記事の内容は哲学の一部なのか問題について(複数のコメント)

 

タイトルは「哲学の問題に数学で挑むってどういうかんじ?」にしましたが、より丁寧に自分が経済学研究科に所属していることも考慮して表現するならば、「経済学の一分野で、経済"or より広く社会")に関する規範的な問いに数学を使ってアプローチする社会的選択理論*1の研究ってどういうかんじ?」になるかと思います。

 

ただ、Population Ethicsについては、哲学の研究者の中で数学が得意な人たちと、経済学者の中で哲学が好きな人たち(社会的選択理論の研究者)の両者が研究を進めている分野なので、実際に採用したタイトルの表現でもあまり問題はないかなと思っています(社会的選択理論の研究者ばかりが研究しているテーマで哲学者が研究していないテーマというのもありそうですが、その場合は今回のようなタイトルにすると語弊がありそうですがPopoulation Ethicsは両者がやっているはずなので、今回のタイトルにそこまで問題はないかなと思います)。

なお、「哲学」という言葉の使用については、哲学系の学術雑誌に論文を出版しているような人たちの研究領域は「哲学」と呼んでよさそうだと判断しました(ただし、哲学側の細かい事情があったりはするかもしれません)。

 

議論の前提を数学の言葉でより厳密に提示・共有することで、推論が数学的にできるのはもちろん、議論のカバー範囲が明確になり、前提の妥当性の議論もし易くなる。

このコメントはまさに自分がしたかった言語化なので非常に参考になりました。ありがとうございます!

 

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改めまして多くのコメントをありがとうございました。自分では気づかなかったポイントなどもあり勉強になりました。なお、飛ばしてしまった疑問などもありますがこの記事に関する追加のやり取りは基本的にはこれ以上は行わない予定です。

*1:ただし正確には社会的選択理論においては規範的な問い以外に投票の仕組みのデザインなども行います。

哲学の問題に数学で挑むってどういうかんじ?



僕は経済学研究科に所属する大学院生です。

ただし経済学の中でも特殊な領域を専攻しており、「どんな社会が良い"社会か?」「公平な"資源の配分とは何か?」など哲学的な問いを扱っています。

この記事では、初歩的な数学以外は前提知識なしに、社会的選択理論(経済学の一分野。社会についての哲学的な問いに対して数学でアプローチする)のイメージを共有してみたいと思います。具体的にはより細かいテーマとして最近取り組んでいるPopulation Ethicss(人口倫理)について取り上げます。

Population Ethicのモチベーションを紹介しながら、Ng(1989)によって示された不可能性定理を証明も含めて説明します。

「数学をこんな問題を考えるのに使っているんだ!」「経済学の中にはこういう領域もあるんだ」みたいなことを共有できたら嬉しいです。

長い旅にはなりますが、ぜひ経済学の中でも特殊な世界を覗いてみてください。

 

 

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社会の構成員全員が少しだけ幸せである、

そんな社会を思い浮かべてみます。

衣食住には困らないけど、たまに孤独を感じたりすることはあって、人生に満足してるか聞かれたら少し迷いつつも「満足してるかもしれません」みたいに答える。

そんなかんじでしょうか?

次に、ほぼ全ての構成員がとても幸せだが1人だけすごく不幸せな社会を思い浮かべてみます。すごく不幸せな1人を想像するのは悲しいので描写はしませんが、まぁそういう社会を想像することはできそうです。

では、いま思い浮かべた2つの社会を比べたときにどちらの社会の方が望ましい社会でしょうか?

 

 

「全員が幸せな社会」と「全員が不幸せな社会」の比較なら簡単そうですが、これはなかなか一筋縄ではいかない問題のように思えます。

どのような社会状態が良いかを判断するルールのことを価値判断基準と呼ぶことにすると、「望ましい社会状態とは、人々の幸福の合計が高い社会状態である」という価値判断基準はまず1つ有力かなと思います。この考えはUtilitarianismと呼ばれます。

また、「望ましい社会状態とは、その社会において一番不幸せな人の幸福度が高い社会状態である」という価値判断基準も有力なものの1つです。この考えはMaximin(一番低いMinを一番高くMaxにするというニュアンス)と呼ばれます。

他にも色々な価値判断基準が考えられますが、

•どのような価値判断基準を採用すると良さそうか?

•我々が価値判断基準に関して満たしておいてほしいと思う性質は何か?

•(有力であると思われる)複数の価値判断基準があった際にそれらの差異はどこにあるか?

などについて考えてみるのは大事そうです。

こういう問題について日常的な言語を用いて分析しても良いのですが(実際にそれも重要ですが)、非常にクリアな言語である数学を用いることで思わぬ発見があったりするので、数学を用いてアプローチしていこうというのが今回やりたいことです。



どのような価値判断基準が望ましいかなどを考えていくにあたって、まずはそもそもの話として"価値判断基準という概念に数学的な定義を与えます。

例えるなら「どういうゲームのルールが望ましいかを考えるために、そもそもゲームのルールとは何かを定義しよう」みたいなかんじです。

価値判断基準の定式化にはいくつか種類がありますが、まずは標準的定式化(not Popolation Ethicsにおける定式化)を紹介します。その後にPopulation Ethicsにおける定式化を紹介します。それでやっとPopulation Ethicsにおける価値判断基準の具体的な性質などについて考える舞台が整うというかんじでそこから本題の不可能性定理に入っていきます。



"価値判断基準という概念の標準的な数学的定式化

 

いまから色々準備しながら「価値判断基準」という概念に数学的な定式化を与えます。

まずは設定について考えます。社会には1さん、2さん、、、、nさんと呼ばれる、n人の個人が存在するとします。この人数は何かしらのnで固定されておりこれは動かないとします。

そして例えば (n=3の時には)ベクトル(100,200,4)を「1さんが100だけ嬉しくて、2さんが200だけ嬉しくて、3さんが4だけ嬉しい社会状態」と解釈することにします。

より一般的には、n次元ベクトル(u_1,u_2,...,u_n)は「1さんの嬉しさがu_1で、、、、nさんの嬉しさがu_nの社会状態」と解釈することになります。

こうすると、先ほど出てきた「全員が多少幸せな社会状態」と「1人以外はとても幸せだが1人だけめちゃくちゃ不幸せな社会状態」の比較は、

「ベクトル(200,200,...,200)とベクトル(500,500,...,500,-100000)のどちらが望ましいか」のようなベクトルの比較の話に落ちてきます(具体的な数値はテキトーに決めました)

なお、100という嬉しさの数値が具体的にどの程度の幸せであるかについては今回は考えないことにします。またそもそも幸せとは何か、幸せをどう測定するかなどについても今回は立ち入りません。人々の幸せの情報がベクトルとして取得できるとした上で、どのベクトルがより望ましいかを判断するような世界観です。

いま、(200,200,...,200)(500,500,...,500,-100000)というベクトルの比較を考えたいという話をしましたが、実際にはこの2つ以外のベクトル同士の比較もしたいわけです。

我々が考えたい「社会状態全体からなる集合」を\Omega_nという記号で表すことにすると、これはn次元ベクトル全体からなる集合となります。

つまり\Omega_nという記号は集合を表しており(集合というのは箱のようなものです)その中には、(200,200,...,200)(500,500,...,500,-100000)に限らず他にも(0.5,....,0.5)のようなものも含めて全てのn次元ベクトルが入っています。

ここまでの準備のもとで、(標準的な文脈における)価値判断基準とは「\Omega_nの任意の2つの要素(つまり任意の2つのn次元ベクトル)u,vが与えられたときに、どちらの方が望ましいか(もしくは同等に望ましいか)を判断するルール」というかんじに次のように定式化されます。

厳密には二項関係という概念を用いるのですが今回はそこには立ち入らずに少しふわっとした定義をしますが(そして関数っぽいニュアンスで書きますが)、

(標準的な)価値判断基準とは、

どんな2つの\Omega_nの要素u,vが与えられても、u\succ vv\succ uu\sim vのいずれかを返すルールのことである。

と定義されます。

ただし、u\ \succ\ vuの方がvよりも厳密に望ましいという意味で(v\ \succ\ uも同様)、u\  \sim\ vは同等に望ましいという意味で使われています。

これで、標準的な文脈における価値判断基準の定義ができました!

定義をみるとわかるように「価値判断基準」という概念自体には、どんな2つのn次元ベクトルu,vに対してもu\ \sim\ vを割り当てるようなもの(どんな社会状態でも同程度望ましいと判断する意味の分からないもの)も含まれていることに注意してください。一見するとくだらない価値判断基準でもよく分析してみると良い性質を持っているなんてこともあるかもしれず、「価値判断基準」という定義の段階では非常に広く定義しています。

社会的選択理論における標準的な(or 古典的な)領域においてはこのように価値判断基準という概念を定式化した上で、具体的にどのような価値判断基準が望ましいかなどについて議論を進めていきます。

しかし今回はそこには入っていかずに、いまやった定式化とは異なるPopulatin Ethicsにおける「価値判断基準」という概念の定式化を紹介した上で、そこで定式化したPopulation Rthicsにおける「価値判断基準」について具体的な性質やデザインについて話を進めていきます。


Population Ethicsの視点

先ほどの話においては前提として社会を構成する個人が1さんからnさんで固定されていました(社会を構成する人数がある自然数nで固定されていました)。そういう舞台の上で価値判断基準という概念を定式化したわけです。

このような定式化で基本的には問題ないのですが、実は子育て支援政策などについて考えたい場合には少し問題が発生してしまいます。

というのも、積極的に子育て支援をした場合には将来生まれてくる日本社会の構成員は増えると予想されますが、あまり子育て支援をしなければ将来生まれてくる日本社会の構成員は少なくなると予想されるからです。現在の選択によって、(日本)社会を構成する人数が変わってしまうわけです。

こういう社会的イシューについて考える場合には、「現在この社会がxという選択肢を採用すると将来的に生まれてくる人数は100人でその全員が50だけ嬉しい状態が実現しそうだが、yという選択肢を採用すると将来的に生まれてくる人数は200人で全員が30だけ嬉しい状態が実現しそうだ。どちらの子育て支援政策が良いだろうか」みたいな判断をする必要があり、

先程定式化した、(例えばn=100などで固定されたnについて)n次元のベクトル同士を比較する価値判断基準の概念では役不足です(今回のような問題において求められる社会状態に関する価値判断比較をしてくれません)

子育て支援政策に限らず未来について大きな影響を及ぼす多くの社会課題(限られた資源の配分や地球温暖化対策など)について考えるようとするとこの問題が出てきてしまいます。

これでは困るので価値判断基準という概念を(社会を構成する人数が変化する場合も含めて扱えるように)上手いかんじに定式化し直したくなってきます。


Population Ethicsにおける"価値判断基準"の定式化

 

先ほどは\Omega_nという記号で、(ある固定されたnについて)n次元ベクトル全体からなる集合を表ました。これが先ほどの定式化において考える「考えるべき社会状態全体からなる集合」だったわけです。

今回は「考えるべき社会状態全体からなる集合」を\Omegaという記号で表すことにします。そしてこの\Omegaがどういう集合かというと、「有限次元のベクトル全体からなる集合」とします。

つまり、\Omegaという集合(箱)には、(5,5,1)(1,1,1,1,1)(-100,3.333)など次元が違うベクトルたち要素として入っているわけです。数値(実数)を有限個並べたものであったらなんでもいま用意した\Omegaという箱に入っていることになります。

こうすると社会を構成する人数が違う社会状態同士の比較が可能になる準備が整いその上で、

Population Ethicsにおける価値判断基準とは、

どんな2つの有限次元ベクトルu,vが与えれたときにも(このuvは先ほどとは違い同じ次元とは限らない)、u\succ vv\succ uu\sim v
のいずれかを返すルールのことである。

と定義されます。

これでPopulation Ethicsにおける価値判断基準の定義ができました。

ちょっと図にしてみます。



 





これでPopoulation Ethicsにおける価値判断基準とは何かが定義できました。これを行ったことでやっと価値判断基準に関する具体的な性質やデザインの話に入っていくことができます(記事としてはあと半分くらいです)。

2点だけ重要な補足をしておきます。

まずは整合性の条件について。価値判断基準についてなんでもありなかんじに定義しましたが、さすがに「社会状態a,bを取り出してきたときにはa\ \succ\ bと判断して、社会状態b,cを取り出してきたときにはb\ \succ\ cと判断するにも関わらず、社会状態c,aを取り出してきたときにはc\ \succ\ aと判断する」みたいなことがあると、その価値判断基準は内部に矛盾を抱えてしまっています。そこで、このような不整合な判断はしないという条件だけは、"価値判断基準という概念に定義の段階で課しておくことにします。

次に幸せの値の解釈について。幸せの値がどういう意味を持つのか(幸せの値が100であるとはどういうことか)については考えないことにしました。それは基本的にそのままなのですが、Population Etchisにおいては0のみ大きな意味を持たせます。幸せの値としての0は、「その個人にとってその人生を生きるのと生きないのが(その人生を経験するのと何も意識にのぼないでその人生を経験しないのが)どちらでも同じである幸せの水準」と解釈することにします。

幸せの値としての0をこのように解釈するのは、Population Ethicsならではです。標準的にはこのような強い解釈はしません(こういう強い解釈を持ち込まずに議論できるならそちらの方がいいと考えられるからです)。しかしPopulation Ethicsにおいては生死に関わる問題も扱う必要があるためこのような強い解釈を0に持ち込むことが一般的です。補足は以上です。

ここまでの話だと「価値判断基準という概念に数学的な構造を与えたけど、だからなに?」というかんじかと思いますが、ここから数学のパワーを存分に発揮して面白い発見をしていきたいと思います。


合計で判断する価値判断基準

 

Population Ethicsにおける)価値判断基準の具体的な例として合計によって比較する基準を考えてみましょう。

 

これは例えばu=(10,20,30,10)v=(200,50)\Omegaから取ってきた場合には、\Sigma u_i\ =\ 10+20+30+10\ =\ 70\Sigma v_i\ =\ 200+50\ =\ 250を比較してvの方が望ましいと判断します。他にもu=(20,20)v=(10,10,10,10)であれば同等に望ましいと判断します。

 

標準的な価値判断基準においても同じように合計で比較する基準を考えることはできますが、そこでは起きなかったような問題が今回は起きてしまいます(次元が違うベクトル同士の比較も許容することで初めて起きる問題があります)。

それは、すごく大きな幸せをすごく劣悪な幸せ(ただし0よりは大きい)が量を増やせば常に凌駕してしますことです。

例えばu=(1000,10000,1000,...,1000)という全員の幸せの水準が1000である1億次元ベクトルを考えてみましょう(そして1000という水準はとても幸福であるとイメージしましょう)。この社会状態は"かなりいいかんじです。

しかし、例えば0.1というその人生を生きるのがいいのか生きない方がいいのかその個人にとってよく分からないけど微笑に生きた方がいいという水準を考えてみます。

すると0.1の水準でも社会の人数をめちゃくちゃ多くしていったら合計で比較をする基準においては、いつかはuよりも良い社会状態だと判断されることになってしまいます。これはちょっとどうなのかなという気がしてきます。

つまり、合計で比較する価値判断基準の問題点として、全員が非常に高い幸せの水準を持っているn人からなる社会状態を考えたときに、どんなに低い幸せの水準(ただし0よりは大きい)でも人数を増やせば前者よりも望ましいと判断されることが挙げられます。

そのような性質を持つ価値判断基準はRepugnant Conclusion(嫌な結論)を導く言われます。この概念をしっかりと定義しておきます。

Popoulation Ethicsにおける)価値判断基準がRepugnant Conclusionを導くとは、

 

任意の正の実数aと任意の自然数nを考えます。そしてn人全員がaの幸せの水準を持つ社会状態(a,a,...,a)を考えます。次にaよりは小さい正の実数bを考えます。このとき必ずある自然数mが存在して、m人全員がbという幸せの水準を持つ社会状態を考えるとそちらの方が前者よりも望ましいとその価値判断基準が判断することである。

と定義されます。

ちなみに、Repugnant Conclusionを導かない価値判断基準には何があるかというと、例えば平均による比較は導きません。また、合計ではなく積で比較するような価値判断基準も導きません。

これらを確認するためにはaとして10nとして2を取ってきて(10,10)という社会状態を考える。そしてbとして0.9という幸福の水準を取ってくるとどのような人数mを持ってきても前者には勝てないことが分かります。

合計によって比較するという具体的な価値判断基準について考えることで、我々はRepugnant Conclusionという概念(正確には価値判断基準がRepugnant Conclusionを導くとはどういうことか)の定式化を行いました。


平均で判断する価値判断基準

 

仮にRepugnant Concousionを導かなければなんでもいいや、ということであれば平均による比較とかをてきとーに用いれば良いでしょう。しかし、平均によって比較する価値判断基準には(Repugnant Conclusionを導くこととは別の)次のような問題点があります。

それは、最初にu=(100,100,100)という社会状態を考えます。そして20という幸せの水準を考えます。このときuをそのままにした社会状態(つまりuそのもの)とu20を加えた(100,100,100,20)という社会状態を考えるとuそのままの方が望ましいと判断されてしまいます。

合計による比較ではこういうことは起きませんが平均による比較ではこういうことが起きてしまいます。

そんなのしょうがないじゃんという気もしてくるのですが、20という水準は0よりも高いわけですから、個人にとっては「その人生を経験しないよりは経験した方が良い人生」なわけです。にも関わらず20を追加しない方がいいよねというのは、

「社会の判断として、個人にとっては生きるに値する人生でも社会にとってはその人生がない方が望ましいと判断していること」になってしまっています。そう言われれると、たしかに平均による比較にもまた問題点がありそうだなという気がしてきます。

価値判断基準がこのような問題点を起こさないとき(つまり正の幸せの追加が望ましさを落とさないとき)、その価値判断基準はMere Additionを満たすといいます。Repugnant Conclusionと違ってMere Additionは満たしていて欲しい性質として定義していることに注意してください。

Population Ethicsにおける)価値判断基準がMere Additionを満たすとは、

 

任意の社会状態u\Omegaから取ってきます。次に0より大きい幸福の水準aを考えます。このときuuaを付け加えた(u,a)の比較についてその価値判断基準が(u,a)\ \succ\ uもしくは(u,a)\ \sim\ uと判断することである。

と定義されます。

 

Ng(1989)の不可能性定理

ここまでで(Popuolation Ethicsにおける)価値判断基準という概念の定義をした上で、その具体的な価値判断基準として合計による比較と平均による比較を考えることで、

価値判断基準に満たして欲しくない性質としてRepugnant Conclusion、満たして欲しい性質としてMere Additionが出てきました。

この2つ以外にも満たして欲しいと考えられる性質や満たして欲しくないと考えられる性質は色々と考えられますが、この2つはPopulation Ethicsという分野において初期から議論になっている重要な性質です。

そして実は驚くことに、(非常に納得的かつ弱い2つの条件のもとで)Mere Additionを満たす価値判断基準はRepugnant Conclusionを導くことを示すことができます。

これがNg(1989)が発見した不可能性です(つまり、これから紹介する非常に納得的な2つの条件とMere Additionを同時に満たしながらRepugnant Conclusionを導かない価値判断基準は存在することが不可能であることをを示しました)。

もちろん不可能性を示しただけでは「じゃあ、具体的にはどういう価値判断基準が望ましいのか?」については答えられませんが、価値判断基準のデザインを考える際の大きな足がかりになります。

なお、非常に納得的かつ弱い2つの条件は何かというと、それは「Minimal Increasingness」という条件と「Minimal Equality」という条件です。定義しておきます。

 

Population Ethicsにおける)価値判断基準がMinimal Increasingnessを満たすとは、

任意の2つの次元が同じベクトルu,v\Omegaから取り出したときに、u=(5,5,5)v=(4,4,4)のようにどちらもコンスタントなベクトルになっており(u,vがいずれも定値ベクトルであり)、かつuの方がvよりもベクトルの大小の意味で厳密に大きいならば、その価値判断基準がu\ \succ\ vと判断することである。


と定義されます。これは上に書いたように(5,5,5)(4,4,4)だったら前者の社会状態の方が望ましいと判断してね、他にも(100,100,100,100)(1,1,1,1)だったら前者の方が望ましいと判断してねということです。

Minimal Increasingnessは非常に納得的であるだけでなく弱い要求であり、例えば(4,9,5)(1,2,2)などについては前者の方がどの成分も大きいですがこのようなコンスタントではないベクトルの比較について何も要求しません。

もう1つの条件であるMinimal Equalityは次の通りです。

Population Ethicsにおける)価値判断基準がMinimal Equalityを満たすとは、

 

任意のn次元ベクトルu\Omegaから取ってきます。そしてu’\ =\ (\frac{1}{n}\Sigma\ u_i,...,(\frac{1}{n}\Sigma\ u_i)のようにuと合計が同じだがコンスタントな新しいベクトルu’を考えたときに、その価値判断基準がu’\ \succ\ uもしくはu’\ \sim\ uと判断することである。

と定義されます。これは例えばu=(10,20,30)を考えたときにu’=(20,20,20)を考えると、後者の方が望ましいか同等に望ましいと判断されるべきだと要求しています。要求としては弱いですが納得的だと思います。

まとめると、Population Ethicsにおける価値判断基準について、いま定式化したMinimal IncreasingnessMInimal Equalityの条件を価値判断基準に課すことにする場合、

「正の幸福の追加は常に社会的に望ましいと判断されるべきである」というMere Additionを要求すると、必ず「高い幸福の度合いは常に人数の多さによって低い幸福に負けてしまう」というRepugnant Conclusionを導いてしまう。

これがNg(1989)の発見した不可能性定理です。

つまり、我々は理想的な価値判断基準について考える際に、(Minimal IncreasingnessMInimal Equalityはあまりに納得的であるため)、Mere Additionを諦めるか、Repugnant Conclusionが導かれることを諦めるしかないとなるわけです。

Ng(1989)の証明

それでは証明をしてみたいと思います。

示したいのは、Population Ethicsにおける)価値判断基準が非常に弱いが納得的な条件であるMinimal IncreasingnessMinimal Equalityを満たすとする。このときその価値判断基準がMere Additionを満たすのであれば、必ずRepugnant Conclusionを導いてしまうことです。

それではこれを証明するために、一応証明Repugnant Conclusionの定義を確認しておきます。

Popoulation Ethicsにおける)価値判断基準がRepugnant Conclusionを導くとは、

任意の正の実数aと任意の自然数nを考えます。そしてn人全員がaの幸せの水準を持つ社会状態(a,a,...,a)を考えます。次にaよりは小さい正の実数bを考えます。このとき必ずある自然数mが存在して、m人全員がbという幸せの水準を持つ社会状態を考えるとそちらの方が前者よりも望ましいとその価値判断基準が判断することである。


それでは証明します。

Proof:

いまMimimal IncreasingnessMinimal EqualityMere Additionの3条件を満たす任意の価値判断基準に注目する(そのような価値判断基準は複数ありますがその中の任意の1つを固定して注目します)。

この注目している価値判断基準が具体的にどういうものかは分かりませんが、3つの条件を満たしていることだけが分かっています。いまからこの注目している価値判断基準がRepugnant Conclusionを導くことを示します。

そのためにまずは、正の実数aと自然数nを任意に取ってきて固定します。注目するのは(a,....a)というn人からなる社会状態です。

次に任意にaよりも小さい正の実数bを取ってきて固定します。この幸福の水準bを全員が持つ社会で、いま注目している(a,....a)という社会状態よりも(いま注目している)価値判断基準によって厳密に望ましい判断されるものが存在すると分かれば、いま注目している価値判断基準がRepugnant Conclusionを導くと分かり証明終了です。

もう少し具体的にいえば、ある自然数mが存在して(b,....,b)というbm個並んだ社会状態を考えると、いま注目している(a,....a)よりも価値判断基準が望ましいと判断してくれることを示ればRepugnant Conclusionが導かれて証明終了です。

ここで、bよりもさらに小さい正の実数cを1つ考えます。そして(c,c,...,c)というベクトルを考えます(そしてこのとき次元をめちゃくちゃ大きくしておきます)。

そして、(a,...,a)にこのベクトルを追加した(a,...,a,c,...,c)という新たなベクトルを考えます。an個並んでおり、cはそれよりも大量に並んでいるイメージです(本当は具体的な個数を明示する必要がありますが直感を得るためにはめちゃくちゃ多く並んでいると思えばOKです)。

この新しいベクトル(a,...,a,c,...,c)(a,..,a)の比較を考えると、cは正の実数であるため注目している価値判断基準がMere Additionを満たしていることから、(a,..,a)よりも(a,...,a,c,...,c)の方が望ましい(or 同等に望ましい)と判断されることになります。

Mere Additionは正の実数を追加しても社会的望ましさは落ちない(望ましくなるか同等のまま)であるという条件だったことを思い出してください。これが第一ステップです。

次に(a,...,a,c,...,c)を次元と合計を変えずにコンスタントなベクトルにしたものを考えます(MInimal Equalityを使えるように"ならす"わけです)。これを(d,...,d)で表します。

すると、いま注目している価値判断基準がMinimal Equalityを満たすことから(d,...,d)(a,...,a,c,...,c)よりも望ましい(or 同等に望ましい)と判断されます。これが第二ステップです。

ここで(a,...,a,c,...,c)においてcの数が非常に多いとしたことからdcにとても近い数になっているはずであることを確認してください。

また、cbよりも小さい数であったことを思い出すとdbよりも小さい数であると考えることができます。

すると、(d,...,d)と同じ次元で全ての成分がbである(b,...,b)というベクトルを考えるとMinimal Increasingnessより(b,...,b)の方が(d,..,d)よりも望ましいと判断されることになります。これが第三ステップです。

以上を合わせると、

いま注目している価値判断基準は、

(a,...,a)より(a,...,a,c,...,c)の方が同等以上に望ましいと判断する。

(a,...,a,c,...,c)より(d,...,d)の方が同等以上に望ましいと判断する。

(d,...,d)より(b,...,b)の方が望ましいと判断する。

ことが分かりました(念のための注意ですが(a,...,a)(b,...,b)のベクトルの次元は大きく異なることに注意してください)。

ということは、この価値判断基準は(補足において説明した整合性の条件を持っていると想定すると)(a,...,a)よりも(b,...,b)の方が望ましいと判断することになります(そうしないと判断の整合性が取れません)。

上の議論はまさしく、ある自然数mが存在して(a,...,a)という高い幸せの水準がn個並んでいる社会状態よりも、(b,...,b)という低い幸せの水準がm個並んでいる社会状態の方が、いま注目している価値判断基準により望ましいと判断されることを示しています。

したがっていま注目している価値判断基準はRepugnant Conclusionを導くことになります。これをもって、Minimial IncreasingnessMinimal EqualityMere Additionを満たすどのような価値判断準もRepugnant Conclusionを導くことが証明出来ました。


まとめと補足

今回はNg(1989)の不可能性定理(非常に弱い2つの条件のもとで、Mere Additionを満たしてRepugnant Conclusionを避けるような価値判断基準をデザインすることは不可能であること)を中心に、Population Ethicsという分野について紹介しました。

今回示した不可能性は非常に重要です。これが示された以上、Mere Additionを満たすことを思い切って諦めるか、Repugnant Conclusionを避けることを思い切って諦めるか、どちらかを少し弱める(Mere Additionより弱いweak Mere Additionと呼びたくなるような弱めた概念を考えるなど)かなどをしないといつまでたっても具体的な価値判断基準には辿り着けないことが分かります。かなり偉大な不可能性定理です!

また、今回出てきた条件以外に重要な条件がないか探してみたり、不可能性を示すだけではなく具体的なデザインについての「可能性」についても数学にを使って探求できるのでそちらも重要です(実際にこのような方向の研究は今回の不可能性定理以降多く出てきました)。

大学院ではこんなかんじに、数学を使って社会に関する哲学的な問いについて考えています!

Fin.

 

選択肢の集合上のOrderingを、人々の幸福の情報を主に用いて作る(1)

 

このシリーズでは、

「社会が取りうる選択肢の集合(or あり得る社会状態の集合)Xが与えられたときに、『人々の幸福の情報』を主に用いながら、(社会にとっての望ましさと解釈される)X上のorderingを定める問題」

について扱っていきます。

要は「社会にとってどの選択肢が望ましいかを人々の各選択肢における幸福の度合いの情報を主に使いながら考えよう」ということです。

この記事ではこの領域における4つの大きな枠組みを紹介します。次の記事ではそれらの枠組みをより扱いやすい枠組みにどうやって落とすかについて紹介します。そしてその後の記事ではそれらの枠組みの中でどういうことを考えるかについて(具体的な評価関数の公理を用いたデザインについて)紹介します。

規範的な領域の前提知識はあまり必要としませんが(ただしアローの不可能性定理を数学的にどう記述するかくらいの知識は前提にします)、分野の概要紹介というよりはちゃんとした内容を扱えたらと思っています。この領域の教科書を読むことがあるけど枠組み間の整理があまりできていないみたいな方(つまり1年前の自分)や、ミクロ経済学の他分野を専攻しているがこの領域について丁寧な理解をしたい方にFitする内容だと思います。

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このシリーズにおける世界観

抽象的なことを扱うのでどういう世界観で今回の理論を捉えるかにはいくつかの候補があると思います。どの世界観で捉えてもいいと思うのですが、個人的には次のような世界観が分かりやすいと思っています(今回に限ってはこの世界観が分かりやすそうってだけです)。

自分はある社会を外から(上から)見ている存在で、その社会の人々の幸福の度合いなどの情報を見ながらシステマティックに各選択肢について社会的評価をくだすことが求められている。

人々の集合について、あたかも「社会さん」という人格があるかのように想定して、その人格の選好をどう作るか考えるみたいな世界観よりも、上から社会を見ている自分が「この場合は各選択肢はこんな順序で社会的に望ましそうだよね」と判断をするみたいなかんじです。

4つの大きな枠組み

大きな枠組みを4つ紹介します。このシリーズの後ろの記事はどれもこれらの枠組みを舞台に展開されることになります。

 

枠組みは、社会を構成する個人の集合が固定(Fix)されているか/可変(variable)であるかという観点と、non-welfare information(人々の幸福以外の情報)を明示的に入れるか/入れないかという観点で4つに分かれます。

一番単純なのは、社会を構成する個人の集合が固定されており、人々の幸福の情報だけを用いる枠組みです。

枠組み1:個人の集合固定・non-welfare informationなし。

社会を構成する個人の集合をN=\{1,2,...,n\}とする(2≤n\lt \infty)。社会が取りうる選択肢の集合をXとする(3≤|X|)。

U_i:X\rightarrow \mathbb{R}i\in Nさんの各選択肢における幸福の度合いを表す関数とする(効用関数と呼ぶことが多いが、「選好」以上の情報を持っていると考えることが多く標準的なミクロ経済学における「効用関数」との区別を明確にするために幸福関数と呼んでおく)。U=(U_1,...,U_n)を幸福関数プロファイルと呼ぶ。幸福関数プロファイル全体からなる集合を\mathcal{U}とする。

また、X上のOrdering(完備性と推移性を満たす二項関係)全体からなる集合を\mathcal{O}とする。

ここまでの準備の上で、

社会的評価関数は、関数F:\ \mathcal{U}\ \rightarrow\ \mathcal{O}と定義される。

Fは各幸福関数プロファイルU\in \mathcal{U}に対して、X上のOrderingF(U)\in \mathcal{O}を割り当てる関数です。

イメージとしては下図のようになります(なお、図において2つのプロファイルしか載せていませんが、実際にはあり得る全てのプロファイルについてFX上のOrderingを1つ割り当てます)。

 

枠組み1において見ましたが、各選択肢についての情報は人々の幸福度合いの情報だけで、各選択肢における表現の自由の度合いや自然環境の状態などを明示的に社会評価の決定において用いることができませんでした。

表現の自由や自然環境が重要なのは人々の幸福に貢献する限りにおいてであるという立場ならば枠組み1で良いのですが、表現の自由や自然環境など人々の幸福以外の情報(non-welfare information)がそれ自体で社会評価の決定において意味を持つとするならば次のような枠組みを考える必要が出てきます。


枠組み2:個人の集合固定・non-welfare informationあり。

社会を構成する個人の集合をN=\{1,2,...,n\}とする(2≤n\lt \infty)。社会が取りうる選択肢の集合をXとする(3≤|X|)。

(まずは枠組み1と同じように幸福の情報:welfare infromationについて扱えるようにしておく)

U_i:X\rightarrow\ \mathbb{R}i\in Nさんの各選択肢における幸福の度合いを表す関数とする。U=(U_1,...,U_n)を幸福関数プロファイルと呼ぶ。幸福関数プロファイル全体からなる集合を\mathcal{U}とする。

(non-welfare informationも扱えるようにする)

K_i:X\rightarrow\ S_iは各選択肢についてその選択肢におけるiさんについてのnon-welfare informationを割り当てる関数である(iiさんのnon-welfare information functionと呼ぶことにする)。ここでS_i\ \neq \emptysetiさんのあり得るnon-welfare informationの状態全体からなる集合。例えば健康状態を扱うのであればS_i=\{g,b\}としてgは良い健康状態をbは悪い健康状態を表すなどである。

K_0:X\rightarrow\ S_0は各選択肢について社会に関するnon-welfare informationを割り当てる関数である。S_0\neq \emptysetは社会のあり得るnon-welfare informationの状態全体からなる集合である。例えばその社会における自然環境の状態を扱うのであれば(-\infty,\infty)として値が大きいほど自然環境が良いとするなど。

K=(K_0,k_1,...,K_n)をnon-welfare informationプロファイルと呼び、それ全体からなる集合を\mathcal{K}で表す。

また、X上のOrdering全体からなる集合を\mathcal{O}とする。

ここまでの準備の上で、

社会的評価関数は、関数F:\ \mathcal{U}\ \times\  \mathcal{K}\ \rightarrow\ \mathcal{O}と定義される。

この枠組みにおいてはこのように定義されたFについて考えていくことになります(今後の手順としてはこのFに持っていて欲しい性質を公理として定式化した上で、不可能性定理を示したりcharacterizationを行います。いまは枠組みの紹介のみですが今度の記事でこのようにして用意した舞台=枠組みの中でどういうことを考えていくかを紹介します)。

Fのイメージとしては下図のようになります。

(なお図においては、S_0=S_1=\ \cdots\ =S_n=\{g,b\}イメージしてみましたが、例えばS_1S_2が異なる集合であっても大丈夫です。

また、プロファイルが先ほどの図では2つだったのにこの図では1つになっているのは単にスペースの問題です)。

 



 


枠組み2は枠組み1をnon-welfare informationを明示的に扱えるようにするという観点から拡張しましたが、いまから紹介する枠組み3では枠組み1の個人の集合が固定されている点を拡張します。

この拡張は未来に関する社会問題を扱うときなどに重要になってきます。というのも例えば子育て支援政策についてxyという選択肢があったとして、xを取った場合(これを例えば子育て支援拡充政策とする)と、yを取った場合(これを例えば子育て支援をあまりしない政策とする)を比べると、xを取った場合の方が将来生まれてくる子どもの数は多くなると予想されるみたいなことがあるからです。現在何を選択するかによって社会を構成する個人の集合が変化するわけです。

枠組み1や枠組み2では社会を構成する個人の集合は固定されていたため、このような状況の分析をすることはできません。そこで次のような枠組みを考えることになります。

 


枠組み3:個人の集合可変・non-welfare informationなし。

社会が取りうる選択肢の集合をXとする。

潜在的な個人全体からなる集合を\mathbb{Z}_{++}とする(自然数全体からなる集合なので\mathbb{N}の方が表記としては普通かもしれないが他にもNとかそれに近い表記をよく用いることになるため見やすさ的にもこちらを採用しておく)。

(「潜在的な個人の集合」というアイディアを用いることで社会を構成する個人の集合を可変にする定式化をしている。各選択肢について、潜在的な個人の集合から有限の個人が選ばれてその選択肢において社会を構成する個人の集合が決まる。)

\mathbb{Z}_{++}の有限部分集合(ただし空ではない)全体からなる集合を\mathcal{N}で表す(つまり、\{1,2,5\}\in \mathcal{N}\{5,10\}\in \mathcal{N}などが成り立つ)。ありうる「(実際に)社会を構成する個人の集合」全体からなる集合が\mathcal{N}である。

(これで個人の集合を可変にする定式化が上手くできた。次に枠組み1や2において3≤|X|)と仮定したことに対応する仮定をおく)

N(x)\subset\ \mathbb{Z}_{++}で選択肢x\in Xにおいて社会を構成する個人の集合を表す。その上で、任意のN\in \mathcal{N}について、3\ ≤\ |\{x\in\ X\ |\ N(x)=N\}|を仮定する。

つまり、どの個人の集合Nに注目しても枠組み1や2と同じように3つ以上の選択肢が存在するということです(枠組み1が「枠組み3においてNを1つ固定した時」になっているイメージ)。

(幸福関数の定義。ただしiさんが生きていない選択肢においてiさんの幸福度を考えるのは変なのでそこには注意)

i\in \mathbb{Z}_{++}について、X_iをその選択肢のもとでiさんが生きる選択肢の集合とした上で(つまり、X_i = \{x\in\ X\ | i\in N(x)\})、iさんの幸福関数をU_i:X_i\ \rightarrow\ \mathbb{R}と定義する。

全ての潜在的な個人についての幸福関数を組にした、U=(U_1,U_2,...)を幸福関数プロファイルと呼び、それ全体からなる集合を\mathcal{U}で表す。

また、X上のOrdering全体からなる集合を\mathcal{O}とする。

ここまでの準備の上で、

社会的評価関数は、関数F:\ \mathcal{U}\ \times\  \mathcal{K}\ \rightarrow\ \mathcal{O}と定義される。

Fのイメージとしては下図のようになります(選択肢の数は本来はもっと多くなくてはいけませんがあくまでイメージはこんなかんじです。また、各個人について全ての選択肢について幸福度合いの値が決まっているわけではないことに注意してください)。



ここまでで、枠組み1をnon-welfare informatioの観点から拡張して枠組み2を考えて、社会を構成する個人の集合の観点から拡張して枠組み3を考えましたが、その両方の拡張を行なったのが次の枠組みです。目新しいことはなく単純に枠組み2と枠組み3を組み合わせたかんじです。


枠組み4:個人の集合可変・non-welfare informationあり。

社会が取りうる選択肢の集合をXとする。

潜在的な個人全体からなる集合を\mathbb{Z}_{++}とする。\mathbb{Z}_{++}の有限部分集合(ただし空ではない)全体からなる集合を\mathcal{N}で表す。

N(x)\subset\ \mathbb{Z}_{++}で選択肢x\in Xにおいて社会を構成する個人の集合を表す。その上で、任意のN\in \mathcal{N}について、3\ ≤\ |\{x\in\ X\ |\ N(x)=N\}|を仮定する。

i\in \mathbb{Z}_{++}について、X_iをその選択肢のもとでiさんが生きる選択肢の集合とした上で、iさんの幸福関数をU_i:X_i\ \rightarrow\ \mathbb{R}と定義する。

全ての潜在的な個人についての幸福関数を組にした、U=(U_1,U_2,...)を幸福関数プロファイルと呼び、それ全体からなる集合を\mathcal{U}で表す。

i\in \mathbb{Z}_{++}について、iさんのnon-welfare information関数をK_i:X_i\ \rightarrow\ S_iとする。ここでS_i\ \neq \emptysetiさんのあり得るnon-welfare informationの状態全体からなる集合。

K_0:X\rightarrow\ S_0を各選択肢について社会に関するnon-welfare informationを割り当てる関数とする。S_0\neq \emptysetは社会のあり得るnon-welfare informationの状態全体からなる集合である。

K=(K_0,k_1,K_2,...)をnon-welfare informationプロファイルと呼び、それ全体からなる集合を\mathcal{K}で表す。

また、X上のOrdering全体からなる集合を\mathcal{O}とする。

ここまでの準備の上で、

社会的評価関数は、関数F:\ \mathcal{U}\ \times\  \mathcal{K}\ \rightarrow\ \mathcal{O}と定義される。

Fのイメージとしては下図のようになります。



以上で4つの大きな枠組みについて見てきました。

あくまでこれらは枠組みで、実際の研究ではそれぞれのFについてその性質を考えていくことになります(もちろん枠組みについての研究もあるだろうしその発明が重要だったりはするけど、枠組みだけではどういう社会評価をすればいいかについては何も教えてくれません)。


最後に3つの重要な点を補足しておきます。


Informational basisについて

まず、「幸福の値は個人間比較可能なのか?また基数的な意味を持っているのか?」など幸福関数の解釈についてです。

標準的なミクロ経済学における効用関数(つまり選好の効用表現)であれば、その値を個人間比較することに意味はないし序数的な意味しか持っていないことが明確ですが、幸福関数については定義の時点ではあえてこの辺は曖昧にしています。

「じゃあ、個人間比較できるかどうか基数的な意味を持っているかについては分からないままなってこと?」となってしまいますが、これについては、社会的評価関数Fについて条件を課す(restrictionを設ける)ことで、その意味をはっきりさせます。

例えば枠組み1において「幸福関数は個人間比較不可能で序数的な意味しか持たない」という立場を取りたければ、枠組み1のFについて

任意の幸福関数プロファイルU,V\in \mathcal{U}について、「n個の単調増加関数\varphi_1: \mathbb{R}\rightarrow \mathbb{R} ,..., \varphi_n: \mathbb{R}\rightarrow \mathbb{R} が存在して、任意のiと任意のxについてU_i(x)=\varphi_i(V_i(x))ならば、F(U)=F(V)」が成り立つ。

という条件を課します。これはつまり「幸福関数が個人間比較不可能で序数的であるとしたら同じ意味として扱うべきUVについてはFは同じOrderingを割り当てるべき」という条件です。ちなみにこの条件をFに課すと枠組み1は実質的にアローの不可能性定理の枠組みと同じになります。*1

幸福関数について「個人間比較は完全にできるが序数的な意味しか持っていない」という立場を取りたい場合にはそれに応じた条件を課すことになります。

幸福関数に関する色々な立場を統一的に扱うために、定義の時点では幸福関数の意味は曖昧にしているわけです。


「明示的には」扱えない

枠組み1と枠組み3については、non-welfare informationは枠組み2と枠組み4のようには入っていませんが、例えば選択肢xを選択肢yを優遇するようなFを考えることもでき(例えば全員にとってx,yが同じ幸福度合いになっている場合にもx\succ yとするなど)、この場合は「選択肢の名前」というwelfare(well-being)には関係ない情報が利用されていることになります。

 

したがって、枠組み1や枠組み3においても枠組み2と枠組み4のように利用することはできませんがnon-welfare informationをまったく使えないと言っていいかは微妙であり、「社会的評価において、non-welfare informationを明示的には扱うことができない枠組み」と言うのが良いかもしれません。


上記の枠組みは多くに対処できるが、決して網羅的ではない

このシリーズにおけるこの後の記事では、この4つの枠組みをどうやってより簡単な枠組みに落とすかの話をしたり、4つの枠組み(やそれを簡単にした枠組み)において何が言えるかについて紹介していきます。そしてそれは広い適応範囲を持っているようにも見えますが、規範的な領域における枠組みを網羅しているわけではありません(というか全然カバーできていません)。

そもそも「未来について考えるなら、現在から未来に渡る社会を構成する個人の集合は無限になることを想定したくもなるわけであり(そうしないと人類はどこかで滅亡するケースしか扱えない)、今回の4つの枠組みでは有限にしかできていないがそれは問題があるのではないか」みたいなツッコミはあるでしょうし、

もう少し大きな話でいえば、例えば選択肢の集合であるXは抽象的に扱っているだけで、「公平性」などについてはあまり考えることはできません(有名なNo-Envyなどの公平性を定式化するにはXについて構造を入れてあげなくてはいけません)。

ただし今回くらいの整理をすることで社会的選択理論における規範的な領域の見晴らしはそれなりによくなるかなとは思います。


次回も「社会的評価の仕組み」の具体的な内容ではなくその枠組み(舞台づくり)の話が続きます。*2

 

 

 

 

 

 

*1:正確にいうと、効用関数による表現を持たない選好もあるのでXが有限か加算無限の時には同じになるというかんじに考えておくといいかなと思います。

*2:今回参考にしたのは、Blackorby、Bossert、Donaldson(通称BBD)の本である「Population Issues in Social Choice Theory, Welfare Economics, and Ethics」のChapter2,3、Multi-profile welfarism:A generalization(SCW,2005)、Handbook of Social Choice and WelfareのChpter10「Social welfare functionals and interpersonal comparability」です。